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JR東海 2019年度の決算発表 コロナの影響は?

2020(令和2)年4月27日、JR東海が決算を発表しました。発表されたのは、以下の二つです。

  • 2020年1~3月の「第4四半期」決算
  • 2019年度全体の決算

今回の記事では、この決算を見ての感想を書いていきます。

四半期決算 1~2月の貯金でかろうじて逃げ切り

まず、2020年1~3月の「第4四半期決算」から。

連結ベースだと、純利益額は、前年比85%減の97億円だそうです。コロナの影響が大きかったものの、最終的な黒字は確保しています。

ただしこれは、コロナの影響がなかった1月、影響が少なかった2月の黒字があったからこそ。3月は、東海道新幹線の利用客が約60%!減少しましたから、3月単体で見れば、大幅な赤字になっているはずです。

おそらくですが、3月の東海道新幹線の収支は、200億円以上の大赤字(営業損失)になっているのではないでしょうか。

最終的な黒字という結果だけを見れば、「コロナがあっても黒字かぁ。東海道新幹線はお客さんからぼったくってんだなあ」とか「この状況で黒字とか磐石な会社」という感想を抱く人もいるかもしれません。しかし、それは的外れというもの。この黒字は、1~2月の貯金で“逃げ切った”だけです。

もし、コロナ騒動があと1ヶ月早かったら、この四半期決算は赤字になっていたでしょう。

通年での決算 すでに数百億円の狂いが生じている?

続いて、2019年度全体の決算を見てみましょう。まずは、きっぷや定期などの売上である「旅客運輸収入」から。

旅客運輸収入2018年度 1兆3,996億円
2019年度 1兆3,656億円

340億円の減少

「あれっ、意外と減ってないな」と思うかもしれません。しかし、利用客が大きく減少したのは3月だけ。その3月にしても、新幹線の利用客は約60%減少 = 40%は利用客が残っていました。ですから、コロナが決算に与えた影響は、そこまで大きくありません。

ただ、「影響はそこまで大きくない」といっても、すでに数百億円のレベルで狂いが生じているはずです。

2019年度の途中までは、「2018年度よりも売上・利益ともに増える見込み」と発表していました。しかし、増える見込みのところ、結局は340億円の売上減少。仮にですが、売上の“着地点”を1兆4,300億円くらいと見込んでいたとしたら、600億円以上ズレたことになります。

数百億円の狂いが生じているのは、営業利益も同じです。

営業利益(単体)2018年度 6,632億円
2019年度 6,167億円

465億円の減少

私の勝手な予想ですが、営業利益は6,750億円くらいを見込んでいたのではないでしょうか。しかし、結局は6,167億円にとどまりましたから、差し引きで600億円近くのマイナスになっています。

JR東海は、売上が1兆円を優に超える企業なので、数百億円の減少があっても、「誤差の範囲」くらいにしか見えないかもしれませんが……。

4月だけで数百億円の赤字になるのでは……

さて、昨年度の決算を見るのはここまで。ここからは今年度の話。

私の勝手な予想ですが、利用客が89%減少した4月の新幹線売上は、50億円くらいではないでしょうか。また、在来線の売上も減っていて、おそらく40億円前後ではないかと。

東海道新幹線と在来線の売上が大差ない。そんな事態、聞いたこともない。この調子でいくと、4月だけで500億円近くの赤字(営業損失)が出るかもしれません。

こうなってくると、もはやなりふり構っている場合ではないと思います。

すでにJR北海道とJR四国では、社員の一時休業(一時帰休)が決まっています。また、JR九州でも社員の一時帰休を検討しているほか、ゴールデンウィーク期間中に全特急列車を運休させることを決めました。

JR東海では、まだそこまで踏み込んではいないようですが、早く手を打たなくて大丈夫なのか? 定期列車の減便、社員の一時帰休、賞与の減額などで、少しでもコスト削減を検討すべきではないかと……。非常事態ですから、「社員の賃金が減らないように配慮する」と考えている場合ではないと思います。

低迷期間5ヶ月くらいがデッドラインか?

2020年3月末現在、JR東海はある程度の現金は保有しています。単体の決算書(貸借対照表)を見ると、現金および預金は約3,900億円。連結の決算書(キャッシュフロー計算書)では、現金および現金同等物は約7,600億円。

これだけカネ(キャッシュ)を保有しているので、大赤字が続いても、すぐに潰れるうんぬんの話にはならないでしょう。ただし、財務内容をめちゃくちゃに痛めるのは間違いありません。

さて、今年度の決算ですが、この利用客低迷が何ヶ月までなら、年間赤字に転落せず「耐えられる」のか? おそらく、5ヶ月くらいがデッドラインだと予想されます。それ以上続くと、残りの期間で巻き返しても、追いつけないのではないでしょうか。

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リニアが必要な理由とは? JR東海の立場から考察

「そもそもリニアって本当に必要なの?」

コロナ禍による利用客激減で、JR東海はピンチに陥っていますが、これを機にリニア見直し論も出てきているようです。

「東京~名古屋~大阪の路線を2本も作る必要はないのでは?」
「リニアは採算が取れないと聞いているが?」
「自然破壊が大きすぎる」

一例ですが、リニア不要派からは、このような意見が出ています。

はたして、リニアは本当に必要なのか? 今回の記事では、そのあたりを考えてみます。

立場によって「リニアは必要か?」の答えは変わる

リニアは本当に必要なのか?

この問いに対する正しい答えは、存在しません。必要かどうかの見解は、結局のところ「立場」によって変わってくるからです。

それでは、この記事では一体どの立場から見解を述べるのか?

私は鉄道マンですので、鉄道会社の立場から、すなわちJR東海の視点から考察したいと思います。たとえば自然環境保護の観点からだと、当然ながら別の意見があるはずですが、そういった視点からは論じませんので、ご了承ください。

東名阪ルートの確保がJR東海の生命線

JR東海は、「リニアがなければ会社は将来潰れる」と思っているのではないでしょうか。

JR東海は、収益の大部分を東海道新幹線から得ています。別の言い方をすると、東京~名古屋~大阪間の移動需要で稼いでいるわけです。(もちろん、途中の浜松や静岡などの需要もありますが、全体から見れば割合は小さい)

つまり、「東名阪ルートをしっかり握っておくこと」がJR東海の生命線です。逆に言うと、東名阪ルートが途中でプツッと切れたら、たちまち干上がってしまいます。

JR旅客会社6社が、現在のようなエリアごとの“住み分け”をしている限り、この構造を変えることは不可能です。JR東海が「東京や大阪に進出して在来線輸送をやりたいんじゃあーーー!」と希望しても、そんなこと無理ですよね。

東海道新幹線が抱えるリスクとは?

