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趣味で鉄道好きな人はもちろん、就職・転職等で鉄道業界に興味がある人もどうぞ! 現役鉄道マンが、鉄道の雑学や裏話を語ります。

「鉄道は固定費が大半だから経費削減は難しい」は本当?

コロナウイルスの影響が少し弱まってきた感があります。
ですが、依然として各鉄道会社が売上激減により苦しんでいるのは、ご存知の通りです。

「どうせ利用客は少ないんだし、経費削減のために列車本数を減らせば?」という意見もあるでしょう。
そうした意見に対して言われるのが、

「鉄道は大部分が固定費、つまり変動費が少ないので、列車本数を減らしても経費削減効果はほとんどない」

というもの。

しかしこれ、本当に正しいのでしょうか?
実は、列車を運休させれば、それなりに経費が削減できる、ということはないのでしょうか?
それを考えるのが今回の記事の趣旨です。

 

鉄道会社ではどんな費用が発生する?


そもそも、鉄道会社の経費(決算書的にいえば営業費用)には、どのようなものがあるのでしょうか?

鉄道事業者の会計ルールを定めた鉄道事業会計規則というものがあり、費用の項目が細か~く決められています。
ただ、本記事ではそこまで踏み込むつもりはないので、大雑把な分類で考えましょう。

鉄道会社で発生する費用のうち、代表的なものは以下の4つです。

・人件費
・動力費
・修繕費
・減価償却費


もちろん、他にも費用はいろいろあります。
わかりやすいものだと、消費税や固定資産税などの各種税金でしょうか。
広告宣伝費とか、福利厚生施設の運営費とかもイメージしやすいと思います。
細かいところまで挙げれば、保険料、お偉いさんの交際費、出張時の交通費、研修の参加費、備品や消耗品の購入費……なども費用です。

ただ、このへんは列車運行には直接関係ない費用ですし、そこまで細かく触れる必要はないので、省略します。

大部分を占める費用とは? 費用の割合

 

・人件費
・動力費
・修繕費
・減価償却費


それぞれの費用は、全体の中でどれくらいの割合を占めているのでしょうか?
ここでは、JR北海道の例を見ていきましょう。
というのも、JR北海道は、ご丁寧にも費用の内訳を詳しく公表してくれているからです(^^)

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「あー、やっぱ人件費って高いんだな」とか「動力費の割合って少ないな」とか、そんな印象を受けるかと思います。
なお、「その他」の割合がそれなりに多いですが、上でザっと紹介した細かい費用たちです。

さて、4つの代表的な費用のうち、列車本数を減らして削減できる費用は「人件費」と「動力費」です。
残りの「修繕費」「減価償却費」は、列車本数を減らしても、基本的には節約できません。

以下では、JR北海道の数字で具体的な考察をしてみます。

① 人件費 「一時帰休」で40%カット


まずは、457億円(32%)と大部分を占める人件費の削減から解説しましょう。

列車本数を減らせば、必要な乗務員数も減るので、人件費を削減できます。
また、列車本数減にともなって削減できるのは、基本給の部分だけではありません。
乗務の対価として支給される「乗務手当」、22時~5時までの深夜労働に対する「割増賃金」も抑えることができます。

さらに、列車本数とは直接関係ないですが、利用客が大幅に減っているのであれば、駅員の数を減らすことも可能です。

といっても、列車本数が減って手持ち無沙汰になった社員をクビにするわけではありません。
通常は、社員を一時的に休業させる「一時帰休」という方法を使います。

労働基準法の定めでは、一時帰休させた社員を無給にすることは許されず、60%以上の給料を支払わなければいけません。
逆にいうと、40%まではカットできるわけですね。

さて、ここから具体的な計算。
報道によると、JR北海道は全社員6,648人のうち、1,450人を一時帰休させたとのこと。
この1,450人に対して、限界ギリギリの40%カットという血も涙もない措置をしたと仮定しましょう。

1,450人とは、全体6,648人のうちの21.8%です(1,450 ÷ 6,648 = 21.8%)。
単純計算で、人件費457億円のうち、1,450人分に支払われている分は約100億円です(457億円 × 21.8% = 99.6億円)

