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プロ意識とは何ぞや? 現役鉄道マンが考察してみる(2)

前回の記事の内容は、「プロ意識とは何ぞや?」というものでした。プロ意識とは、できないことを恥ずかしいと思う恥の意識である、という故・野村克也さんの言葉を紹介し、私なりに思っていることを書きました。

ただ、当然ながらプロ意識という言葉については、他にもいろいろな切り口があるはずです。今回の記事では、別の考察もしてみましょう。

私の考え カネを貰うのがプロ・カネを払うのがアマ

プロの対義語といえば、アマチュアですね。では、プロとアマチュアの違いは何でしょうか?

いろいろな考え方があるでしょうが、私の答えの一つは、「カネを貰うのがプロ・カネを払うのがアマ」です。

たとえば、私は将棋が趣味ですが、将棋大会に参加するときには参加費を取られます。将棋道場で指すときにも入場料が必要です。プロ棋士に指導してもらおうと思ったら、それこそウン万円のカネが飛んでいきます。

ようするに将棋に関して言えば、アマチュアの私は「カネを払う側」です。

これに対して、プロ棋士は「カネを貰う側」です。

プロ棋士は、将棋大会に審判として呼ばれれば謝礼が貰えます。アマチュアへの指導をこなせば、やはりレッスン料を受け取れます。本を執筆して稼ぐこともできますね。もちろん、普段のプロ同士の対局でも、対局料・賞金が発生します(=スポンサーがついているから)。

カネを貰うとは人の役に立つこと

では、カネを貰うとはどういうことか? これは逆の立場、つまりカネを払う側に立って考えると理解しやすいかもしれません。

みなさんは日々の暮らしの中で、どういうときにカネを払うでしょうか?

「自分の役に立ってくれるもの」「自分が抱えている問題を解決してくれるもの」に対してカネを払うはずです。購入しても全然役に立たない商品やサービスにカネを払う人は、いないと思います。

つまり、相手の役に立つような商品・サービスを提供できてこそ、カネを貰えるわけです。

であれば、カネを貰う側であるプロは、誰かの役に立つ・その人が抱えている問題を解決する意識があってしかるべきです。将棋で言えば、カネを貰って将棋を指しているプロ棋士は、将棋を指すことで何かしらの価値を世の中に提供しなければなりません。「将棋を指すことで誰かの役に立つ。その対価としてカネをいただく」がプロ棋士です。

「自分がいい将棋を指して勝てれば満足」は、私のようなアマチュアならいいでしょう。しかし、プロがそれでは困ります。いくら強くても、「自分がいい将棋を指して勝てればそれで満足」という姿勢で将棋に携わっているならば、それはアマチュアではないでしょうか。

「ゼニが取れる仕事」をしているプロ棋士

将棋の話をもうちょっと。私は菅井竜也八段というプロ棋士のファンなのですが、菅井八段は「振り飛車」という戦法の使い手です。

この振り飛車戦法、プロレベルでは苦しい戦法であって、特にトップレベルでは使い手がほぼいません。藤井聡太四冠をはじめとしたトップの棋士たちは、ほとんどが「居飛車」という戦法の使い手です。

しかし、プロでは苦しい振り飛車は、アマチュアでは人気の戦法。そのため、菅井八段が活躍すると多くのファンが喜びます。私も振り飛車を指すので、勉強のために菅井八段の本を買ったり、将棋中継を見たり、ヤル気を刺激されて大会に参加したりと、見事にカネを持っていかれてます(笑)

菅井八段の将棋は、「ゼニが取れる仕事」なのですね。

先日の雑誌記事で菅井八段は、「自分が勝つことで、一局でも多く振り飛車の将棋をファンに見てもらう機会を増やしたい。ファンのために頑張りたい」と答えていました。まさにプロの姿勢だと思います。

プロとは何か? ラーメンハゲこと芹沢達也さんのお言葉

プロとは何ぞや? この問いについて、前回の記事では「プロ意識とは恥の意識」と書き、今回の記事ではカネという切り口から考えました。

最後に補足蛇足として、私が尊敬する『ラーメン発見伝』のラーメンハゲこと芹沢達也さんの言葉を紹介して終わりましょう。芹沢さんは、プロというものについて↓のようにおっしゃっています。

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『ラーメン発見伝』第35話「プロとアマチュア・前編」より

状況が整っていれば、アマチュアでも結果は出せる。しかし、どんな状況でも最善を尽くして結果を出すのがプロである。

うーん、かっこいい。私は、列車の運行管理を行う指令という仕事をしていますが、ダイヤがぐちゃぐちゃになって「これは苦しい……」と感じたときに、ラーメンハゲの言葉を思い出して頑張っています(笑)

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プロ意識とは何ぞや? 現役鉄道マンが考察してみる(1)

突然ですが、私の好きなブログの一つが↓こちらです。

忘れん坊の外部記憶域

はてなブロガー・珈琲好きの忘れん坊さんが運営するブログですが、先日の記事で「プロ意識とは何ぞや?」について語っておられました。

↑の記事に触発されたこともありまして、私も今回は、プロ意識という言葉について書いてみます。

故・野村克也さんの言葉 プロ意識とは「恥の意識」

プロ意識とは何ぞや?

