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JR西日本の立ち往生事件から 規定やマニュアルの存在目的とは?

2023(令和5)年1月24日に起きた、JR西日本での大雪による列車立ち往生については先日記事を書きましたが、

↑の記事で、いろいろコメントをいただいたこともあり、もう一本記事を書くことにします。

融雪器の使用遅れや計画運休ナシの是非

私の印象ですが、JR西日本で今回起きた立ち往生については、以下の二点を批判する声が多いようです。

まず一点目。融雪器を使い始めるタイミングが遅れたこと。

今回のトラブルは、ポイントに雪が詰まって不転換となったのが発端。こうした事態を防ぐために、ポイントには融雪器(ポイント付近を熱して雪を融かす装置)が付いています。

JR西日本の社内基準では、10㎝の積雪が予測された場合には融雪器の電源を入れるそうです。しかし、今回は8㎝の積雪予測だったため、融雪器を使っていなかったとのこと。実際は、予測を超えた雪が降ってポイント不転換が起きてしまいましたが……。

批判の二点目は、雪が予測されていたのに計画運休を実施しなかったこと。今回は、数日前から「雪ヤバそう」とけっこう騒がれていました。そんな状況で普通に運行したのはどうなん? という意見。

ただ、私個人としては、融雪器の電源投入が遅れた点、および計画運休しなかった点は批判しません。というのも、鉄道会社は気象予測の専門家ではなく、ましてや神でもありませんから、天候の急変や降雪量を100%正確に予測して対応しろというのは無理な話。ですから、そこは仕方なかったと思います。

これが船舶や航空機だったら、天候予測の誤りは致命傷になるので、仕方ないでは済みませんが……。海運業界だと、得意分野が異なる複数の気象会社から情報を仕入れたうえで航路選定し、リスクの軽減に努めているそうです。
(→こちらの記事のコメント欄を参照)

融雪器の使用開始基準を見直すだけでは再発防止にならない

先ほど書いたように、JR西日本では、融雪器の電源を入れる積雪量が社内基準で決まっていました(10㎝以上)。じゃあ今回のトラブルを受けて、基準値を引き下げれば再発防止になるかというと、そうとも言い切れません。

仮に、融雪器使用の基準を、積雪5㎝に改めたとしましょう。明日の朝、4㎝の積雪が予想されたとします。融雪器の電源は入れませんよね。そこで実際には予想を超えた15㎝の雪が降ったら……結局今回と同じ話になります。

ですので、融雪器を使う基準の数字設定は(もちろん見直しは必要ですが)私に言わせれば本質ではないということになります。

「どういう天候が予測されるときに計画運休するか?」の基準についても同様。もちろん、予測の精度を高めるのは大事ですが、あくまで予測ですから的中率100%は無理です。であれば、「予測が外れて異常事態に陥ったときにどう対応するか?」を整えておく方が本質的な問題解決策と考えます。

夜間・降雪で乗客を線路に降ろすのも現実的ではない

融雪器の使用基準や計画運休の実施判断。責めるべきはそこではなく、立ち往生が起きたあとに旅客救済が遅れたことでしょう。旅客救済は、予測うんぬんの話ではなく、純粋に「鉄道会社の能力」の話ですから。

旅客救済の手段ですが、今回は、夜間・降雪という極めて悪条件でした。下手に乗客を線路に降ろして最寄駅まで歩かせるのはマズい、とJR西日本は判断したと思われます。それは妥当でしょう。

いったん乗客を線路に降ろす決定をすると、仮にその後ポイントが復旧しても、列車を動かすことはできません。線路上に人が残っているかもしれないので、線路内すべての安全確認を実施しなければならない。乗客を線路に降ろすのは、ある意味すべてをあきらめての最終手段です。

“裏ワザ”を使えば立ち往生の本数を減らすことは可能

乗客を線路に降ろす選択肢は苦しい……となれば、ポイント不転換が直るのを待つしかないのでしょうか? いや、残された選択肢があと一つあります。

こちらの記事でも書いたように、列車を最寄駅まで後退(バック)させる方法です。

鉄道は、前に進むことを前提としてシステムが作られています。しかし、じゃあ後退はまったくできないかというと、そうではありません。ちゃんと手続きを踏み、定められた条件の下でなら、後退も許されています。

前には進めない。乗客を線路には降ろせない。となれば、あとはもう後退するしかないでしょ、という消去法ではありますが。

また、後退と併用して、一駅(同一ホーム)に2列車を収容する手段もあります。こちらはかなり“裏ワザ”ですが、立ち往生の本数を減らすのには有効な策です。

こうした方法を取れば、15本もの列車が何時間も立ち往生することはなかったはずです。

“裏ワザ”を使ったら責任問題になるのを恐れて対応が遅れた?

今回、JR西日本は、ポイント不転換を復旧して列車を前進させるという「正攻法」にこだわりすぎたのではないでしょうか。現実では、正攻法だけで対処できるとは限らないので、異常時対応のバリエーション・引き出しは数多く持つ必要があります。

後退も一駅2列車も、まともに仕事してる鉄道マンなら発想自体は難しくありません。現場係員も、こうした方法は頭に浮かんだはずです。では、なぜそうした手段が実行されなかったか?

後退と一駅2列車は、ある意味アクロバティックな“裏ワザ”なので、何かあったときに責任問題になるのを恐れたのかもしれません。もし何事もなかったとしても、「そのやり方、規定やマニュアル上は問題なかったの?」などと国交省から言われる可能性もあります。

そうなるくらいなら、規定やマニュアルから「はみ出す」ような対応はやめとこう、ポイントの復旧を待つ正攻法を選ぼう、という心理だったと推測します。

しかし、「規定やマニュアルは守ったけれど、結果的に乗客の命を危険に晒しました」では、お話にならない。そもそも、規定やマニュアルの存在目的は、安全を確保すること = 乗客の命を守ることです。規定やマニュアルを遵守した結果が乗客を危ない目に遭わせた、では本末転倒です。

ここまでキツいことを言うのもアレですが、今回の対応からは、「乗客の安全」ではなく「責任の所在」の方に目が向いていた印象を受けます。

責任といえば──JR西日本社長の記者会見でも、メディア上でも、「降雪量を見誤ったのが原因」みたいな空気になっていますが、私の感覚では、それは問題のすり替えですね。もっと言えば、「予想以上に雪が降ったから仕方なかったんだ」と天気に責任を押し付けている感がある。ようするに、責任回避です。

立ち往生が起きたあとに、旅客救済を適切に行うだけの対応能力がなかった。これが本質的な原因と考えます。

繰り返しますが、天候予測を外すのは仕方ありません。しかし、異常時対応能力が無いことは仕方ないでは済まされません。

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