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【実体験】日勤教育を受けたときの話

2005(平成17)年4月25日の福知山線脱線事故から、今日で16年が過ぎました。
鉄道マンにとっては、絶対に忘れられない事故です。

この事故で一躍有名(悪い意味で)になったのが「日勤教育」です。
JR西日本は、この日勤教育を、ミスをした社員に対する懲罰・ペナルティのように行なっていたようです。
日勤教育への恐れが、ミスの隠蔽や無理な回復運転につながったのではないか?

こうした論調で報じられたことから、「日勤教育 = 絶対悪」のような雰囲気が世の中にできました。

しかし、本当に「日勤教育 = 悪」なのか?

ここで突然ですが、実は私、ミスをして日勤教育を受けたことがあります。
日勤教育って、名称は多少違うかもしれませんが、どこの鉄道会社にもあるものです、たぶん。

 

データ入力をミスって進路が正当に引かれなかった


2010年代のとある日。
某鉄道会社で指令員として働く私は、いつも通り列車の運行管理業務に従事していました。

飛行機でいうところの管制官、と言えばイメージが湧くでしょうか?
ヱヴァンゲリ○ンでいえば、ミサトさん(指揮官)や日向君(オペレーター)みたいなポジションです。
人身事故や自然災害等で列車ダイヤがぐちゃぐちゃになると、怒号が飛び交う戦場になります。


そのときは、少しダイヤが乱れていました。
といっても、忙しすぎてオーバーフローするとかではなく、「へいへい」でさばけるレベル。
大忙しではなく、小忙しとでもいうか。


そんなとき、私はミスりました orz


ミスの内容は、「進路制御のためのデータ入力を間違えた」です。

進路制御のためのデータ入力。
これはちょっと説明が必要でしょう。

列車の運行に必要な信号機やポイント(転てつ器)の制御、あれ、人間がいちいち操作するのではありません。
コンピューターが自動でやってくれるのが大半です。
(手動で行う会社もありますが。京急なんかは有名)

指令室の装置に全列車のデータが入っており、そのデータに基づき、コンピューターが自動で信号機やポイントの操作をしてくれるのです。
たとえば、

「●列車はA駅1番線から9:00に発車、B駅の到着は2番線……」
「▲列車はC駅2番線……」
「★列車は……」

という具合で、全列車の運転時刻や番線のデータが入っています。
コンピューターはそれに従い、「●列車はB駅2番線に入るから、B駅の信号機やポイントはこう動け!」と命令を出すのです。

ダイヤが乱れると、元に戻すために、指令はさまざまな手配をします。
待避や行き違い箇所を変えたり、途中駅で打ち切りにしたり、駅での到着・発車番線を変えたり。

こういう手配は、具体的には、コンピューター内の列車データを書き換えることで行います。
たとえば、「●列車はB駅1番線に変更したい」となったら、パソコン画面で

【番線変更】のコマンドを選択
 ↓
 ●列車
 ↓
 B駅
 ↓
 1番線
 ↓
 決定


こんな感じでデータ変更入力します。

ダイヤが少し乱れていたので、こうしたデータ変更をしていたのですが……私、これをミスりました orz
運転士から「信号が引かれないんですが……」と無線で連絡が入り、入力ミスが発覚。
「あっ、そこのデータいじったの俺だわ!」と気付いた瞬間、全身の血液が逆流する感覚に襲われました。
その後、めっちゃ汗が出てきてベチャベチャになったのを覚えています。

何がショックって、「自分のせいで列車が遅れたこと」です。
不幸中の幸いではありましたが、遅れた列車は回送列車でした。
直接お客様に迷惑をかけたわけではないので、その点は救いといえば救いなのですが……。
しかし、ミスをしたことに変わりありません。
ものすごくショックでした。

ちなみに、本件のミスは言い逃れ不可能でしたね。

指令が各種手配を行う場合、手配内容を書いた紙を作成して、関係各所にFAXします。
『●列車 A駅~B駅間 運休』みたいな感じです。
問題の列車の手配を記した紙には、「データ入力者」の欄に、しっかりと私のサインが。
データ入力をミスったのに、「これで正しく入力完了」とサインしてたわけ。