ある意味では曖昧な言葉ですよね。ズバッと言い表すことは、なかなか難しいかもしれません。ただ、私は「プロ意識とは何ぞや?」について納得したことがあります。故・野村克也さん(元プロ野球選手・監督)の著書を読んだときです。野村さんいわく、

プロ意識とは「恥の意識」である

だそうです。恥の意識とは、ようするに「できないことを恥ずかしいと感じる気持ち」です。プロとして恥ずかしいプレーをお客さんには見せられない。だからプロには上手くなる義務があり、そのために必死になって練習する。

そのようなことが書かれていましたが、「お客さんに対してみっともない仕事は見せられない!」と思って仕事をしている私には、ドンピシャという感じでした。

為すべきことを為す 責任感こそがプロ意識

先ほど紹介したこちらの記事で、珈琲好きの忘れん坊さんは「責任感こそがプロ意識」と書いていました。もう少し具体的に言うと、「自らが為さなければならないことを期日内に必要な品質でアウトプットするという責任感をプロ意識という」とのことです。
太字部分は引用)

私なりに解釈させてもらうと、「為さなければならない」という言葉の裏側には、「できなかったら恥ずかしい」という意識があるはずです。「できなくても別にいいや」と思っている人から、「為さなければならない」という発想は出てこないはずですから。

その意味では、恥の意識と共通した部分がある考え方だと思います。

現代では恥の意識を持たせることが難しいかも

私の若い頃、上司や先輩から「こんなことも知らないのか・できないのか!」と怒鳴られたのは、一度や二度ではありません。その度に「ちくしょう」と感じ、もっとレベルアップしなければと一生懸命取り組んできました。

そのような過程で、野村さんの言うところの「プロ意識とは恥の意識」、珈琲好きの忘れん坊さんが言うところの「プロ意識とは責任感」が身に付いてきたのかなぁと、今になって振り返って感じます。

ただ、私の辿った道を令和の現代で再現させようとするのは、けっこう危険でしょう。「こんなことも知らないのか・できないのか!」と迂闊に怒鳴ろうものなら、パワハラになる可能性があるからです。

そういう事情もあり、最近は上司が部下を叱りにくくなりました。つまり、「できなかったら恥ずかしい」という感覚を、叱ることによって持たせるのは難しいわけです。

「遅れても仕方ない」が“拡大解釈”されていないか?

恥の意識が育ちにくくなった原因は、他にもあると私は感じています。鉄道業界を根本から変えた2005(平成17)年の福知山線脱線事故です。

この事故を境に、「鉄道は定時運転を守ることが美徳」から、「安全が再優先。安全のためなら遅延が発生しても仕方ない」という風潮に変わりました。

それは良いことなのですが、私が気になっているのは、この「仕方ない」がどんどん“拡大解釈”されていき、「仕事が満足にできなくても仕方ない」と安易に妥協する人が増えていないか? ということです。

正直に書きますが、必要な安全確認を行なったためではなく、現場係員の単なる知識不足や不手際が原因で列車が遅れることもあります。こちらのレベルの低さでお客さんに迷惑をかけたのだから、本当に申し訳ない話。しかし、それすらも「まぁ遅れても仕方ないね」みたいな雰囲気で済ませるケースが以前より増えたと感じています。

いや、ウチの会社だけかもしれませんが……。

鉄道運行にはトラブルがつきものですが、かつての「遅れは許されない」という風潮だと、トラブル発生時のマニュアルを頭に叩き込んでおく必要がありました。トラブルが起きてから、ゆっくりマニュアルをめくって確認しているのでは遅延が大きくなる → それは恥ずかしいから、ちゃんと覚えておかなきゃ、という具合です。

それが「遅れてもいい」という考え方だと、「あらかじめ頭に叩き込んでおかなくても、トラブルが起きてからマニュアルを確認すればいいじゃん」という姿勢の社員が生まれても不思議ではありません。というか、実際にそういう社員はいます。

誤解のないよう言っておきますが、私はかつての「遅れは許されない」という風潮の方がよかったと思っているわけではありません。「マニュアルを頭にキッチリ叩き込んでいる社員」と「トラブルが起きてからマニュアルを確認する社員」、鉄道の安全を守る人材としてレベルが高いのはどちらか? という話です。

