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台風での計画運休 運転再開に時間が掛かるのはなぜ?

JR九州は台風10号の影響で、9月7日は全線で運転見合わせ。7日の昼頃には台風が抜ける見込みだが、8日も引き続き、始発から全線で運転を見合わせる。安全確認ができた路線から、順次運転を再開する。(2020/9/6)

JR九州を利用予定の人は、公式ホームページで最新情報を確認しましょう。

さて、この情報を見て、次のように感じた人はいませんでしょうか?

「7日の昼には台風が抜けるじゃん。それなのに8日も始発から運転見合わせとか、さすがに時間かかりすぎじゃね?」

もっともな意見ですが、いろいろ理由があります。今回の記事では、その理由の一つを説明し、JR九州の弁護を行いたいと思います(笑)

運転を長時間見合わせるとレールに錆が浮く

2020年の台風10号で、JR九州では以下のような措置を取りました。

  • 6日の午後から、各線で順次運転見合わせ
  • 7日は終日、全線で運転見合わせ
  • 8日も、始発から運転見合わせ

7日が終わった段階で、列車が最後に走ってから、24~36時間が経過しているわけです。そこに、海水で発達して塩気を含む台風が通り過ぎて行った。

すると、何が起きるかわかります?

鉄でできたレールの表面にが浮きます。列車があまり入線しない線路、レールの表面が茶色く錆びているのを見たことありませんか?

普段は、列車通過時に車輪がレール表面を磨くので、錆は浮いてきません。しかし、今回のように列車がまったく走らないと、場合によっては1日とかで簡単に錆が浮くんですよ。

レールに錆が浮くと信号機や踏切に異常が出ることも

「レールに錆が浮いたって、別に列車は走れるんじゃないの?」

そうですね、確かに物理的に列車が通るのには支障ありません。レールに錆が浮いているからといって、列車が脱線するわけではないのです。

ではレールの錆の何が問題かというと、信号機や踏切動作に影響することがあるのです。具体的には、以下のような不具合が起こりえます。

  • 赤信号が表示されるべき場面で、青信号が表示されてしまう
  • 列車が踏切に接近しても、踏切が動作を始めない

これ、一歩間違えば大事故です。なぜ、レールが錆びるとそんな不具合が起きるのか?

専門的な話になりますが、できるだけ簡単に説明すると……

信号機や踏切の動作には、ようするに「車両がどこにいるか?」という位置の検出が必要です。たとえば踏切だったら、車両が近づいたら動作、行ってしまったら動作解除。

これって、「車両がどこにいるか?」を機械側が把握できてこそですよね。

この車両位置の検出に、電気回路を使用しています。ちょっと難しいですが、鉄である「レール」と「車両の車輪」を電気回路の一部として用いることで、車両位置を検出する。イメージとしては↓の図です。

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鉄でできたレールと車輪の間に電流が流れて電気回路を構成

ところが、レールが錆びると、レールと車輪の間に錆が介在して、電流がスムーズに流れなくなる。↓の図のようなイメージです。

f:id:KYS:20200907163746p:plain

レール表面が錆びると車輪への通電が阻害される

早い話、錆によって通電がカットされ、電気回路がうまく構成されないのです。それが原因で車両位置の検出がうまくいかなくなり、信号機や踏切の動作に異常が出る、というわけ。

最初の列車は動作確認のために時間が掛かる

実際に列車を走らせれば、レールの表面は磨かれて錆が落ちます。しかし、最初に走る列車(=安全確認のための試運転列車)は、どうしても錆の上を走らなければいけないわけで……。

つまり、最初の列車が走るときは、踏切ならば正常に動作していない、つまり警報機が鳴っていなかったり、遮断桿が降りていない可能性があります。

そこで、踏切手前にいちいち一旦停車し、踏切が正常に動作しているのを確かめる、という具合です。時間が掛かることが容易に想像できるでしょう。

台風で24時間とか36時間とか運転を見合わせると、レールの錆問題がどうしても避けられません。

もちろん他にも理由──単純に路線が長いとか、合理化政策で保守係員が足りないとか──はあるでしょうが、この錆問題が運転再開に時間が掛かる理由の一つ(のはず)です。というわけで、運転再開が多少遅れるのは勘弁してください。

なお、先ほど紹介した電気回路ですが、専門用語では「軌道回路」と呼ばれるものです。詳しく知りたい人は、↓関連記事からどうぞ。

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