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4時間半はかかりすぎ! JR越後線での列車立ち往生

2021(令和3)年5月2日、JR越後線で列車の駅間立ち往生が発生。何らかの原因でブレーキが掛かり、動けなくなったとのこと。発生から約4時間半後、救援列車が到着して連結、次駅まで移動した。

まず、同業者としての正直な感想を書かせてください。

4時間半はないわぁ……
お客さんに迷惑かけすぎ

嫌味ではなく、純粋に疑問なのですが、逆に何をどうやったら4時間半かかるのか教えてほしい。

例えとして適切かわかりませんが、みなさんが都市部に住んでいるとして、110番・119番してから到着までに1時間かかったら、どうでしょうか? 「遅すぎだろ!」と思うでしょうが、それと同じような感覚です。

故障車の救援は普通なら2~3時間で済む

「4時間半はかかりすぎって言うけど、何時間なら適正なんだ?」

故障車両の救援は2~3時間です。一例として、以下のような時間配分です。

  • 初期対応、情報収集から救援列車派遣の決定 → 30分
  • 救援列車の手配、各種手続をして発車 → 1時間
  • 救援列車の発車から現場到着、収容まで → 30分

これでトータル2時間。多少モタついても、3時間あれば足りるでしょう。

もちろん状況によって必要な準備や手配が異なるので、ケースバイケースではありますが。たとえば、列車本数や人手の少ないローカル線だと、救援列車を仕立てるまでのハードルは上がります。また、故障列車と救援列車の連結器の形状が違うと、連結に多少時間が必要です。

ただ、今回の越後線は20分間隔で走っている区間なので、人手・車両不足はないでしょう。連結器が特殊なわけでもないので、特段時間を喰う要素はないと思います。

国土交通省からいろいろ事情を聴かれるはず

今回の4時間半立ち往生という事態、国土交通省も傍観はしないでしょう。

ここ2年くらいで、国交省は鉄道各社に対し、駅間停車についてやかましく言うようになっています。

なるべく駅間停車は発生させないようにしてください。もし発生した場合は、速やかに旅客救済を行なってください。そのための体制を検討・準備しておいてください。

そういう状況ですから、おそらく今回の件でJR東日本は、「4時間半はかかりすぎじゃない? ねぇなんで? ねぇどうして?」と国交省からネチネチ言われると思います。やっちまったな……という感じです。

考えられる故障の原因は?

さて今回、列車が立ち往生した原因は何でしょうか?

報道では、「自動でブレーキが掛かってしまった・装置が故障して誤作動?」といった情報が出回っています。これだけの情報だと粗い推測しかできませんが、たとえば以下のような原因が考えられます。

考えられる原因① ATSの故障

まず考えられるのが、「ATSの故障」です。

ATSとは、運転士がミスをしたときに、自動でブレーキを掛けて列車を停める装置です。たとえば、運転士が赤信号を見落として進入しようとした。速度制限のあるカーブに高速で突っ込もうとした。

この場合、列車を停止(または減速)させないと危険です。赤信号の冒進・制限速度オーバー時に、自動的に列車を停止・減速させてくれるのがATSです。

ATSは、ようは自動的にブレーキを掛けてくれる装置。ですから故障した場合、「ブレーキを掛けろ!」との命令が出てしまい、ブレーキがロックされることはありえます。
(ブレーキがロックされて緩まなくなることを、専門用語では「ブレーキ不緩解」と呼びます)

ATS故障の場合は「増乗」の手配で運転再開できる

で、仮にそうなった場合はどうするか? ATSがブレーキをロックするという悪さをしているので、ATSを切れば(オフにすれば)ブレーキが緩み、走行が可能になります。

ただ、ATSをオフにすると安全度が下がります。そのまま走行して、運転士がウッカリ赤信号を見落としたら事故になりますよね。

そうならないよう、運転士をもう一人運転室に派遣し、二人で信号等をチェックしながら列車を走らせます。つまり、ATSという機械に代わって、人間によるダブルチェック体制を構築することで安全を確保するわけ。

この手配は、乗務員(運転士)を増やすので増乗(読み方:ましじょう)と呼んだりします。

ただ、ここまで書いといてなんですが、今回のケースはATS故障によるブレーキ不緩解ではないようですね。単なるATS故障ならば、増乗の手配をすれば運転再開できるので、わざわざ救援列車まで出す必要はありません。

もちろん、増乗の手配も簡単ではありませんが、救援列車の派遣に比べれば100倍ラクです。運転士一人を現場に送り込むだけで済みますから。

考えられる原因② エアーコンプレッサーの故障

他に考えられる原因はないでしょうか?