はい、動かぬ証拠です。
100%私がやりました。

入社以来、駅員→車掌→運転士をやってきましたが、ミスらしいミスをしたことはなかったです。
自分ではそんなつもりはありませんでしたが、どこかで調子に乗って、仕事に対する怖さを忘れ、謙虚さを失っていたのかもしれません。

ミス後の事情聴取 まずは当時の行動を徹底的に書き出す


さて、そのまま翌朝まで泊まり勤務を続け(これがまた針の筵なんですが)、勤務終了時に上司から、「次回の泊まり勤務は取消で、日勤教育を行う」旨を告げられました。
簡単な事情聴取だけは、日勤教育時ではなく、その日のうちに行うことになりました。
上司と二人で、空いている部屋に行きます。

この上司、仕事の能力だけでなく、人間的にも尊敬できる人でした。
いろいろ目をかけてくれて、私がなんとか指令の仕事をやってこれたのも、この上司のおかげと言ってよかった。
それだけに、こんなことになって本当に申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

さて上司、いきなり事情聴取やら説教やらを始めることなく、

「まぁそんなに落ち込むな。ミスの一つや二つ誰にでもあるから。歳喰ってる奴は、ほとんどが何らかのミスを経験してるし」

ちなみに昔は、指令のミスで列車を遅らせても、「これはミスじゃねぇ! こういう予定だったんだ! 手配の一環だ!」で強弁していたとのことですが、さすがに近年は通じなくなっていますね。

「今回ミスしたのは残念だけど、こんなことぐらいで腐ったらいかんぞ」

腐りはしないけど、やっぱり落ち込むなぁ……と思っていると、

「お前もいずれ管理者になって、こういうふうに部下を教育することがあるかもしれん。今回のミスがなきゃ、日勤教育のやり方を知る機会なんてなかっただろ。そのための勉強だと思え」

なるほど、将来、自分が指導する側になったときのための勉強か。
確かに、他の人が日勤教育を受けているところを見学なんてできないからなあ。
考えようによっては、日勤教育について学ぶ唯一機会かも。

そう思えば、取り組み方も変わってきます。
これで、だいぶ前向きになれました。

こんな感じで前置きの話をしてから、事情聴取が始まりました。
いきなりミスに関する掘り下げをするのではなく、まずは“周辺情報”から聞かれます。
以下のような感じです。

  • 体調はどうだったか 
  • 現在の業務の経験年数は 
  • 現在の業務に不慣れな点はあるか 
  • ミス発生前までの動き(何時何分からどこでどのような作業をしていたか)


その後、いよいよミスの部分に関する聴取に入ります。
ただし、この段階では「なぜこのようなミスが起きたと思うか?」のような切り込み方はせず、自分の行なった作業・行動を淡々と書き出すだけです。

ちょっとイメージが湧かないかもしれませんが、仮に「あなたが駅ホームの立ち食いで、かき揚げそばを食した」という場合なら、以下のような感じになります。

Q.店に到着して、まず何をしたか?
A.外の券売機でメニューを見て、「かき揚げそば・600円」を注文しようと思いました。

 

Q.それから?
A.財布からカネを出して、券売機に入れました。

 

Q.もう少し具体的に。入れたのは硬貨? お札?
A.1,000円札一枚を入れました。

 

Q.それから?
A.「かき揚げそば」のボタンを押しました。

 

Q.そうしたら、どうなった?
A.「かき揚げそば」と印字された食券が出てきました。

 

Q.その後は?
A.お釣りのボタンを押しました。

 

Q.どうなった?
A.お釣りが出てきました。

 

Q.釣り銭の内容は?
A.100円玉四枚だったはずですが、「間違いない」と思っていたので、ちゃんと数えていません。

 

Q.その後は?
A.財布をポケットにしまって店内に入り、店員に食券を渡しました。

 

