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京成電鉄の脱線事故は「赤信号を見落として突っ込んだ」のか?

2022(令和4)年11月17日、京成電鉄の京成高砂駅で脱線事故が発生しました。

① 駅ホームから車庫に転線する際、本来と異なる線路に進入した。
② 誤りに気付いた運転士は車両をバックさせたが、その過程でポイントを破損し脱線を引き起こした。

運転士は誤りに気付いたあと、関係各所と打ち合わせることなく、勝手にバックしてしまった模様。バックの途中で正しい方向に切り替わっていないポイントを通過 → 破損し、脱線につながったようです。

鉄道の信号設備は、前に進むことを前提に作られています。ようするに、バックという行為は想定されていない。ですから、今回のようにやむを得ずバックする場合は、いろいろと確認しなければいけないことがあるのですが……。

今回の事象は「信号冒進」──赤信号の見落としではない?

直接原因は「勝手にバックしたためポイントをぶっ壊して脱線」なのですが、私が気になるのは、その前段階。つまり、「本来と異なる線路に進入した」という部分です。これをどう解釈するかが難しい。

一般の方にはピンとこないと思うのですが、どう解釈するかで、話が全然違ってくるんですよ。

この車両が「1番線に入る予定だった」としましょう。このとき、「本来と異なる線路に進入した」という表現からは、二つの解釈が成り立ちます。

  • ポイントが切り替わっておらず、1番線へのルートが構成されていない状態だった。ところが誤って発車し、1番線ではなく別の番線に入ってしまった

これは、赤信号を見落として進入した、いわゆる信号冒進というやつ。非常に危険な事象です。「まだ安全が確保されていないから入っちゃダメ」という意図で赤信号が表示されているのに、そこへ突っ込んでいくわけですから。

ただし、今回の件は信号冒進ではないと思います。

というのも、もし赤信号を見落として突っ込んだのなら、会社のプレス発表や報道で、そのように書かれるのが普通だからです。どこを探しても、赤信号の「あ」の字も出てこないので。

別の番線へのルートを構成してしまった?

というわけで、もう一つの解釈。

  • ポイント切替時に何かを勘違いし、1番線ではなく2番線へルートを引いてしまった。2番線へのルート自体は完成しており、「2番線まで移動してOK」と青信号も出ていた

で、1番線ではなく2番線にルートが引かれていることに、運転士も気付かず発車した。ところが途中で、「あれ? 1番線に行くはずなのに2番線に入っちゃった」と止まる。そして、「いったん元の場所に戻らなきゃ」とバックしてポイントを破損し、事件発生。

専門知識がある人向けの表現で書くと、通過し終わった後方の転てつ器は進路区分鎖錠が解錠されていたため、次の列車の進路構成のために、すでに転換していた。そこに退行してきた当該車両が進入し、転てつ器を割り出した。

個人的には、今回はこっちの事象ではないかと思います。情報が出ていないので、確信は持てませんが。

「作業」を誤っても「安全」には影響ないケース

なお、「1番線ではなく2番線へルートを引いてしまった」という行為ですが、コレ自体は安全上まったく問題ありません。1番線ではなく、2番線に車両が入っていくだけの話なので。

高速道路に例えるなら、東京方面に行きたい人が、インターチェンジで誤って大阪方面のレーンに進入した。このこと自体は安全上問題ないですよね。

もちろん、違う番線に車両が入っていくので、「作業」という意味ではミスです。しかし、ルート自体はキチンと確保した状態で車両を動かしているので、脱線や衝突が起きる危険はない。「鉄道の安全」という観点からすれば特に問題ありません。

仮に私の推測通りだとしたら、運転士はどうすべきだったか?

間違いに気付いたあと、そのまま進んで2番線に車両を完全に収容し終えたあとで、改めてリカバリーの行動をすればよかったという話になります。下手に中途半端な位置からバックして取り繕おうとするから、事故が起きるわけで。

再び高速道路の話なら、進入レーンを間違えたからといってバックしたら危ない。とりあえず次のインターまで行って降りるのが正解ですよね。それと同じです。

ルート構成は指令所または駅の信号扱所が行う ただし例外も

もし、「誤って1番線ではなく2番線へルートを引いてしまった」という事象が起きていたとしたら、これは誰がやらかしたのか?

ポイントを切り替えてルート構成する作業は、指令所または駅の信号扱所が行うのが一般的です。

ただし最近は、指令所や信号扱所からの遠隔ではなく、運転士が手元のリモコン(?)を操作して、自分でルート(進路)設定を行う仕組みも存在します。京成高砂駅で導入されているかは知りませんが。

もしこの手の仕組みが導入されていたら、今回の事故は運転士の一人相撲という話になります。

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