「東名阪ルートを確保するなら、リニアを作らなくても、東海道新幹線をしっかりキープすれば済む話じゃん」

確かにそうですが、東海道新幹線はさまざまなリスクを抱えています。

よく言われているのが東海地震。「いつきてもおかしくない」と言われて久しいですよね。もし東海地震が起きれば、長期間の運休による売上激減は避けられないでしょう。

自然災害でいえば、富士山噴火もありえます。大規模な土石流や山体崩壊が起きた場合、東海道新幹線は三島あたりで寸断されるかもしれません。歴史的にも、富士山は周期的に噴火していますから、「ないない」と考えてはいけません。

それから、未知の怪獣が海から出現して襲ってくるかもしれません。映画『シン・ゴジラ』でも、巨大不明生物は海から出現しました。海はまだまだ未知の部分が多く、怪獣が潜んでいる可能性は捨て切れない。相模湾や駿河湾に近いところを走る東海道新幹線は、怪獣襲来のリスクにも晒されており──

……って、さすがにそれはねぇわ

自然災害以外にも、老朽化の問題があります。1964(昭和39)年の開業からもうすぐ60年。列車本数は著しく増大し、最高速度も向上しました。ようするに、建設当時の予想よりも、設備の痛みが早いはずです。

東海道新幹線を建設した際、設備の寿命を何年と計算していたかはわかりません。が、遅かれ早かれ大規模修繕が必要になるはずです。その際、長期間運休は避けられません。

会社全体として採算が取れればリニアには意味がある

こうしたリスクが顕在化した場合、生命線である東名阪ルートは断たれ、JR東海は干上がってしまいます。そして、リスクが顕在化するときは、いつか必ず来ます。

設備の老朽化は避けられないですよね。また、地震や噴火などの自然災害は、「来るか来ないか?」ではなく「必ず来る。それはいつ?」と考えるのが正しいからです。

ですから、東海道新幹線以外に東名阪ルートを別に作ろうとするのは、JR東海の戦略として当然です。おおげさに言えば、JR東海が会社を存続させるために必要なのがリニアなのです。

「リニアは絶対にペイしない」

2013(平成25)年、当時のJR東海社長・山田佳臣氏の発言です。ようするに、リニア事業は採算が取れない。この発言は波紋を呼び、「JR東海自身がペイしないと認めているリニア事業を、国土交通省は認可するのか?」という批判も出ました。

が、リニアは単独で黒字を目指す性質の事業ではありません。リニア開業で利益が減るのは承知の上。会社全体として赤字にならなければ、生命線である東名阪ルートを強固にするために、リニア事業をやる意味がある。別の言い方をすれば、東海道新幹線とセットで採算が取れればOK。

当時の山田社長も、「リニアはペイしない」と言っているだけで、「JR東海が赤字になる」とまでは言っていません。そもそも、単独で見れば採算が取れていない路線なんて、いくらでもあります。採算が取れなければダメというのなら、都市圏以外の鉄道網は全部廃止です。

ですので、リニア単独で採算が取れない事実だけを見て、「リニアは意味がない」と言うのは、ちょっと違うかなと私は思いますね。

前提となる基礎知識があってこその議論

繰り返しますが、立場によって意見や見解は変わります。私がここで書いたことは、あくまで鉄道会社目線によるものです。ですから、この他にもいろいろな意見があるはずです。

読者のみなさんの意見はどうでしょうか?

ただ、どの立場で論ずるにせよ、前提となる基礎知識は必要です。前提となる知識がないまま、気分やその場のノリで議論しても、正しい方向性は得られません。

この件でいえば、「なぜJR東海はリニアを建設しようとしているのか?」は最低限知っておくべきだと思います。そのために、この記事を書いた次第です。

(2020/4/25)

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リニア開業が遅れるとJR東海は倒産の危機に瀕する?

コロナの影響で、2020年4月の東海道新幹線は、利用客が85~90%減少。もしこの状況が1年間続いたら、JR東海は数千億円の赤字になるかも。それだけ赤字が出たら、リニア建設の資金計画が狂い、リニア開業の遅れにつながるのでは?

前回前々回の記事は、コロナ禍が「リニア開業前」にどのような影響をもたらすか? という話でしたね。

今回の記事では視点を変えて、「リニア開業後」の考察をしていきます。

リニア建設のための借金3兆円は元本返済を30年猶予

今回の記事のキーワードは借金です。

JR東海はリニアの工事費用の一部を借金で賄っています。2016(平成28)年、JR東海は、「財政投融資」という制度で国から3兆円の融資を受けました。これは借金なので、いずれは返さないといけないのですが、返済計画はどうなっているのでしょうか?

返済計画は40年ローンです。

ただし、借り入れから30年間は元本返済は猶予され、利息のみを支払います。30年経過後、つまり2046(令和28)年から元本返済も開始。毎年3,000億円ずつの返済 × 10年で3兆円を返します。

なぜ、最初の30年は元本を返済しなくてよいのか?

リニア建設中は、カネが大量に出ていきます。リニア開業後しばらくは、大規模工事を終えたばかりなので、財政的な体力が落ちています。そういう時期に借金の返済を迫られたら苦しいですよね。

リニア開業後、しばらくして会社の体力が回復してから、つまりカネ(キャッシュ)が増え始めてから返済を始められるよう考慮されているわけです。

早くリニアを開業させてカネを貯めないと危ない

別の言い方をすると、JR東海としては、早くリニアを開業させなければいけません。

もし開業が遅れると、どうなるか?