結局は「背中で育てる」しかないと思う

このように近年では、「プロ意識とは恥の意識」を持たせるのは容易でないというのが私の認識です。では、どうすればよいのか。

私も現在は一応、ペーぺーではなく管理職と呼ばれる立場なので、指導の難しさはわかっているつもりです。正直、口で言って100%を理解してもらうのは不可能でしょう。私自身もそうでしたが、「部下は上司の言うことなんて聞かない。上司のやることを真似する」ですから。

珈琲好きの忘れん坊さんも記事内でおっしゃっていましたが、結局は背中で育てることが必要でしょう。上司や先輩自身が「自分に厳しく」の姿勢で仕事に取り組み、それを部下や後輩に見せていくしかないと思います。

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「コミュニケーション能力」って結局はどういう能力?

コミュニケーション能力の「定義」ってなに?

昔から、私がものすごく疑問に思っていることです。今回の記事では、就職活動で頻出の単語・コミュニケーション能力について書きます。

あなたはコミュニケーション能力の「定義」を答えられる?

「仕事において大切なのはコミュニケーション能力です」

これ、あちこちで言われていますよね。採用情報ページの「先輩社員へのインタビュー」みたいな記事でも、就職活動系のブログでも、お決まりのように書かれている文言です。

また、会社側が「選考にあたって重視する点」として、コミュニケーション能力は毎年のように1位になっています。

そんな世の中に対して問いたい。

コミュニケーション能力って、なに?
別の言い方をすれば、コミュニケーション能力の「定義」とは?

曖昧なモノサシが採用の判断基準になっている

この問いにキチンと答えられる人が、はたしてどれくらいいるでしょうか? あくまで私の想像ですが、ほとんどの人は答えに詰まるのではないでしょうか。

仮にそうだとしたら、定義がはっきりしないものを基準にして、採用活動が行われていることになります。そんな曖昧なモノを判断基準にされたら、学生だって、どう対応すればいいか困るでしょう。

コミュニケーション能力という言葉は漠然としています。ですから、まずはキチンと定義したうえで「大切な能力だよ」と言うべきだと思うのです。それをせずに「コミュニケーション能力は大事」と言うことこそ、コミュニケーション能力の欠如じゃね? と感じるのは私だけでしょうか。

鉄道マンの私が考える「コミュニケーション能力の定義」とは

前置きはこれくらいにして、いよいよ本題に入りましょう。鉄道マンとして、それなりに長い年数働いてきた私が考えるコミュニケーション能力の定義とは、次の通りです。

  1. 自分の意図を正しく相手に伝える能力
  2. 相手の意図を正しく理解する能力

もちろん、この定義が唯一の絶対解だとは言いません。他にも、いろいろな考え方があるでしょう。

また、立場や場面によっても定義の仕方は変わります。たとえば、「婚活で必要なコミュニケーション能力」と「鉄道マンとして必要なコミュニケーション能力」は明らかに違うでしょう。

先ほど私が示した①②は、「鉄道マンとしての立場」「鉄道の現場で働く場面」という観点からの定義であることを、ご了承ください。

いや、立場や場面で定義がコロコロ変わるからこそ、コミュニケーション能力という言葉は曖昧で難しいのですが……。とにかく、自分なりに定義をすることが大切だと思います。

「意図を正しく伝達・理解する能力」とは?

少し話が逸れました。
もう一度、私が考える「コミュニケーション能力の定義」を書いておきます。

  1. 自分の意図を正しく相手に伝える能力
  2. 相手の意図を正しく理解する能力

詳しく説明していきましょう。

① 自分の意図を正しく相手に伝える能力

自分の意図を正しく相手に伝える能力。噛み砕いて言えば、「○○をやってほしい」と伝えたら、相手がこちらの意図した通りに動いてくれること。

誰でも一度は、「ちがあぁぁう! 俺が言いたかったのは、そういうことじゃない!」という経験をしたことがあるでしょう。そういう状態に陥らないための能力、とも言えます。

② 相手の意図を正しく理解する能力

①の裏返しともいえるのが、相手の意図を正しく理解する能力。

仕事をする上では「作業の根拠となるモノ」が存在します。規定やマニュアル、上司からの口頭指示や指示文書、他部署からのお願い……などです。

これらの内容を正しく理解し、相手が意図した通りの働きをすることが仕事では求められます。そのために必要な能力です。

コミュニケーション能力とは「感じの良さ」ではない

自分の意図を相手に正しく伝えられず、曖昧な指示を出す。相手の意図を理解できず、トンチンカンな行動をする。

これでは仕事がスムーズに進みません。このような社員は、いくら感じが良くて話しやすい人だとしても、コミュニケーション能力があると評価されることはないでしょう。

鉄道会社の現場は連携プレーで動いています。ですから、「お互いの意図を正しく伝達・理解する能力」が重要なのです。

たとえば私は、列車の運行管理を行う「指令」という仕事をしています。日常の仕事の中で、いろいろな部署に指示を出したり、逆に要請を受けたりするんですね。駅の窓口や信号制御担当、列車に乗っている運転士や車掌、運転区(乗務員の管理をする部署)、工事の担当者、他会社の指令……などです。