Q.それから?
A.そばが来るまで待っていました。

 

Q.店内のどの位置で、どのように待っていた?
A.カウンターの一番左端です。スマホでヤフーニュースを見ていました。

 

Q.その後は?
A.2分ほどでそばが来ました。店員が、私の目の前に置いてくれました。

 

Q.それから?
A.かき揚げそばを食べ始めました。

 

Q.もう少し詳しく。
A.まず、箸箱から割り箸を取り出してパキッと割りました。

 

Q.それから?
A.七味を全体に振りかけました。

 

Q.それから?
A.そばを一口すすりました。

 

Q.その次は?
A.かき揚げを4分の1ほど崩して、つゆを染み込ませて食べました。


こんな具合で、ひたすら「それから?」「その後は?」と聞かれます。
言ってみれば、自分の行動を一つ一つ解剖して丸裸にしていく感じですね。

先ほども書きましたが、この段階で大事なのは、「なぜ~をしたのか?」とは聞かないこと。
そばの話なら、

「食事をするなら、ホームの立ち食い以外の選択肢もあったはずだが?」
「うどんではなく、そばを選んだのはどうして?」
「いきなり七味をぶち込んだのはなぜか?」

こういった点は聞かないということ。
上司いわく、「まずは行動を全部書き出す。それを基に分析や反省をするから」だそうです。

行動を全部書き出したら、「続きは日勤教育で」となり、その日は解放されました。
家に帰っても、「やっちまったなぁ……」の思いが頭から離れませんでしたが、食事や睡眠に差し支えるレベルではなかったです。
まあ、事故を起こして人を死傷させたとかの話ではないので……。

日勤教育1日目 問題点の抽出と分析


さて翌日、「日勤教育って何するんだろ、何日で終わるのかな」と不安を抱えながら出勤。

結論から言うと、私の日勤教育は2日間で終わりました。
概要を示しておくと、1日目は、「どこがマズかったか = What」「なぜマズかったか = Why」という抽出と分析。
2日目は、「では今後どうするか = How」で再発防止策を考える。

What → どこが問題なのか?
Why → なぜ問題なのか?
How → ではどうすべきか?


上司いわく、「5W1Hとか言うけど、6つの要素を使いこなすのは大変。What・Why・Howの3つで考えられれば、とりあえずOK」だそうです。

少し話が逸れましたが、1日目は問題点の抽出と分析、2日目は再発防止策という形が、私の日勤教育でした。

さて、前日の聴取で私の行動は判明していますね。
今度は、ここにツッコミが入ります。

  • ○○をしたとき、どのように感じたか?
  • いつもと何か違う・おかしいとは思わなかったか?
  • ○○のときの正しい取扱いを知っているか?
  • このときは、なぜ○○をしたのか(しなかったのか)?


こうした質問が飛んできます。
そして、

  • どこが悪かったと思うか?
  • 何が足りなかったか?


核心に入っていくわけですね。
この際のポイントは、「ここが悪かったのでは?」と上司が誘導するのはNG、ということ。
上司が指摘するのではなく、本人に出させるのがコツだそうです。

理由は二つあって……

まず、他人から「アンタのここが悪い・こうしろ」と指摘されるよりも、自分で「ここが悪かった」と認識したほうが、「ちゃんと直さなきゃ」という気持ちになることが一つ。

それから、上司から「ここが悪い」と指摘される場合、その指摘が絶対正しいとは限りません。
普段ならば、「それは違う」と部下が反論すればよいでしょう。
しかし、日勤教育を受けている者はミスをした負い目があるので、上司への反論ができません。
そうした事態にならないよう、上司からの押し付けや誘導尋問はダメだそうです。

とにかく、「本人に出させる」のがポイント。

こんな感じで質問を受け、私が答え、聴取が進んでいきました。
もちろん、上司が一日中つきっきりではありません。
私の教育以外にも仕事がありますから。
振り返りシートを渡されて、「これを考えて書いておけ」という具合です。 

日勤教育2日目 再発防止策の確立


さて、日勤教育2日目は再発防止策を考えること。
事故やミスのあとに一番大切なのが再発防止ですね。

読者のみなさんは、次のようなやり取りを目にしたことはありませんか?