「リニア建設中~開業後数年間」という、カネ(キャッシュ)が大量流出・減少する時期を通り抜ける前に、元本返済が始まってしまいます。ようするに、財政的な体力が回復する前に、毎年3,000億円の返済をしなければいけなくなるわけ。

いくらガッポリ稼いでいるJR東海といえども、毎年3,000億円の返済ともなると大変なはず。タイミングを誤れば、資金がショートして倒産する可能性があるかもしれません。

前回の記事では、「コロナによる売上減で、リニア開業にも遅れが出るのでは?」と書きました。さらに、「リニア開業が遅れた場合、JR東海は2050(令和32)年くらいに倒産の危機に立たされるかも」とも書きました。

上でも説明したとおり、元本返済は2046(令和28)年から始まります。リニア開業が遅れ、手持ちのカネが不十分な状態で2046年を迎えた場合、4~5年後くらいにカネが回らなくなるのでは、という読みです。現在のコロナ禍が、30年後くらいになってジワジワ効いてくるかもしれません。

なお、コロナとは関係ありませんが、現在、JR東海はリニアの建設工事を巡って静岡県と揉めています。2027(令和9)年の開業には、すでに間に合わないという見方も濃厚です。

リニア開業の遅れは、将来的な会社の生死に関わってきますから、工事を遅らせる静岡県(別に静岡県が悪と言っているわけではないですよ)に対して、JR東海は殺意を覚えているでしょう。いや、冗談じゃなくマジで。

開業が遅れたら運賃・料金は値上げ?

もしリニア開業が遅れ、さらに不幸なことに私の心配が当たったとします。JR東海としても、みすみす倒産するわけにはいきませんから、何か手を打つはずです。たとえば、パッと思いつくのは以下の二つです。

  1. 返済計画の見直し

    融資元の国にお願いして、返済期限を延ばしてもらう。元本の返済は「毎年3,000億円 × 10年」の計画ですが、たとえばこれを「毎年1,500億円 × 20年」に変更する。そうすれば、一度にカネが大量流出しなくなるので、資金繰りも楽になります。

  2. リニアの運賃・料金の値上げ

    リニアの運賃・料金がどうなるかは、現時点では未定です。ただし、目安というか見通しみたいなものは存在するようで、現行の新幹線運賃・料金よりも1,000円ほどアップさせるという情報もあります。

    開業遅れの影響で、もし借金返済が苦しくなるという予測が出たらどうなるか? 返済原資の確保のために、たとえば現行よりも2,000円アップさせるようなことがあるかもしれません。

いろいろな借金や支払いで大変なJR東海

読者のみなさんは、「開業が2~3年遅れても、どうってことないでしょ」と思っているかもしれません。国民の目線からは確かにそうかもしれませんが、3兆円の借金をしたJR東海としては、どうってこと大アリです。それを理解できると、リニア問題を少し違った目で見ることができると思います。

なお、借金の話ついでに触れておくと……

JR東海は国からの3兆円のほかにも、金融機関等からの借入金が約6,900億円、社債の額が約7,700億円。また、民営化後に東海道新幹線を“買い取った”のですが、購入費用のうち、未払い分が約5,400億円。(いずれも2019年3月現在)

早い話、借金が約5兆円あるわけ。まあ、リニアのような大規模事業を抱えていれば、自己資金だけでは到底足りないので、借金が多くなるのも当然なんですが……。

これだけ借金があると、支払う利息もけっこうな金額になります。3兆円の借金に対する利息 + 金融機関等への支払利息が約330億円。社債の利息が約130億円。東海道新幹線の購入ローンの利息が約350億円。

○○利息という名目で、毎年800億円近くを払っているわけです。大変だわあ……。

ついでに言うと、スーパー黒字企業なので法人税等をガッポリ取られます。2018(平成30)年度の決算では、約1,700億円を納めています。

JR東海というと、強靭! 無敵! 最強!(笑)のイメージがあります。もちろんその通りなのですが、このように支払いがたくさんありますし、将来の毎年3,000億円返済があることも含めれば、実はけっこう苦労の多い会社かもしれません。

(2020/4/23)

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コロナの影響でリニア中央新幹線の開業は遅れる?

前回の記事では、コロナ禍の影響で東海道新幹線の利用客が85~90%減っている、とお伝えしました。そのうえで、「この状況が仮に1年間続いたら、JR東海は数千億円の赤字になるのでは?」と想定してみました。

さて、ネット上では、「今回の売上大幅ダウンの影響で、リニア中央新幹線の開業が遅れるのでは?」という意見がポツポツ見られます。というわけで、今回の記事では、コロナ禍による利益減が、現在建設中のリニアにどのような影響を与えるかを考えます。

リニア開業が遅れるとしたら建設資金の都合

現在、リニアの建設工事を巡って、JR東海と静岡県が揉めているのは、みなさんご存知でしょう。「すでに開業予定の2027(令和9)年には間に合わない」との声もありますよね。また、コロナによる緊急事態宣言を受けて、工事を請け負った建設会社の中には、工事をストップさせているところも出ています。

そういう状況なので、予定通りにはいかない雰囲気がすでに出まくりです。ただ、今回の記事で考えたいのは、コロナによる売上減の影響ですので、↑の件については考慮しないことにします。

さて、もしコロナの売上減のせいでリニア開業が遅れるとしたら、その原因は何でしょうか?

「建設資金の都合がつかない」ということだと思います。

東京(品川)~名古屋間の工事費用は、5.5兆円と試算されています。したがって、数千億という単位で赤字が出れば、建設資金の確保にも影響が出る。それは開業の遅れにつながるのでは? という見解です。

……あくまで私の勝手な予想ですが、東京~名古屋間の開業は、やはり遅れてしまうと考えます。名古屋~大阪間についても、計画の見直しが発生する可能性は高いと思います。さらに最悪の場合、今回の影響が尾を引いて、2050(令和32)年あたりにJR東海は倒産の危機に瀕するかもしれません。

リニア建設の資金計画をおおまかに解説!

なぜか?

それを説明する前に、リニアの建設資金に関する基礎知識を知っておいてほしいと思います。というわけで、ここからちょっと退屈かもしれませんが、頑張って読んでください(笑)

リニアの計画は、いまから約10年前、2010(平成22)年の時点では↓のようになっていました。

当初の計画
・2027年に東京~名古屋間を開業
・その後、8年間の体力回復期間
・それから大阪までの工事に着手

東京~名古屋を開業させた後、間髪入れずに大阪までの工事を始めるのは、財政的にキツい。ある程度の時間をおいて、会社の体力を回復(=長期債務を圧縮)させてから、大阪までの延伸工事を始める。これが2010(平成22)年時点での青写真でした。

しかし2016(平成28)年、状況が変わります。国(政府)はJR東海に対して、リニア建設の資金調達を援助するため、3兆円!の融資を実行しました。「財政投融資」という制度によるものです。

この融資の目的・意図を一言でいえば、「東京~大阪の全線開業を早めるため」です。

リニアの経済効果は、東京~大阪の全線が開通してこそ発揮されるもの。東京~名古屋の部分開業では、経済効果がじゅうぶんに出ない。だから早く大阪まで開業してもらいたい。8年間も体力回復期間をおかなくて済むよう、資金調達を援助する。

簡単に説明すると、こんな感じです。というわけで、3兆円の融資を得たJR東海は計画を前倒しにして、

新しい計画
・2027年に東京~名古屋間を開業
・その後、体力回復期間を入れずに大阪までの工事に着手

こうなりました。

ちょっと話が脱線しますが、この融資、3兆円という金額に加えて、金利も1%以下とかなり低いです。ついでに言うと無担保。つまり借金のカタもない。

常識的な感覚ではありえない好条件で、まさに政府の繰り出したウルトラCです。「これはさすがにJR東海を優遇しすぎでは」と批判する声もたくさんありますが、この融資の是非については、ここでは触れません。興味がある人は、調べてみてください。

リニア施設は何円分くらい出来上がっている?