カッコよく言えば、「情報を整理して全体を取りまとめる仕事」でしょうか(笑)

意図が正しく伝わらなかったせいで起きた死亡事故

こういう仕事では、「意図を正しく伝達・理解する能力」がないと、致命的なミスを犯す可能性があります。実際、意図が正確に伝わらなかったことが原因で人が死傷した事故もあります。

有名なのは、2002(平成14)年11月6日、JR西日本の塚本駅付近で発生した救急隊員の死傷事故でしょうか。

これはいわゆる二次災害の事故で……

まず、線路内に侵入して遊んでいた中学生が列車にはねられる人身事故が発生。乗務員・駅員・指令員・警察・救急隊が、互いに連絡を取りながら人身事故の対応をしていました。

ところが、関係者間で意図がうまく伝わらず、現状認識がお互いにバラバラな状態になっていきます。

なんとその結果、線路内で救急隊による救護作業が行われている最中にもかかわらず、特急列車が通常の速度で走ってくるという、信じられない事態を招きます。線路内で救護作業をしていた救急隊員が、走ってきた特急列車にはねられて亡くなりました。

  1. 自分の意図を正しく相手に伝える
  2. 相手の意図を正しく理解する

これができなかったばかりに、人を殺してしまった事故です。こんなことで死んだらタマランですよ、ホントに……。遺族だってやりきれないでしょう。

コミュニケーション能力向上のためのオススメ本

この仕事をやっていると、「鉄道の仕事は関係各所の連携プレー」であり、「意図を正確に伝達・理解することの大切さ」を痛感する場面がよくあります。だからこそ私は、コミュニケーション能力を①②のように定義した次第です。

ちなみに、私がブログを書くのは、文章作成を通して「鉄道マンとしての言葉力を磨く」という目的もあります。

さて、最後に本の紹介をして〆ましょう。意図を正しく伝達するスキルを身に付けるために、私がオススメするのは以下の3冊。

新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール

新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール

  • 作者:藤沢晃治
  • 発売日: 2020/01/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

下の2冊はちょっと古いですが、版を重ねているので、大きな書店に行けば見つかるでしょう。就職活動にも使えるし、社会人になってからも役立ちます。

この3冊ですが、ぶっちゃけ、当たり前のことしか書かれていません。しかし、その当たり前のことを学ぶ機会が、今の世の中では意外とない。

「表現の技術・説明の技術・文章の書き方、きちんと教わったことがない」という人なら、一読の価値はあります。また、「わかりやすい記事が書けなくて……」と悩んでいるブロガーさんの参考にもなると思います。

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【鉄道会社への就職】「弱みは強みに変換してアピールしろ」は疑問

鉄道会社に就職を目指す学生さん向けの記事です。今回のテーマは、弱み・短所です。

エントリーシートや面接では、「あなたの弱み(短所)は何ですか?」という質問に遭遇することがあると思います。それにどう対応していくべきか? を考えるのが、今回の記事の趣旨です。

よく言われる「弱みは強みに変換して伝えろ」の手法は疑問

「弱みは?」と質問されたときに、どう受け答えをすべきか? 巷でよく推奨されるのが↓の手法です。

「弱みは強みに変換してアピールしろ」

たとえば、「決断が遅い」という短所だったら、「慎重」という長所に変換してアピールする。「細かいところまで気になる」は「几帳面」と言い換えることができる。

こういう具合です。
しかし、この変換手法、私は疑問手だと思います。なぜか?

なぜ会社は「あなたの弱みは?」と質問してくるのか?

それを説明するためには、「なぜ会社は学生の弱みを聞いてくるのか?」という原点から考える必要があります。

エントリーシートや面接での質問には、必ず目的があります。言い換えれば、「この質問を通して、学生の何を見たいのか?」ですね。

それでは、「あなたの弱みは?」という質問の目的とは、いったい何なのか。学生のみなさん、わかりますか?

一言でいえば、「この人は入社してから成長してくれるだろうか?」を測るための質問です。

自分を成長させるには弱みを把握することが必要

失礼ながら、採用試験を受けに来た時点での学生の能力など、即戦力には程遠いです。ですから、会社側が知りたいのは、「現時点での能力」ではなく「入社後に成長してくれるかどうか?」。(現時点での能力も、あるに越したことはないですが)

では、入社後に成長するために必要なものとは何か?

