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横浜シーサイドラインはなぜ逆走した? 仕組みを解説

2019(令和元)年6月1日に発生した、横浜シーサイドライン・新杉田駅での逆走事故

先週の話ですが、事故の調査をしていた運輸安全委員会は、事故の原因(と思われるもの)を発表しました。運輸安全委員会のホームページでも、現段階での調査資料が公表されています。

http://www.mlit.go.jp/jtsb/iken-teikyo/seasideline20190614.pdf

……と運輸安全委員会が公表した資料へのリンクを張っても、おそらく誰も読まないでしょうから、私がなるべく噛み砕いて解説します。

断線したのは「進行方向を決める線」

ニュースでも報じられていますが、調査の結果、車両内のケーブルに断線が見つかりました。切れていたのは、「列車の進行方向を決めるための線」です。

ケーブルの断線が、どう逆走につながるのか?

列車を動かすためには、車輪とつながったモーターを回転させますよね。このとき、「モーターをどちら方向に回転させるか」、すなわち進行方向を決めなければなりません。

横浜シーサイドラインの場合、進行方向を決定させるための命令は、駅装置から車両に伝えられるのですが、この命令は「列車の進行方向を決めるための線」に電流を流すことによって伝えられます(→線に電流が流れている状態を加圧といいます)。

「列車の進行方向を決めるための線」は二本あります。F線R線です。

F線 この線が加圧されると、進行方向は下り(新杉田→金沢八景)
R線 この線が加圧されると、進行方向は上り(金沢八景→新杉田)

つまり、どちらの線が加圧されたか(=どちらの線に電流が流れたか)によって、進行方向が決定されるわけですね。

F線・R線が両方とも「無加圧」だった

さて、ここからが本題ですが……

本事故において、新杉田駅から折り返し下り・金沢八景方面へ向かいたかった本列車は、F線を加圧する必要がありました。ところがF線が断線しており、駅装置が命令を出したにもかかわらず、F線は加圧されなかった。

「F線は無加圧」の状態だったわけです。

そしてR線ですが、駅装置が加圧の命令を出したのはF線に対してですから、「R線も無加圧」だったのです。

つまり、「F線もR線も無加圧」だった。

無加圧の場合は進行方向はどう決まる?

繰り返しますが、F線とR線は「列車の進行方向を決めるための線」。それが両方とも無加圧の状態でした。

では、F線もR線も無加圧の場合、列車の進行方向はどうやって決まるのか?

直前の状態を維持というのが横浜シーサイドラインの仕様です。

「直前」とは、上り列車が新杉田駅に到着したところですので、上り方向へ列車が進む状態です。

折返し下り列車が発車しようとした時点で、F線・R線の無加圧により、進行方向は直前の上りを維持していました。ですので、下りへ動くべき列車が上りへ、つまり逆走してしまった。これが事故の原因(だと思われる)とのことです。

トラブルが顕在化しないと欠陥には気づきにくい

ようするに、「F線もR線も無加圧の場合、直前の状態を維持する」という仕様の欠陥を衝かれたわけですね。

横浜シーサイドラインの会見では、社長が想定外という言葉を使っていましたが、はたしてこれは想定外と言ってよいのか?

「そんな仕様になっているんじゃ、逆走が起きるのも当然では」
「これくらいのことは予想できたんじゃない?」

たぶん、今この記事を読んでいる人の中には、そう思っている人もいるでしょう。

しかし現実には、横浜シーサイドラインはそうした事態を想定できませんでした。ついでにいうと、車両等を含めたハードを設計・納入したメーカーも、監督省庁である国土交通省も、誰も欠陥を見破れなかったわけです。

そこがトラブル予測の難しいところなのです。みなさんも経験があると思いますが、トラブルが起きて事態を分析した後に、

「なんでこんな簡単な欠陥を見逃したんだろう」
「よく考えれば、こんなことになって当然だった」

そう思うことがあります。この「後からならなんとでも言える」ことを後知恵バイアスといいますが、人間の陥りやすい心理状態ですね。

過去の事故やトラブルをいろいろ知っておけば、それだけリスクが予測できる幅は広がり、対策を立てることができます。ここに、歴史という学問の意味や重要性があります。私も一人の鉄道マンとして、今回の事故を教材とし、将来のリスク予測に生かしていきたいと思います。

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