この100億円のうち40%をカットすると、削減額は40億円。

おおー、けっこう大きな金額になるんだなあ……と思いたいのですが、40億円とは、全体の1,397億円からすれば2.8%に過ぎません。
うーむ、1,450人の賃金を40%カットという大ナタを振るったのに、2.8%では虚しいですね。
しかもこれは、一時帰休を1年間続けた場合の数字で、1~2ヶ月の話だったら、10億円の削減にも至りません。

② 動力費 元々の割合が小さい費用


続いて、56億円(4%)の動力費を考えます。

電車でいえば電気代、気動車(ディーゼルカーなど)でいえば燃料代。
列車本数を減らせば、それに伴って削減できる費用であることは、容易に理解できると思います。

ただ、電気代だと、「基本料金」「使用量に応じた料金」の二段構えになっていることがありますよね。
電力会社との契約内容までは、さすがにわかりませんが、仮に「基本料金」が存在した場合、そこの部分は削減できない固定費ということになります。

……と書いてきましたが、動力費が全体に占める割合は、たったの4%。
これまた大ナタを振るって列車を運休させまくり、仮に動力費を30%くらい減らせたとしても、元々が4%ですから大勢に影響はありません。
しかも、あまり列車本数を減らし過ぎると、利用者の鉄道離れを招く恐れもあります。

③ 修繕費 安全のためにも簡単に減らせない


修繕費
とは、車両や線路設備の修繕にかかる費用。
これは列車本数を減らしても、基本的に削減できないと思った方がいいです。

たとえば、線路設備の修繕すなわち工事ですが、それこそ年単位で計画を立てて管理しています。
「ここ1~2ヶ月の財政状況が悪いから」で急に中止や変更できるものではありません。

いや、とりあえず中止することは可能かもしれませんが、結局はやらないといけないので、「費用の先送り」にはなっても「費用の削減」にはなりません。
むしろ、後で計画の調整がつかなくなる罪の方が大きいと思います。
それでなくても、安全運行に直接関わる部分ですから、簡単に先送りやコストカットはできません。

④ 減価償却費 車両を使わなくても計上される


減価償却費。これも列車本数減では削減できない費用です。
会計を勉強したことのある人なら、すぐに理解できると思います。

「会計わからん」という人、申し訳ありません。
ここでは詳しく説明している余裕はないので、ものすごくザックリ言います。

減価償却費とは、モノ(資産)を保有していると、それを使おうが使わまいが発生する費用です。
ですので、列車本数減 = 車両を使わなくても費用が計上されてしまうのです。

結論 列車本数を減らしても費用削減は1~2%か


話をまとめましょう。
仮にナマハゲばりの大ナタを振るって列車本数を減らしても、結局は、人件費で40億円程度、動力費で20億円程度の削減しかできないと思われます。
費用全体(1,397億円)の割合からいえば、4%程度です。

人件費の削減は、社員のモチベーション低下や離職につながります。
動力費を削るために列車本数を減らしまくったら、利用者の鉄道離れを招きます。
目先の費用は削減できても、将来的なダメージが大きい。
それを考慮すると、4%の削減は非現実的な数字です。

実際には、費用全体を2%くらい削減するので精一杯ではないでしょうか。

ここではJR北海道の例を見てきましたが、費用の構造は、他のJRや大手私鉄と多少異なるかもしれません。
というのも、北海道は低温・積雪という条件により、車両や設備が「寒冷地仕様」になっており、余計なコストを強いられているからです。

といっても、そこまで極端に費用の構造や割合が違うとも思えません。
実際、ウチの会社でも、費用全体に占める人件費や動力費の割合は、JR北海道と同じような数字みたいです。

今回の考察は、他の鉄道会社にもおおむね当てはまると考えてよいでしょう。

というわけで、冒頭で疑問提起した「列車本数を減らしても経費削減効果は薄いのか?」は残念ながら本当です。
後出しの情報になりますが、JR東海も、「新幹線の本数を減らしても1%程度のコストカットにしかならない」と発表していました。


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