  1. 自分の足りない部分(=弱み)を自覚すること
  2. その足りない部分をどうカバーするか考え、行動すること

この二つができる人なら成長してくれるだろうと、会社側は期待します。

ようするに会社側は、あなたは①②ができる人間か?──足りない部分を自覚し、それをカバーし、成長していける人間か?──を知りたいわけ。それを測る一環として、「あなたの弱みは?」と質問してくるのです。(……でいいんですよね? 企業の採用担当さ~ん ^^;)

「弱みは強みに変換」の手法が疑問である理由

以上の説明を踏まえると、「弱みは強みに変換して伝えろ」という手法がいかに疑問か、納得していただけると思います。

つまり、「あなたの弱みは?」という質問の目的は、強みを知ることではないので、弱みを強みに変換してアピールしても、方向がズレているのです。会社側からすれば、「聞きたいのはそこじゃない」というわけ。

少なくとも、私が面接官なら、「それは弱みじゃなくて強みだよね? 弱みを教えてください^^」と突っ込みます。

そもそも、「この学生の強みを知りたい」と思えば、「強みは何ですか?」とストレートに質問してくるでしょう。そういう意味でも、弱みを強みに変換することは的外れだと分かります。

「あなたの弱みは?」という質問に回答する際のポイント

さて、ここからは、「あなたの弱みは?」と質問されたときにどう答えるか、具体的な話に移ります。回答する際のポイントは以下の二つだと、私は考えます。

  • 弱みをどうカバーするかにまで言及する
  • 鉄道会社に関連した内容で答える

ポイント① 弱みをどうカバーするかにまで言及する

ポイントの一つ目は、「弱みをカバーするために、どういう取り組みをしているか」にまで言及することです。

「私の弱みは○○です。以上!」

こういう答え方ではダメということ。これでは弱点を晒しただけで、マイナス評価を喰らうだけです(笑)

「私の弱みは○○です。それを補うために、こういう取り組みをしています」

解決策までセットにして答えるようにしましょう。

これは就職活動時に限らず、社会人になっても同じです。たとえば、「こういうトラブルが起きました」とだけ上司に報告しても、「で、どうするの?」と言われてしまいます。

「現在、○○で対処しているところです」
「○○の方法で対応するべきだと思います。よろしいでしょうか?」
「今後は、こういう対策を取って再発防止に努めます」

このように、「どう解決するか?」にまで言及することが仕事でも大切です。

ポイント② 鉄道会社に関連した内容で答える

ポイントの二つ目は、鉄道会社に関連した内容で答えること。極端な例ですが、↓のような回答はダメです。

「私の弱点は、ストレートの球速がイマイチなところです」
「球速を伸ばすために、下半身の強化に取り組んでいるところです」

これ、鉄道会社に関係ないですよね。会社側も評価のしようがありません。

では、具体的にはどんな感じで答えればよいか。これは、私が過去に書いた「強み」に関する記事が参考になるかと思います。たとえば、「厳しい指導にも負けない打たれ強い人」は鉄道の安全を守れる資質がある、という記事を過去に書きました。逆に、「自分はあまり打たれ強くないよ」という人は、↓のような答え方が考えられます。

私の短所は、あまり打たれ強くないところです。しかし、鉄道会社は安全を守れる人材を育てるために、厳しい社員教育を行うとOB訪問で聞きました。
今のままではいけないと感じ、打たれ強さを身につけようと、あえて厳しい体育会系のサークルを選んで入りました。

OB訪問などで、「鉄道マンに必要な資質とは?」と聞いて、それが自分に備わっているかを考える。備わっていなければ、それが自分の弱み。それを克服するために何をしているか?

こういう手順で考えればよいでしょう。

もちろん、↑の文例でいえば、「打たれ弱さを克服するために何をしているか?」の取り組み自体が存在しなければ、このような回答はできません。説得力のある回答をするために必要なのは、小手先の面接テクニックではなく、学生時代に課題を設定して取り組んだ経験があるかどうか、ということですね。

まとめ

長くなったので、まとめましょう。

  • 弱みを強みに変換する手法は疑問
  • 「弱みを克服するために何をしているか」にまで触れる
  • 内容は、鉄道会社に関連したことで

鉄道会社を目指す学生さん、何かの参考になれば幸いです。

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【鉄道会社への就職】取るのはどんな資格でもOK

今回の記事では、鉄道会社を志望する学生なら誰でも感じる疑問、

「何か資格を取っておいた方がいいの?」
「鉄道業界に就職するのに有利な資格はあるの?」

こうした点について書いていきます。

「不利にならないため」に何らかの資格は持っておくべき

まず、「そもそも何か資格を取っておくべき?」という疑問について。結論から言えば、「何か取っておいた方がいい」と私は考えます。理由は二つありまして……

理由① 資格ナシでは履歴書の見栄えが悪い

これだけ「資格! 資格!」と騒がれている世の中です。就活生の大部分は、何らかの資格を持っていると考えるべきでしょう。そんな中で、履歴書の資格欄が空白だと、悪い意味で目立ってしまいます。それを覆せるだけの何かがあれば問題ありませんが……。