「エアーコンプレッサーの故障」はありえるかもしれません。

エアーコンプレッサーとは、圧縮空気を作る機械です。鉄道車両では、圧縮空気をさまざまな部分で使っています。

  • ドアの開け閉め
  • 空汽笛
  • 車体の揺れを軽減させる空気バネ
  • 空気ブレーキ

「圧縮空気なくして列車は走れない」と言っていいでしょう。特に、ブレーキにも圧縮空気は使われているので、圧縮空気のないまま走行すると非常に危険です。

そこで、圧縮空気の量が一定を下回った場合、「これ以上走行を続けるのは危険だ」と機械が判断し、自動的にブレーキが掛かる仕組みになっています。エアーコンプレッサーが故障し、新たな圧縮空気が作れなくなると、列車は停まってしまうわけですね。

考えられる原因③ 圧力計の故障

②の派生の理由で、「圧力計の故障」もありえます。

ようは、まだ圧縮空気はたくさん残っていたのに、圧力計が故障して「圧縮空気量が一定を下回った」と判定されてしまい、自動的にブレーキが掛かった。そういう理屈です。

今回の事件の本質は「なぜ救援に時間がかかったか?」

……とまあ、こんな感じの原因がありえますが、そのへんは調査をすれば解明されるでしょう。

さて、今回の事件の本質は「なぜ立ち往生したか?」ではありません。「なぜ救援に時間がかかったか?」です。

機械は故障するものですから、立ち往生が発生すること自体は、ある意味仕方ありません。機械の故障時にブレーキが掛かるというのは、安全方向に転んでいるのでOKなのです。しかし、故障後の対応が遅れた面については、仕方ないとは言えません。

「異常を起こさないことももちろん大事だが、異常発生後の対応がキチンとできるかの方が大事」です。

実は、車両故障で立ち往生した場合、救援列車を派遣する方法は、きちんとルール化されています。専門用語では、伝令法と呼ぶものです。
(話が難しくなるので、どういう方法なのかの説明は省略)

ニュースでは、「橋の上なので乗客は降りられない。救出方法を検討した結果、後続列車が連結して……」などと、まるで救援列車の派遣がその場で出たアイデアみたいな報道をしていましたが、違うんですね。「この列車は動けない! 乗客も降ろせない!」となれば、検討などするまでもなく伝令法一択です。まともな鉄道マンなら、1秒で出てくる結論と言っていい。

で、最初の方で述べましたが、伝令法での列車救援は、事象発生から2~3時間で終わるのが普通です。それができなかったのは、何か理由があるわけで……

車両が直ることを期待して、伝令法(救援列車派遣)の決断を下すのが遅れたのか。現場の係員が、伝令法の取扱いを理解していなかったために準備が遅れたのか。指揮命令系統が混乱したため、余計な時間を喰ったのか。

そのあたりを分析し、再発防止に努めなければいけません。いずれ詳しい情報が出てくるはずなので、「他山の石」として、私も自分の仕事に活かしたいと思います。

(2021/5/4)

【後日追記】原因はエアーコンプレッサーの故障

2021(令和3)5月20日、JR東日本から立ち往生の原因が発表されました。エアーコンプレッサーの故障だったそうです。本記事内で書いた「考えられる原因②」でした。

また、救援まで4時間半かかったことにも触れられていました。「さまざまな手配を行った結果として、4時間を超える時間がかかった」だそうです。

いや、それにしても4時間半は時間を喰いすぎかと……。一般の方なら「そういうもんかな」と納得するかもしれませんが、同業者としては「その言い訳はちょっと通じない」という感じです。

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