こうして建設資金の目途も経ち、いよいよリニア建設が本格的にスタートしたわけです。

ところで、リニア関連の設備は、現時点でどのくらい(=何円分くらい)出来上がっているのでしょうか?

作りかけの建物や施設は、決算書(貸借対照表)では建設仮勘定というお題目で計上されます。もちろん、作りかけの資産 = 建設仮勘定のすべてがリニア関連ではないでしょう。リニア以外の物も混ざっているはずです。ただ、大部分はリニア関連の物だと思ってよいでしょう。

この建設仮勘定という数字、2020年3月末時点での最新決算書によると、9,318億円だそうです。東京~名古屋間の工事費用5.5兆円という数字には、まだまだ程遠い。つまり、本格的な工事はこれからということですね。

なお、参考までに、作りかけの資産 = 建設仮勘定の数字を示しておきます。この数字の増え方を見ると、やはりリニア関係だと思いますね。

作りかけの資産2015年3月 1,344億円
2016年3月 1,661億円
2017年3月 2,679億円
2018年3月 4,189億円
2019年3月 6,459億円
2020年3月 9,318億円

工事に備えてJR東海は「貯金」に励んできたはず

本格的な工事はこれから。ということは、カネがばんばん出ていくのもこれから、ということになります。

東京~名古屋の工事費用5.5兆円。融資(借金)で3兆円を賄えたとはいえ、残り2.5兆円はJR東海の自己資金です。大きな支払いに備えて、JR東海は現金をたくさん用意しておかなければいけません。

ではJR東海、どれくらいの現金を保有しているのか? ↓の数字は、JR東海が保有する現金・預金額の移り変わりを示したものです。

現金・預金の額2015年3月 1,504億円
2016年3月 1,571億円
2017年3月 2,317億円
2018年3月 4,625億円
2019年3月 5,801億円

いやー、すごい現金の増え方ですね。この増やし方は、もちろん行き当たりばったりの結果ではなく、リニア工事に備えての意図的なものであるはずです。逆に言うと、これくらいの現金はキープしておかないと、リニア工事の支払いに支障が出るということなのでしょう。

現金が大きく減れば工事計画変更は不可避

ところが、今回のコロナによる売上減は、そのあたりの計算を全部狂わせてしまうはずです。会計の素人である私の勝手な計算ですが、仮に売上減が1年間続いた場合、JR東海が保有する現金は、2~3,000億円程度は目減りしてしまうのではないかと……。

ようするに、数年間頑張って貯めてきた分が全部パーになるわけです。

もしそうなったら、工事の支払いを含めた資金繰りが大きく狂うのは間違いないでしょう。当初の計画通りに工事を進め、建設会社に支払いをしていったら、会社の現金が枯渇して倒産、なんてことになりかねません。

会社の現金を枯渇させないためには、建設会社への支払いを無理のないレベルまで下げなければいけません。あるいは、しばらく工事を凍結させて、おとなしく会社の体力の回復を待つか。

いずれにしてもそれは、計画の変更を意味します。もちろん、開業が遅くなってしまう方向に、です。

まとめ

説明が長くなってしまいました(^^;) ようするに、コロナによる売上減で、リニア工事の支払いのために積み立ててきたカネが崩れてしまう。したがって、工事計画変更および開業延期の可能性が高いのではないか?

ただし、この予想は、コロナによる売上減が1年間続くという、だいぶ極端な仮定に基づいています。正直なところ、この騒動が1年間続くとはさすがに思えませんが……。ですので、今回の記事で書いた予想が、すべて的外れになる可能性の方が高いです(笑)

といっても、最初の方で書いたとおり、JR東海と静岡県の揉めごとや、緊急事態宣言で工事がストップしている現実があるので、予定通り開業できるかはすでに怪しい状態ですが……。

さて、今回の記事は「リニア開業前」の話でした。次回は、「リニア開業後」について考察します。

続きの記事はこちら リニア開業が遅れるとJR東海は倒産の危機に瀕する?

(2020/4/20)

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コロナの影響でJR東海は数千億円の赤字に!?

JR東海道新幹線は、新型コロナの影響で、4月の利用者数が85~90%減少した。

2020(令和2)年4月16日、このような衝撃ニュースが流れました。今回の記事では、この数字がいかに甚大なものなのか、解説・検証してみたいと思います。

JR東海の売上高や利益額は?

東海道新幹線(東京~新大阪)を管理するのはJR東海です。まずは、JR東海の売上高や利益額がどれくらいなのかを見てみましょう。
(以降で出てくる数字は、すべて「年間」のもの)

読者のみなさんがイメージしやすいように、数字はザックリしたものにしました。なお、この数字は「連結」ではなく「単体」での数字です。

売上高 1兆4,500億円
営業費用  8,000億円
営業利益  6,500億円
純利益   4,000億円

売上高約1兆4,500億円に対して、営業利益は約6,500億円。営業利益率は40%超。

決算書を勉強したことのある人でないとピンとこないかもしれませんが、この営業利益率、すさまじい数字です。参考までにJR東日本JR西日本の営業利益率を示しておくと、10%台後半にすぎません(それでもじゅうぶん優良な数字)。さすがJR東海、日本有数の大企業です。

東海道新幹線の利用者は「定期外旅客」が98%

JR東海の売上の大部分が東海道新幹線によってもたらされていることは、鉄道に詳しくない人にも知られた事実だと思います。

会社の売上約1兆4,500億円のうち、東海道新幹線の売上は約1兆3,000億円。在来線の売上は1,000億円程度ですから、いかに新幹線に依存した収益体制であるかが容易に理解できます。

なお、新幹線の売上約1兆3,000億円のうち、約98%は「定期外旅客」がもたらした売上です。「定期旅客」による売上は、2%未満に過ぎません。

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売上高ではなく「輸送人員」の比率でみると、「定期外旅客」は約91%、「定期旅客」は約9%という割合になります。定期旅客は、割引率の高い定期券で乗車するので、輸送人員が多くても売上への貢献率は定期外旅客よりも低い、ということですね。

f:id:KYS:20200417055325p:plain

今回の利用者85~90%減ですが、出張や旅行の需要減が原因です。減ってしまった利用者は、そのほとんどが定期外旅客のはずで、通勤等で利用する定期旅客はそのまま残っていると思われます。

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コロナ騒動で売上がどれくらい減る?

