なんとも痛ましい労災事故で……。当該駅員は、ホームの線路に近い位置で前かがみの姿勢になっており、そこに列車が通過して接触したようです。
この駅はちょうどカーブ上にあり、運転士からすれば、駅にかなり近づかないとホーム上の様子が見えません。さらに夜間でしたから、ホームにいた駅員からも列車の接近がわかりにくい。運転士と駅員の双方が「あっ」と思ったときには、手遅れだったのでしょう。
線路内に落ちたモノを拾う作業 実はかなり危険
駅員は「ホームの線路に近い位置で前かがみの姿勢になっていた」ことから、線路内をのぞき込んでいた可能性が高いです。
旅客から「線路にモノを落とした」と申告されたので、拾う作業に着手する前に、当該ブツの位置を確認していたか。あるいはホームを巡回しているときに、自分で線路内に落ちているモノを発見したので、それを確認しようとしたか……。そこまで報道されていないので、真相は不明ですが。
今回の記事では、「線路にモノが落ちたときの対処」という話をします。
線路内にモノを落とした経験のある人もいるでしょうが、駅員がマジックハンドみたいな道具を使って拾ってくれたと思います。何でもない作業のようですが、モノを拾うために駅員は列車が通過する空間に身を乗り出さなければならず、実はかなり危険なのです。
というわけで、触車事故が起きないよう安全確保の措置を講じます。具体的には、以下のどちらかが一般的です。
- 二人一組で作業する。一人は列車が来ないかを見張り、もう一人が拾う
- 一人で作業するなら、信号機を赤にして列車が入ってこないようにする
二人一組で作業できるなら、それに越したことはありません。このとき、見張り者は拾う作業を手伝ってはならず、見張りに専念します。「見張り」と「拾う」をしっかり分業するのが安全確保のポイント。
一人で作業するなら列車が来ないよう赤信号にしておく
ただ、近年は駅員数が減少傾向にあります。少人数で回すため、一つの拠点駅が、複数の無人駅を遠隔管理する「集中管理システム」も次々に導入されています。線路内のモノを拾う際、二人一組での作業が不可能──駅員一人で拾わなければいけない場面も多いでしょう。
この場合は、列車が進入してくる方向の信号機を赤にしておきます。赤信号にして“駅の入口”を閉じておけば、列車が入ってこず安全なので、見張りは不要という理屈です。
具体的に駅員は、信号を制御する信号扱所や指令室といった部署と打ち合わせて作業します。
駅員「今から線路の落とし物を拾いたい」
指令「信号を赤にしたから着手どうぞ」
駅員「拾い終わったよ」
指令「じゃあ赤信号を解除する」
こんな感じです。
線路を覗き込むだけなら見張りや赤信号は手配しない
赤信号にして列車が入ってこないようにする。言葉にすると簡単ですが、実はこれ、けっこう大変です。
ローカル線ならいざ知らず、数分ごとに列車が通る都市圏では、長いこと赤信号で列車の進入を止めるわけにはいかないのが現実です。赤信号でブロックしてから初めて「モノはどこに落ちている?」と捜し始めると、そこで時間を喰って遅延が発生するかもしれません。
というわけで理想としては、事前に落ちたモノの位置を把握しておいてから → 赤信号にしてもらい → 一気に拾う……です。
ここで問題になるのが、事前に落ちたモノの位置を把握する作業。
私も駅員時代に経験がありますが、ちょろっと線路を覗き込んで「あーハイハイあそこね」と数秒ほどで済むので、いちいち見張りを呼ぶ or 赤信号にする手配まではしないのが実情です(=もちろん、線路を覗き込むのは、列車が来ていないのをちゃんと確認してからですが)。
つまり、実際にモノを拾う段階までいかないと、見張りやら赤信号やらの措置は講じないわけ。
もしかしたら今回触車した駅員も、モノを拾う実作業の前段階として、位置を把握するために線路を覗き込んでいたのかもしれません。数秒で済むはずが、その数秒で触車してしまったと。
いや、真相は不明です。線路にモノが落ちていた云々ではなく、ホームを巡回していたら急に気分が悪くなってフラつき、線路側に身体が出てしまった可能性もあります。そのあたりは何とも。会社も現在、原因を調査しているところでしょうし。
とりあえず、今回の記事を読んだみなさんには、「列車が通過する空間に身体を置くことは怖いんだよ」ということだけ知ってほしいと思います。
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