理由② 学習意欲を疑われるかも

大学生なら、就活が始まるまでに3年間はあります。その間に資格の一つも取らないのでは、

「将来のことを何も考えていないのか?」
「将来に向けて何も準備していないのか?」

と思われるかもしれません。もっと言えば、学習意欲を疑われかねません。

社会人になっても、仕事を遂行していく上では、勉強は必須です。ですから、学習意欲が(実際にあるかどうかは別にして)なさそうに見える学生は、採用担当者からすれば敬遠したくなるでしょう。


以上のように、「有利になるために」ではなく「不利にならないために」資格取得をしておくべきと私は考えます。

資格のジャンルはなんでもかまわない

「資格を取っておいた方がいいのはわかった。じゃあ、鉄道業界への就職に有利な資格はあるのか?」

あくまで個人的な考えですが、駅員→車掌→運転士というコースに関しては、「有利な資格」は特にないと思われます。

いや、もしかしたら鉄道各社の採用担当には、「この資格を持っている学生は加点する」みたいな基準があるのかもしれません。が、さすがにそこまではわかりませんので……。

しかし、実際に鉄道会社で働いている私の目から見ても、「社員にはこの資格を持っている人が多い」と感じたことは特にありません。ですので、取得するのは何の資格でもよいと思います。

肝心なのは「その資格を取った経緯や考え方」

ただし、「何の資格でもよい」の意味を誤解しないでくださいね。

たとえば、同じ○○という資格を取ったとしても、その理由が「ただなんとなく」では、まったく評価されないでしょう。

「業界研究やOB訪問をした結果、いまの鉄道会社では~~な能力が必要だと感じた。自分はそこが弱いので、勉強のために○○の資格を取った」

このように、自分なりにちゃんと筋道立てて説明できるのであれば何の資格でもよい、という意味です。つまり、評価されるのは「資格そのもの」ではなく、「その資格を取得するに至った経緯や考え方」だと思います。

こんなことを言ってはなんですが、学生の取れる資格など、しょせん限られています。その中でいかに理由づけ・根拠づけをして採用担当者にアピールできるか? 勝負のポイントはそこでしょう。

(2019/4/23)

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【鉄道会社への就職】就活生は「安全報告書」を読んでみよう

今回は、鉄道会社への就職を目指す学生さん向けの記事です。グループディスカッションや面接で使える内容だと思うので、ぜひ読んで、周りに差をつけてください。

鉄道会社が発表している「安全報告書」ってなに?

近年の鉄道会社のトレンドは、「安全性の向上」です。ホームドアの設置が進んでいることは、その象徴といえます。

グループディスカッションでも、「安全性をより高めるため、鉄道会社はどのような取り組みを行うべきか?」みたいなお題が出るかもしれません。面接でも、「安全のために弊社がどのような取り組みを行なっているか、知っていますか?」と聞かれるかもしれません。

「学生の身分でそんなこと知るか」と思うかもしれませんが、さにあらず。鉄道会社が安全のためにどのような取り組みをしているかは、誰でも知ることができます。それが安全報告書というものです。

鉄道会社は毎年、鉄道事業法という法律の定めにより、安全報告書を作成しなければなりません。安全報告書とは簡単に言えば、

  • 安全を確保するために、どのような取り組みをしているか
  • また、これからどのような取り組みをしようとしているか

これらをまとめたものです。

各鉄道会社は通常、この安全報告書をホームページに載せているので、一般人でも普通に見ることができます。『安全報告書+会社名』で検索すれば、だいたい一発でたどり着けます。

安全報告書を読むくらいはしないと就活戦線で討ち死

ただ、就活中の学生には難しい内容かもしれません。専門用語も出てくるので、同業者でないと理解できない内容も多いです。

ですので、あまり詳しく読み込む必要はありません。だいたいどんな取り組みをしているか、表面的な部分だけでも感じ取れれば、それでいいと思います。

「読むのメンドクセー」と思うかもしれませんが、これくらいは読んでおかないと就活戦線での“討ち死”は必至ですので、頑張ってください(笑)

ただし、予備知識なしにいきなり読み始めても、ポイントが掴めないでしょう。というわけで、今から私が説明する内容を頭に入れておいてください。それだけで、ずいぶん読み解きやすくなると思います。

安全対策のポイントは「人身事故」と「踏切事故」

さて、安全への取り組みや安全報告書という言葉が出てきましたが、そもそも「安全」とはいったい何でしょうか? どういう状態ならば、「安全」といえるのか?