さて、前提となる数字の解説はここまで。仮に利用客85~90%減という状況が1年間続いた場合、いったいどれくらいの減収になってしまうのでしょうか?

ザっと計算してみたところ、1兆2,000億円前後の減収!になるのではないかと思われます。

1兆3,000億円の売上があってしかるべきところ、1兆2,000億円の減収。つまり、最終的な新幹線の売上は、1,000億円に届くかどうか……というレベルです。

コロナ騒動が収まらなかったら数千億円の赤字?

新幹線の売上が1,000億円。
仮に在来線の売上1,000億円がそのままだったとしても、トータルでの売上は2,000億円……。

先ほど数字を出しましたが、JR東海の営業費用は約8,000億円です。もちろん、この数字が今年度もそのまま……ということはないでしょう。臨時列車の運転を取り止めるなどの措置をしていますから、コストは下がるはずです。

しかし、鉄道の運行にかかるコストは、その大部分が「固定費」。売上に比例して掛かるコストである「変動費」の割合は小さいです。

つまり、今回のように利用者数が90%も減ったり、列車本数を削減したとしても、費用が大きく減ることはありません。ここが鉄道という業種の泣き所です。

ということで、仮に今年度いっぱいこの状況が続くと、2,000億円 - 8,000億円 = 数千億円の赤字(営業損失)は免れません。

赤字が数千億円……と言われてもピンとこないと思うので、JR北海道とJR四国の数字を出してみます。JR北海道は約500億円、JR四国は約130億円の営業損失。もちろん、会社規模が違うので同列の比較はできませんが、数千億円の赤字がいかにすさまじい額であるかが理解できると思います。

コスト削減のために定期列車も減便するのでは

結局は、東海道新幹線一本に依存という弱点をモロに衝かれた格好です。

1年間この状況が続くという、かなり極端な仮定で赤字額を弾き出しましたが、先行きの見えない現状から考えれば、本当にありうるかもしれません。

手をこまねいて数千億円の赤字を出してしまっては、会社が揺らぎます。売上の回復が期待できないとなれば、なんとかして費用を削減し、少しでも赤字の額を減らすしかありません。というわけで、JR東海は今後いろいろ手を打つはずです。

すでに臨時列車の運転は取り止めていますが、今後は定期列車の減便にも踏み切ると予想します。

新幹線の本数を減らせば、必要な乗務員の数も減るので、余剰人員は一時的に休業(一時帰休)させるかもしれません。なお、すでに一部の乗務員は在宅勤務になっているとのことです。

基本給や各種手当のカットには手を付けないでしょうが、賞与のカットはあるかもしれません。真偽はわかりませんが、JR東海の賞与は、年間で約6ヶ月分という話を聞いたことがあります。ああ~うらやましい。それをカットするとなると、労働組合とめちゃくちゃ揉めそう。

今回の記事は、数字の解説がメインになりました。次回は、この数字がもたらす影響等について、もう少し考えてみたいと思います。

続きの記事はこちら コロナの影響でリニア中央新幹線の開業は遅れる?

(2020/4/17)

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コロナ騒動 指令員が感染したら全線運休になる?

コロナ関連の話題を続けます。前回の記事は、「鉄道会社の社員がコロナウイルスに感染したらどうなる?」というテーマでした。

内容を簡単に振り返ると、

・コロナウイルスに感染した場合、列車の運行に影響が出るのは、乗務員だけではない
→たとえば、車両検査の社員が感染したら、列車の運行が止まってしまう
→なぜなら、車両検査の社員がいなくなったら「車検切れ」の車両が発生して、列車が走れなくなるから

こんな感じでした。
今回の記事では、乗務員や車両検査以外で列車の運行に直接携わる指令員に目を向けてみたいと思います。

一人が感染したら指令は全滅する可能性が高い

まずは前提知識の話から。

指令とは、列車の運行管理を行う部署です。飛行機でいうところの管制官みたいなものだと思ってください。ガン○ムやヱヴァンゲ○ヲンでいえば、作戦指揮官やオペレーターが集っている、あの部屋です。

指令員は、指令室という場所で、泊まり勤務者が一堂に会して仕事をします。

それはつまり、コロナの感染者が出たら、同じ日に泊まり勤務をしていた他の指令員も“道連れ”で自宅待機になる事を意味します。いや、被害はそれだけでは収まりません。数日間さかのぼって、泊まり勤務で一緒になった指令員にも感染させている可能性があるため、彼らも自宅待機です。

指令って、乗務員のように人数がたくさんの部署ではないんですね。過去10日間くらい遡れば、他の指令員ほぼ全員と一回くらいは顔を合わせています。

そのため、一人が感染すると、指令員が“全滅”する可能性が高いです。仮に全滅を免れても、残っているのはごく少人数でしょうから、勤務が回りません。

間引きダイヤでも指令員の人数は減らせない

乗務員の場合は、列車本数を減らせば、それに伴って必要な頭数も減ります。感染者が出ても、残った乗務員の数に応じた間引きダイヤを組むことが可能です。

が、指令はそうはいきません。
列車本数が半分になっても、指令室に詰める指令員を半分にすることはできません。ですので、感染者が出てしまった場合、乗務員よりもダメージが大きいのです。

列車を動かす以上は指令員が必須

そもそもの疑問ですが、指令員がいないと列車は動かないのでしょうか?

