現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

鉄道関係の記事が約460。鉄道好きや、鉄道業界に就職したい人は必見! ヒマ潰しにも最適

JR東海の新たな雨規制をやさしく解説! (2)

2020(令和2)年5月15日、JR東海は在来線において、新しい降雨運転規制の仕組みを導入すると発表。「土壌雨量」という指標や、土石流の危険性を評価するシステムを導入する。

大雨が降った場合の徐行や運転見合わせについて、JR東海は新たな仕組みやルールを導入。前回の記事に続いて、このニュースを噛み砕いて解説します。

↓JR東海から公式発表された資料
https://jr-central.co.jp/news/release/_pdf/000040472.pdf

前回は「土壌雨量」について説明しました。今回解説するのは、レーダ雨量という指標です。レーダ雨量という指標を活用することで、どう安全性が高まるのでしょうか?

レーダ雨量 雨の状況をメッシュ状に把握できる

レーダ雨量とは、簡単に言えば、現在の雨降りの状況をメッシュ状に把握できるアレです。たとえば、Yahooの天気情報で見ることができる「雨雲レーダー」、みなさん一度は見たことありますよね?

↓Yahooで見ることができる雨雲レーダー
https://weather.yahoo.co.jp/weather/zoomradar/

気象庁や国土交通省の設置したレーダが、1㎞四方程度の雨の状況を面的に捉え、情報をJR東海のシステムに送信。JR東海は、各駅に設置された雨量計という「点の情報」に加え、レーダが捉えた「面の情報」も得ることができるようになるそうです。

レーダ雨量の活用法① 土石流の予知

「面の情報」であるレーダ雨量を、いったいどう活用するのか?

活用法その1は土石流の予知です。

山岳路線だと、土砂災害の心配は常について回ります。それは線路の近くに限った話ではありません。線路から離れていても、渓流などで大雨が降れば、土石流が線路に流れ込んでくることもありえます。

土石流の発生源になりうる場所については、線路から離れていたとしても、雨量を観測したほうがよいわけです。

といっても、渓流域の雨を観測し、土石流の危険性を評価する仕組みは、これまで存在しませんでした。しかしJR東海は、レーダ雨量の取得と、その情報を評価するシステムの確立により、土石流の危険予知を実現したのですね。

整理しますと……

渓流域などの雨は、気象庁や国土交通省の設置したレーダを活用して観測 → そのデータを使い、評価システムが土石流発生の危険度を算出 → 土石流の危険が高いと判断されれば、運転見合わせを行う

これが新システムです。

レーダ雨量の活用法② 雨量計をすり抜ける雨の把握

レーダ雨量の活用法その2は、雨量計の弱点をカバーです。

「大雨で徐行や運転見合わせ」というからには、雨がどれだけ降ったかを計測しなければいけませんが、そのために使われるのが「雨量計」です。

一般的に、雨量計は数駅ごとに一つ設置されています。イメージとしては、↓の図のような感じです。

f:id:KYS:20200519035025p:plain

↑の図では、B駅とD駅に雨量計が設置されていますね。設置された雨量計が、一定の雨量(=これを「規制値」と呼びます)を計測すると、付近の区間が徐行や運転見合わせになります。

ところが、この「拠点駅方式」とでも呼ぶ方法、実は弱点があります。一言でいえば、「雨量計の間をすり抜ける雨には対処できない」です。

たとえば、雨量計のないC駅でゲリラ豪雨が降ったら、まったくのお手上げです。路盤の崩壊を招くような大雨でも、徐行や運転見合わせになりません。それは鉄道の安全にとってマズいですよね。

しかし、レーダ雨量は、雨の状況をメッシュ状に面で捉えています。C駅で大雨が降れば、それもキャッチでき、その情報を徐行や運転見合わせに利用するのですね。

ようするに、雨量計という「点」だけではなく、レーダ雨量という「面」も付加することで、観測範囲の弱点をカバーできるというのがポイントです。

冒頭で貼ったリンク先の資料に、『当社は局地的な集中豪雨等をきめ細かく捉えるためにレーダ雨量を活用した運転規制を2020年6月1日から行います。』と記述があり、これは私がいま説明したことを指していると思われます。
(もし勘違いだったら申し訳ありません)

新手法が業界標準になるのはまだ先の話か

前回・今回の2記事にわたって、JR東海の新手法を解説してきました。

  • 「土壌雨量」という概念を導入
  • 「レーダ雨量」によって土石流の予知や雨量計の弱点をカバー

読者のみなさんはピンと来ないかもしれませんが、これらは雨規制に関する“業界の常識”を打ち破るものです。世の中の技術革新が、鉄道の安全向上にも一役買っている好例といえます。

ただ……このような新技術を使った手法を、これから他の鉄道会社もどんどん取り入れていくかというと、それはもう少し先の話だと思います。

というのも、これはどこの鉄道会社にも真似できることではないからです。

たとえば、土壌雨量の概念を取り入れるなら、沿線の土壌の状態がわからなければ適切な数値を設定できませんから、調査が必要です。土石流の予知も、渓流の調査が必要なのはもちろん、データをどう評価システムに落とし込むかという課題もあります。また、取得した気象情報をシステムと連動させようとすれば、システム改修も行わなければならず、非常にカネがかかります。

ようするに、技術面の課題はもちろん、費用の問題もあるわけです。その両方をクリアできるJR東海のような会社ばかりではありませんから、そう簡単には導入できないというのが、私の見立てです。

(2020/5/20)

関連記事

JR東海の新たな雨規制をやさしく解説! (1)


どれくらい雨が降ったら列車の運転を見合わせる?


→ 鉄道ニュース 記事一覧のページへ


⇒ トップページへ