これは、逆に考えるとわかりやすいかもしれません。鉄道によって人が死傷すること。これが安全の逆の状態です。

では近年、鉄道による人の死傷とは、どういった原因が多いのか? その原因を突き止めることができれば、対策を立てて鉄道による死傷者を減らすことができます。

国交省の統計によれば、死傷の原因の多くは、ズバリ人身事故(※)踏切事故。死者に限っていえば、この二つの事故種別でほぼ100%です。

(※)「人身事故」とは、いわゆる「線路内への立ち入りによる触車」と「駅ホームでの触車」を指すと思ってもらえればいいです。ただし、自殺は除きます。

つまり、人身事故と踏切事故を減らすことが、有効な安全対策といえます。人身事故に関していえば、ホームドアの設置は安全向上につながることを誰でも知っていますが、その裏側にはこういう理論があるわけです。

ただ漠然と「ホームドアがあれば安全」と考えるのでは不十分。

 安全の裏返しは人が死傷すること
→統計上、死傷の原因の多くは人身事故(と踏切事故)
→人身事故への対策が大きな課題
→ホームドアの設置は人身事故対策として有効な手段であり、安全向上に大きく寄与する

このように筋道立てた思考ができれば、グループディスカッションや面接の際に、説得力のある発言ができます。

鉄道の安全には国民の理解と協力も必要

ここから先は、もう少し視野を広げるための話です。

安全のための取り組みというと、人身事故対策にはホームドアの設置、踏切事故対策には高架化事業など、「鉄道会社が何をするか?」という視点で考えがちです。もちろん、「鉄道会社が何をするか?」が安全対策の柱であることは間違いありません。が、その視点だけでは不十分です。

他の角度からも見てみましょう。

再度書きますが、死傷の原因の大部分は「人身事故」と「踏切事故」です。これ、鉄道会社が頑張れば100%防げるものではありません。鉄道を利用するお客さん、踏切を横断する通行者、もっといえば「国民全体」の協力が必要になります。

たとえば、歩きスマホをしながらホームを歩いていて線路に転落した。これ、鉄道会社のことは責められないですよね。お客さんの側に「ホームでの歩きスマホは危険」という自衛意識があれば、防げる事故です。

また、踏切内で車が立ち往生した。このとき、非常ボタンの存在を知っていれば、すぐにボタンを押して列車を止めることができます。

つまり、国民全体への周知や啓蒙活動も、鉄道会社が行うべき安全対策の一環なのです。そのため、「安全報告書」には、鉄道会社の取り組みだけではなく、利用者側への協力を呼び掛ける内容が書かれていることもあります。

グループディスカッションや面接で、こうした視点からの議論や回答ができれば、一目置かれるのではないでしょうか。

まとめ

長くなったので、まとめましょう。

  • 鉄道会社は、安全への取り組みをまとめた「安全報告書」の作成義務があり、ホームページで公表している
  • 統計上、鉄道で発生する死傷の原因は「人身事故」と「踏切事故」がほとんど
  • これらの事故を防ぐためには、鉄道会社だけではなく、国民全体の理解と協力も必要

次回は、「安全報告書」が導入された経緯や、人身事故・踏切事故の中身や傾向について、もう少し突っ込んだ情報を書こうと思います。

続きの記事はこちら 安全対策の「根底の考え方」を解説!

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大手私鉄も一部で採用抑制【2022年4月入社が対象】

JRの一部会社は、2022年4月入社の採用を抑制することを発表しています。コロナ禍で経営の先行きが見えず、固定費のメインたる人件費をうかつに増やせない事情があるのでしょう。

そして、大手私鉄も2022年4月入社の採用計画を発表し始めましたが、一部で採用抑制の動きがあります。学生さん向けに、現段階でわかっている情報を載せておきます。
(まだ未定のところも多いですが)

東急と小田急が採用抑制を明言

今のところ、駅員→乗務員の「運輸現業職」に関して、採用抑制を明言している大手私鉄は以下の通り。なお、情報は2021年3月8日時点のもので、今後増えていく可能性あり。

・東急電鉄→採用情報ページへ

 駅員採用を行わない。
現業職採用は、車両・土木建築・電気といった技術系のみ。
ちなみに、過去3年の駅員採用数は、61・74・67。

・小田急電鉄→採用情報ページへ

 駅・運転系だけでなく、技術系も含めたすべての現業職採用を行わない。
(ただし高卒は採用があるように読める)
ちなみに、過去5年の運転系社員の採用数は、27・64・60・41・60。

東急・小田急とも毎年そこそこの人数を採用していましたが、それが今回は一気にゼロに。

昨年と同程度(と思われる)採用数の会社も少なくない

続いて、「運輸現業職」を昨年と同程度採用する(と思われる)大手私鉄は以下の通り。

・相模鉄道→採用情報ページへ
 10人程度を採用する模様。

・名古屋鉄道→採用情報ページへ
 40人程度を採用する模様。

・近畿日本鉄道→採用情報ページへ
 ハッキリしないが数十人ほど?