「一応は動く」が答えです。

列車の信号制御は、あらかじめ入力されたデータによってコンピューターが自動で行います。あとは現場の乗務員が信号に従って列車を運転させるので、指令員がいなくても列車は動くといえば動きます。

ただ、それはトラブルがまったく起きていない平和なときの話。鉄道では、大なり小なりトラブルが起きます。このトラブルに対応するための指揮官役が指令なのです。

たとえば、事故や自然災害でダイヤが乱れると、指令はダイヤを戻すために運転整理という作業をします。「この列車はここで運転打ち切り」とか「追い越しや行き違い駅を変更しよう」など、いろいろなテクニックを駆使してダイヤを元に戻します。これはまだまだコンピューターには無理な作業で、指令が人力で行わなければなりません。

そういう事情があるので、今現在ダイヤが乱れていなかったとしても、いつ何が起きるかわかりませんから、指令室には指令員を置いておかないとダメです。列車運行には必須の存在なのです。

指令員を“缶詰め”にして外部との接触を断つ

さて、ここからが本題。

列車を運行する以上は、指令員が必要であることがわかりました。では、指令員が感染した場合、なすすべなく「指令員が出勤できないため全線運休」になってしまうのでしょうか?

もし、どうしても運行を継続したい場合、現時点で私の考え付く作戦は一つしかありません。

作戦のポイントは、「健康な人」と「感染の疑いがある人」を接触させないことです。それを頭に入れて読んでください。

まず、指令員の感染が判明したら、その時点で指令室で勤務している指令員全員を、建物内に“缶詰め”にします。そして、缶詰めにされた指令員は、感染している可能性があるので、コロナの潜伏期間である約2週間は建物の外に出られません。ずーーーっと指令業務をやってもらいます。

つまり、「2週間ぶっ通しで建物内に泊まり込んで、指令業務に従事してもらう」というわけです。

え? ちょっとコンビニに行きたいから建物の外に出してくれ? ダメです、建物の外には一切出られません。もし感染していた場合、市中にウイルスをバラ撒いてしまうかもしれないので。

指令は泊まり勤務ですから、建物内に風呂や寝室はあります。食料や着替え等は、外から差し入れてもらえば、なんとか生活できます。差し入れを届けに来た人間との直接接触はNGなので、玄関のフロアにでも置いてもらって、あとで回収します。

そうやって外から援助し、建物内の指令員には2週間頑張ってもらいます。もちろん、交代交代で休憩や仮眠を取りながらです。

一方、建物の外の話。
非番や休日の指令員には、2週間の自宅待機を命じます。

ようするに、建物の「中」の指令員は建物から出さない、建物の「外」の指令員は自宅待機。この方法、先ほど触れた、「健康な人」と「感染の疑いがある人」を接触させないというポイントをちゃんと守れていますよね。

こうして、コロナの潜伏期間である2週間が経過するのを待ちます。建物内の指令員・自宅待機の指令員、いずれも発症者が出なければ、他の感染者はいないと確定できます。それを確認したうえで、指令室を通常体制に戻します。

非常事態を乗り切るには多少強引な手が必要

この缶詰め作戦が、列車運行を止めないために、私の考え付く唯一の方法なのですが、いかがでしょうか? もし社内で提案しようものなら、「2週間ぶっ続けで仕事させるとか無茶だよ」と言われそう(^^;)

非っっっ常にバカげた方法なのは百も承知です。しかし、バカげた方法にでも頼らなければ、人員が足りない非常事態は乗り切れないと思います。「指令員がいないため全線運休」よりはマシでしょう。

ちなみにこの方法、労働基準法上は問題ない……はずです。労働基準法が求めているのは、

  • 8時間を超える勤務の場合は、休憩時間1時間以上を付与
  • 休日は、1週間に1日以上または4週間で4日以上を付与

2週間の連続勤務を禁ずる規定はないんですね。勤務中は適切な休憩時間を与え、2週間の連続勤務の前後に休日をキチンと与えていれば、法律違反にはならないはずです。

(2020/4/13)

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コロナ騒動 感染者が出たら列車の運行が止まる「意外な部署」とは?

コロナ騒動、まだまだ拡大していますね。

こういう状況ですから、鉄道会社の社員が感染する可能性もあります。列車を運転する乗務員や、指令室で列車運行を管理する指令員が感染した場合、列車運行に支障が出る可能性が指摘されているのは、みなさんご存知でしょう。

もちろん、運転士や指令員が感染したらヤバいのですが、実はそれ以外にも「感染者が出たらヤバい部署」は存在します。

車両基地で車両の検査を担当する社員です。

巷では「乗務員が感染したらヤバい」とばかり言われていますが、鉄道マンの私に言わせれば、車両検査の部署も感染者が出たら相当にヤバいです。

【前提知識】鉄道車両にも「車検」が存在する

車両検査の部署から感染者が出たら、なぜヤバいのか? まずは前提知識の話からさせてください。

自動車と同じように、鉄道車両にも車検が存在します。

人間の健康診断に、簡単なものから人間ドッグまでいろいろあるように、鉄道車両の検査にも数種類があります。簡単な目視や打音で済ませられる検査もあれば、車両をすべてバラしてしまう本格的な検査まであります。

会社によって多少呼び方が異なりますが、「仕業検査」「交検検査」「列車検査」「月検査」「重要部検査」「全般検査」などと呼ばれます。

さて、これらの各種検査を行うための基準は、「時間」または「走行距離」です。

  • 時間 = ○日(○年)以内に一回
  • 走行距離 = ○㎞走行する前に一回

もし、これらの検査基準を超過してしまうと、いわゆる車検切れの状態になってしまいます。

ぶっちゃけ、車検切れになっても、走らせようと思えば物理的には可能です。検査期限を超過したら車両が壊れるわけではないですから。しかし、検査基準というものは、鉄道車両の安全を守るために定められたルール。車検切れの車両を走らせることは、安全面から言えばNGです。

検査の社員が感染したら車両が「車検切れ」になる!

さて、コロナの話はここから。

コロナウイルス、一人が感染すると、同じ場所で働く他の社員も“道連れ”で自宅待機になってしまいますよね。

コロナの潜伏期間は、最長で約2週間といわれています。つまり、感染していないかどうかを見極めるため、および感染していた場合に周囲を巻き込まないためには、約2週間の隔離が必要です。

もし車両検査の社員が一人感染すると、同じ車両基地で働く社員たちが、約2週間の自宅待機になります。そしてここが重要なのですが、さきほど紹介したいろいろな検査の中には、実は、検査周期が2週間よりも短いものが存在します。

つまり、約2週間、車両検査をする人がいなくなると、車検切れの車両が出てくることが避けられません。車両を動かすことができなければ、列車の運行が止まってしまう……。

これが考えられる最悪のシナリオです。

中小の鉄道会社は深刻な問題になりうる

JRなどの大手鉄道会社は車両基地が複数あるので、一つの車両基地がダメになっても、他の車両基地に検査を回すことが物理的には可能です。ですから、最悪の事態だけは回避できるかもしれません。

問題は中小の鉄道会社。

中小の鉄道会社は、車両基地および車両検査の担当部署が一つしかないことが普通です。そのため、コロナのせいで車両検査の社員が自宅待機になると、車両検査については完全にお手上げになってしまいます。「車両が使えないため全線で運休」という事態が発生するかもしれません。

うーん、実際に感染者が出た場合、中小の鉄道会社はどう対応するんだろうか……。正直、自分にはまったく策が思いつきません。感染者が出ないことを祈るのみです。

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2020(令和2)年5月2日 新幹線の乗務員がコロナウイルスに感染


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コロナ騒動 緊急事態宣言で鉄道の減便はある?