今後はどうするのか? → 意識を引き締め、より確認を徹底します。

困った話ですが、いまだにこういう精神論で済ます事例が世の中には存在します。
これ、何の対策にもなっていません。
「より確認を徹底するのはいいけど、そのために何をするの?」がキモなのに、そこが抜けているからです。
たとえば、チェックシートを導入するとか、確認動作を改良するとか、そういうのが必要です。

最初にきちんと、「何が悪かった?」「なぜ悪かった?」つまりWhat・Whyをしっかり炙り出しておくと、「どうすべきか?」というHowが考えやすくなります。
逆に言うと、行動の聴取や分析をロクにしないうちに再発防止策を考え始めるのは拙速ということ。
「What・WhyがあってこそのHow」なのです。

1日目の分析で、「ここがマズかったなあ」と自分なりに結論が出せました。
「これまではデータ入力の際に○○の方法で確認していたけど、今後はこうします」と文書にまとめます。
2日目の午前中は、この作業を部屋に一人こもって行いました。
昼前に完成させ、上司に提出。

「よし、これでいい。昼から○○長のところに行ってくる」

当然ですが、上司にも上司がいます。
私の日勤教育を解除していいかどうかの判断は、その○○長が行います。

今回の経緯を記した文書。
聴取内容をまとめた文書。
私が作成した再発防止策。

これらを持って説明に行き、通常業務への復帰許可を貰ってくるわけ。
私がミスったせいで余計な仕事を増やしてしまい、本当に申し訳なかったです。

さて、上司が説明に行っている間、私は何をしていたのか?
先ほど作成した再発防止策の文書を、同僚たちに回覧してもらいました。

「お前がミスしたということは、他の人も同じミスをする可能性がある。今回の経緯と対策を共有し、全体としての再発防止に努める」

そういう意味です。
が、やっぱり恥ずかしいのが正直なところでしたね。
私のミスの全貌が晒されるわけですから。
まあ、これは罰だと思って受け入れるしかないです。

やがて上司が戻ってきて、「復帰の承認を貰った。これで次は通常業務な」と告げられました。
「本当にご迷惑をおかけしました。今後は気をつけます」と頭を下げると、「少しは勉強になっただろ。管理者になったときに今回の経験を活かしなさい」と言われました。

指導者層をきちんと育てることの大切さ


こうして私の日勤教育は終わったわけですが……読者のみなさんの印象はいかがでしょうか?

事故以前のJR西日本では、こう言っちゃアレですが、ロクでもない日勤教育をしていたようです。
草むしりをさせられる、意味のない文章を延々と書かされる、必要以上に罵倒される……。
こんなのが再発防止につながるのか? と首をかしげる内容です。

それに比べると、私の日勤教育は、ずいぶんまともな印象を受けたのではないでしょうか。

日勤教育は指導の範疇ですから、上司の力量や采配次第なところがあります。
私のケースのように上司がちゃんとしていれば、日勤教育は有効に働くのです。

この点で私が思うのは、「指導者層をきちんと育てることの大切さ」です。
スポーツでいえば、選手を育てるためには、監督・コーチも育てなければならない、ということ。
監督・コーチがロクでもなければ、選手がまともに育つはずがないですよね。

JR西日本では、残念ながら監督・コーチに力量がなかったため、懲罰的な日勤教育しかできなかったのでしょう。

監督・コーチに必要な手腕は、選手としてプレーするだけでは身に付きません。
指導に必要な理論を学び、監督・コーチのやり方を間近で眺め、実践してみる。

今回の件、上司は日勤教育を通して、選手である私に、監督・コーチ側の心得の一部を教えてくれたといえます。
もちろん、ミスをして業務から外されたので、私にとって愉快な経験ではありませんでした。
が、いろいろと得たものがあったのも確かです。


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