JR九州を利用予定の人は、公式ホームページで最新情報を確認しましょう。
さて、この情報を見て、次のように感じた人はいませんでしょうか?
「7日の昼には台風が抜けるじゃん。それなのに8日も始発から運転見合わせとか、さすがに時間かかりすぎじゃね?」
もっともな意見ですが、いろいろ理由があります。今回の記事では、その理由の一つを説明し、JR九州の弁護を行いたいと思います(笑)
運転を長時間見合わせるとレールに錆が浮く
2020年の台風10号で、JR九州では以下のような措置を取りました。
- 6日の午後から、各線で順次運転見合わせ
- 7日は終日、全線で運転見合わせ
- 8日も、始発から運転見合わせ
7日が終わった段階で、列車が最後に走ってから、24~36時間が経過しているわけです。そこに、海水で発達して塩気を含む台風が通り過ぎて行った。
すると、何が起きるかわかります?
鉄でできたレールの表面に錆が浮きます。列車があまり入線しない線路、レールの表面が茶色く錆びているのを見たことありませんか?
普段は、列車通過時に車輪がレール表面を磨くので、錆は浮いてきません。しかし、今回のように列車がまったく走らないと、場合によっては1日とかで簡単に錆が浮くんですよ。
レールに錆が浮くと信号機や踏切に異常が出ることも
「レールに錆が浮いたって、別に列車は走れるんじゃないの?」
そうですね、確かに物理的に列車が通るのには支障ありません。レールに錆が浮いているからといって、列車が脱線するわけではないのです。
ではレールの錆の何が問題かというと、信号機や踏切動作に影響することがあるのです。具体的には、以下のような不具合が起こりえます。
- 赤信号が表示されるべき場面で、青信号が表示されてしまう
- 列車が踏切に接近しても、踏切が動作を始めない
これ、一歩間違えば大事故です。なぜ、レールが錆びるとそんな不具合が起きるのか?
専門的な話になりますが、できるだけ簡単に説明すると……
信号機や踏切の動作には、ようするに「車両がどこにいるか?」という位置の検出が必要です。たとえば踏切だったら、車両が近づいたら動作、行ってしまったら動作解除。
これって、「車両がどこにいるか?」を機械側が把握できてこそですよね。
この車両位置の検出に、電気回路を使用しています。ちょっと難しいですが、鉄である「レール」と「車両の車輪」を電気回路の一部として用いることで、車両位置を検出する。イメージとしては↓の図です。
ところが、レールが錆びると、レールと車輪の間に錆が介在して、電流がスムーズに流れなくなる。↓の図のようなイメージです。
早い話、錆によって通電がカットされ、電気回路がうまく構成されないのです。それが原因で車両位置の検出がうまくいかなくなり、信号機や踏切の動作に異常が出る、というわけ。
最初の列車は動作確認のために時間が掛かる
実際に列車を走らせれば、レールの表面は磨かれて錆が落ちます。しかし、最初に走る列車(=安全確認のための試運転列車)は、どうしても錆の上を走らなければいけないわけで……。
つまり、最初の列車が走るときは、踏切ならば正常に動作していない、つまり警報機が鳴っていなかったり、遮断桿が降りていない可能性があります。
そこで、踏切手前にいちいち一旦停車し、踏切が正常に動作しているのを確かめる、という具合です。時間が掛かることが容易に想像できるでしょう。
台風で24時間とか36時間とか運転を見合わせると、レールの錆問題がどうしても避けられません。
もちろん他にも理由──単純に路線が長いとか、合理化政策で保守係員が足りないとか──はあるでしょうが、この錆問題が運転再開に時間が掛かる理由の一つ(のはず)です。というわけで、運転再開が多少遅れるのは勘弁してください。
なお、先ほど紹介した電気回路ですが、専門用語では「軌道回路」と呼ばれるものです。詳しく知りたい人は、↓関連記事からどうぞ。
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