4月の“風物詩”が今年は見られない……。

新年度になると、異動や入社・入学に伴い、通勤・通学に不慣れなお客さんが増えます。その影響で、列車の混雑や遅延が発生するのが“風物詩”なのですが、今年(2020年)はそれが見られない。

原因はおわかりですね? そう、コロナ騒動による利用客大幅減少の影響です。

減便は混雑を誘発して感染リスクを増やす

2020(令和2)年4月7日、東京都などに「緊急事態宣言」が出されました。緊急事態宣言が出され、市民の外出を抑制するという観点から、鉄道が減便されることはないのか? これがみなさんの一番興味があるところでしょう。

あ、本記事内でいうところの「鉄道の減便」とは、「定期列車の運休」と定義します。ゴールデンウィーク季などに臨時列車の増発を取りやめることは、減便とは解しませんのでご了承ください。

すでにメディアでも報じられている通り、鉄道各社は「現時点では減便の予定はない」としています。

ネット上でも大多数の人が同様の意見を述べていますが、下手に減便すると、かえって混雑が増すので感染のリスクが高まります。時差通勤が奨励されていますが、これは満員電車が感染のリスクを高めることから、車内の混雑率を下げるのが目的です。ですから、本数減により混雑が増してしまっては本末転倒です。

鉄道が動いていると分かれば、ほとんどの人が駅に向かうでしょう。したがって、もし市民の外出を抑制したいのであれば、完全に列車を止めるしかありません。台風のときの計画運休のように、です。

しかし、緊急事態宣言は「最低限の外出まで禁止するものではない」ということですので、列車をすべて止めるのはさすがに過剰対応です。

鉄道減便は交通事故での死者増を招くかも

また、鉄道が減便されると、「車で通勤しようか」と考える人が出てくるはずです。しかし、現時点での数字から考えれば、「コロナで死亡する確率」よりも「交通事故で死亡する確率」の方が高いでしょう。

交通事故での死者数は年間3,000~4,000人。鉄道が正常に動いていてこの数字ですから、鉄道が減便されて車通勤者が増えれば、死者数も増えるはずです。

人にはいろいろ事情があるので、単純に割り切れないところもあります。が、あくまで確率論から考えれば、コロナで死ぬことを恐れて車通勤に切り替えることは、死ぬ確率を上げてしまうわけですね。これも本末転倒です。

ということで、各社が「現時点では減便の予定はない」としているのは、妥当な判断です。

減便するとなったら現場は手配が大変

さて、以上のような、どこでも読める一般論や建前論だけで終わってしまっては、当ブログの存在意義がありません。ここからは本音の話をさせてもらいます(笑)

現場の最前線で働く鉄道マンとしては、「減便はメンドクサイから勘弁して」が正直な感想です。

仮に減便することになったら、列車ダイヤをいじるのはもちろんですが、それに付随して、乗務員の乗務スケジュールである「乗務員運用」、車両の使用スケジュールである「車両運用」もいじらなければなりません。そのためには、列車ダイヤを管理する指令、乗務員を管理する区所、車両を管理する車両区、こうした複数の部署で協議して計画を組み直す必要があります。
(実際に、台風の計画運休のときなんかでも、そういう作業をします)

鉄道というものは、ダイヤ・乗務員・車両が“三位一体”となって初めて動きます。どれかをいじれば、他の要素にも影響が及びます。

「本数を減らすだけだから手配は簡単でしょ?」などと考えているとしたら、とんでもない話。減便だろうが増便だろうが、列車ダイヤをいじるということは計画変更にほかならず、手配はクッソ大変です。

必要なのは、社内調整だけではありません。

緊急事態宣言が出された都道府県では、相互直通運転が当たり前のように行われています。相互直通運転は、自社と他社の間で車両が相互に行き来します。そのため、列車ダイヤや車両運用計画をちょっといじるだけでも、他社との調整が必要です。

そうしたメンドクサイ作業が、鉄道の安全に貢献したり、社会の役に立ったりするのなら、喜んで仕事をします。それが仕事のやりがいですから。しかし実際には、先にも述べたように、車内混雑を誘発したり交通事故の増加を招いたりといったデメリットばかりですから、まったくヤル気が出ませんね。

水面下では乗務員が感染したときの減便ダイヤを検討中

ただし、そのメンドクサイ作業をやらざるをえなくなる場面は、そのうちやってきます。

乗務員が感染した場合です。

乗務員が感染した場合、他の乗務員も“道連れ”で自宅待機になりますから、乗務員の頭数が足りなくなる。そうなると、どうしても列車本数を減らさざるをえません。

実際、各鉄道会社では、乗務員が感染した場合に備えての「間引きダイヤ」を検討中です。あくまで水面下の動きなので、報道などはされていませんが、間違いありません。ですから、メンドクサイ作業を「そのうちやらざるをえなくなる」ではなく、「すでに着手している」が正しいです。

4月8日現在、駅員の感染例はありますが(JR東日本)、乗務員の感染例は1件もありません。もしあれば、国交省(地方運輸局)から速攻で各社に通達が出されるはずですから。

人口 ÷ 感染者数という単純計算でいけば、感染者は約3万人に1人という割合(→日本の人口=約1億2,500万人 4月8日現在の感染者数=約4,000人)。ピンポイントで鉄道会社の乗務員が感染する確率は、そう高くありません。

しかし、それもいつまで持つか分かりません。たぶん、そのうち穴が空きます。というわけで、次回の記事では、鉄道会社の社員が感染した場合について、もう少し考えていきます。

続きの記事はこちら コロナ騒動 感染者が出たら列車の運行が止まる「意外な部署」とは?

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コロナによる売上激減 鉄道会社が潰れることはある?

ウチの鉄道会社も、コロナのせいで業績急降下中……。

コロナ騒動、まだまだ長引きそうですね。各鉄道会社で利用客が激減していますが、ウチの会社も例外ではありません。

現場の駅員や乗務員に話を聞いても、社内で公表される数字を見ても、前年比で30~40%は客足が落ちている(=前年比で60~70%しか利用客がいない)感じです。
(この記事を書いている2020年3月28日現在)

これだけの業績低迷はしばらく続きそうですが、ぶっちゃけ、鉄道会社は潰れないのでしょうか? 大手の鉄道会社ならともかく、中小は大丈夫なのか?

「そりゃー常識的に考えて、鉄道会社が潰れることはないでしょ」というのがみなさんの感覚だと思います。ただし、「ではなぜ潰れないかを説明しろ」と言われたら、なかなか難しいでしょう。そこを理論的に解説するのが、今回の記事です。

鉄道とは関係ない、会計や簿記みたいな話が混じってきますが、なるべく噛み砕いて書きます。

会社が潰れるか否かは「資金繰り」で決まる

まずは一般論から。
会社の潰れる・潰れないは、いったい何で決まるのでしょうか?

実は、赤字・黒字はあまり関係ありません。会社の命運を分けるのは、「資金繰りがうまくいくかどうか」です。

赤字でも、資金繰りがうまくいっている限りは、会社は潰れません。黒字でも、資金繰りを誤って資金がショートした瞬間、会社は潰れます。黒字倒産というやつです。

会社は「手持ちの現金」が尽きた時点で潰れる

そもそも、資金繰りとは何でしょうか?

会社は、業務を継続するうえで、いろいろな支払いが発生します。

  • 取引先への仕入れ代金
  • 従業員への給料
  • 銀行への返済や利子の支払い
  • 税金や社会保険料の納付

これらを支払うためには、現金・預金が必要です。

みなさんは財布に現金を入れていたり、銀行預金を持っていたりしますよね。それと同じように、会社にも手持ちの現金・預金があります。

もし会社の現金・預金が底をついて、これらの支払いができなかった場合、「残高が足りなくて決済できねえよ」という「不渡り」になります。不渡りを出してしまった場合、会社は業務を続けることができず潰れてしまいます。

たとえ黒字決算でも、手持ちの現金・預金が少ないタイミングで、いろいろな支払い期限が一気にきてしまうと、現金・預金が枯渇してアウト、なんて事態になったりします。

したがって、会社を続けるためには、支払い原資である手持ち現金・預金を枯渇させないこと。現金・預金を枯渇させないために、支払いや入金のタイミングをコントロールすること。これが資金繰りです。

「日銭商売」の鉄道業は資金繰りに強い

さて、ここからが本題。

実は鉄道業、資金繰りには強い業種なのです。というのも、鉄道会社の場合、基本的に「売上が即現金化」するからです。

みなさんは列車に乗るとき、券売機に現金を入れて切符を買いますよね。ICカードを利用するときも、事前に現金を支払ってチャージするはずです。

つまり、鉄道会社は毎日コツコツ現金収入があるため、手持ち現金が枯渇しにくいのです。そのため、「いま手持ち現金がなくて○○の支払いができない!」という事態が発生しにくいわけです。

したがって、コロナ騒動で業績が低迷しても、すぐに日々の支払いに窮することはありません。支払いがキチンとできているのであれば、不渡りを出すこともないので、会社は潰れないという理屈です。

鉄道会社が不景気に強いのは、そういう構造的な強みがあるからです。

「入金待ち」のある・なしで資金繰りは大違い

これが製品を作って出荷する工場とかだと、話が違ってきます。

こういう業種って、「月末締めの翌月払い」みたいに、売り上げたタイミングと、実際に現金が入ってくるタイミングがズレるのが一般的ですよね。つまり入金待ちという状態があるわけで、その入金待ちの期間に大きな支払いが発生すると、資金繰りに窮することがあります。

鉄道業は売上が即現金化するため、入金待ちの状態がありません。そこが鉄道業の長所です。

会計や簿記を勉強したことがある人は、「流動比率」という単語を聞いたことがあると思います。流動比率とは「会社の短期的な安全性」、すなわち直近1年くらいで会社が潰れるか否かを判断するために使われたりする指標です。

実は鉄道会社、流動比率の数値が一般的に安全といわれるラインを下回っていても、問題ないケースが多いです。「売上が即現金化」「入金待ちがない」という特徴が、会社の安全性を高めているのですね。

バス会社の経営が苦しいのはなぜ?

今回のコロナ騒動で、バス会社が経営危機に陥っている話をよく聞きます。鉄道とバス、いってみれば“お隣”の業種ですから、鉄道会社が潰れにくいのであればバス会社も潰れにくいはず。しかし実際には、危機に瀕しているバス会社が多いのはなぜでしょうか?

私はバス業界のことはよく知らないので、推測になりますが……

まず、単純に資金力の差があるのだと思います。バス会社は鉄道会社に比べると数が多く、零細の会社も少なくありません。そのため、鉄道会社よりも手持ち資金が乏しく、資金繰りが厳しいわけです。

そして、鉄道と違って売上が即現金化しない事情もあるかと思われます。

路線バスを経営するバス会社なら、鉄道と同じように売上が即現金化するので、資金繰りにはそこそこ強いはずです。問題は、路線バスではなく、バスツアーが売上の中心になっている会社。

バスツアーって、ツアーに参加したその場で、参加客がバス会社に代金を支払うわけではないですよね。旅行会社がツアーを企画・販売し、参加客は旅行会社に代金を支払う。そして、旅行会社とバス会社の間で精算を行い、ようやくバス会社は現金を得る。

いってみれば、バス会社は旅行会社の下請け的な位置付け。たぶん、そういうケースが多いはずです。

バス会社と旅行会社の精算は、会社間でのやり取りですから、「月末締めの翌月払い」みたいな条件になっているのではないでしょうか。つまり、ツアーバス会社は「売上が即現金化」しないわけで、資金繰りがラクな業種ではないと思います。

(あくまで私の推測です。間違っていたら申し訳ありません。ご存知の方がいらっしゃったら、教えてください)

もちろんこの他にも、バス会社同士の価格競争が激しいとか、旅行会社からの値下げ要求が厳しいとか、そういう事情で利益が圧迫されて経営が苦しい面もあるでしょう。鉄道会社には、そうした要素はありません。

こうして見ると、結局、鉄道とバスは似て非なる業種だと思います。

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