・阪急電鉄→採用情報ページへ
 30人程度を採用する模様。

・西日本鉄道→採用情報ページへ
 5人程度を採用する模様。

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JR各社が新卒採用を抑制【2022年4月入社が対象】

鉄道業界志望の学生にとっては、苦しい就活戦線になりそうです。

3月になり、いよいよ就活モードになってきましたが、JR各社は新卒採用(2022年4月入社)の抑制を次々に発表しています。具体的には、以下のどちらかです。

  1. 採用数を削減
  2. そもそも採用自体を行わない

JR各社の採用計画はどうなっている?

どの鉄道会社もコロナ禍で業績を落としている現状では、人件費の負担が重くのしかかっています。また、コロナが終息しても、以前のような需要は戻らないのでは。そうした予想が、新卒採用の抑制という形で現れています。

JR各社が発表している採用計画を、簡単にまとめたのが↓の表です。
(いわゆる総合職は除き、現業職のみの数字。以下同様)

f:id:KYS:20210305072340p:plain

JR北海道とJR四国は、3/5時点で情報が見つからなかった

JR東日本 採用数ほぼ半減

もう少し詳しく各社の数字等を見ていきます。まず、JR東日本

f:id:KYS:20210305072320p:plain

新卒だけでなく、中途採用も含まれた数字であることに注意

以前は1,600人程度の採用だったのが、昨年度は1,270人。そして今回の採用予定数は640人。一気に半減しました。

しかもこれは中途採用も含む数字ですから、新卒枠は400人程度ではないでしょうか。JR東日本といえば、昔から新卒だけで毎年1,000人以上採用していましたから、コトの深刻さが窺えます。

JR東海 採用数の削減は約2割でとどまっている

続いてJR東海。東海道新幹線の需要がガクッと落ち込み、もっとも苦しい鉄道会社といえますが、採用減は約2割にとどまっています。

f:id:KYS:20210305072314p:plain

JR東海は学歴別採用数のデータがあった

以前の中間決算発表時に、「2021年度以降は黒字を見込んでいる」と見通しを示していましたが、採用を2割減でとどめていることからも、ある程度先行きに自信があるのでしょう。

JR西日本 運輸現業職の採用なし

対して、非常に苦しいのがJR西日本。なんと今回、運輸現業職(駅員→乗務員コース)の採用なし! 現業職は、技術系のみ採用するとのことです。

f:id:KYS:20210305072327p:plain

※現業採用は技術系のみ 理系学生は不況でも就職に強いことがわかる一例

JR九州 すべての新卒採用を中止

しかし、JR西日本はまだマシです。衝撃的なのがJR九州で、すべての新卒採用を中止と発表しました。

f:id:KYS:20210305072332p:plain

本州三社と比べて足腰の弱いJR九州。おいそれと人件費は増やせないが……

うーん、せめて総合職だけでも採れないものか? いわゆる兵隊は後でも補充が効きますが、指揮官はすぐには育てられないので、採用を控えると、将来に大きなツケを残すことになってしまいます。

まあ、そんなことは私が言わずとも、当のJR九州が一番わかっているでしょうが……。

JR貨物は元気 昨年と同程度の採用数

苦しい会社が多い中で、唯一元気なのがJR貨物前年度と同じ数の採用を予定しています。他のJRが採用を絞るので、“あぶれた”優秀な学生をゲットできるチャンスと考えることもできます。

JR貨物も業績が落ち込んではいますが、旅客会社に比べればダメージは小さいです。モーダルシフトの推進や、宅配便を代表とする「積合せ貨物」の需要が伸びており、もしかすると将来は「最強のJR」になるかもしれません。

「JRに入りたかったのに……」と嘆いている学生さんへ

以上、JR各社の採用計画動向をザッと紹介しました。ここからは、「JRに入りたかったのに……」とガッカリしている学生さんは、具体的にどうすべきか? という話。

会社にこだわらず鉄道の仕事に就きたい場合 ⇒ 中小にも目を向ける

まず、「JRや大手じゃなくてもいい。とにかく鉄道の仕事に就きたい」と思っている学生さんへ。

JRが採用を絞っている状況ですから、中小鉄道会社にも目を向けましょう。「大手病」にかかっている学生は、あっという間に“全滅”する可能性が高い。

ただし、中小鉄道会社はもともとの採用絶対数が少ないうえに、今年は大手の採用に“あぶれた”学生が流れ込んでくるでしょうから、競争率は例年以上になるでしょうが……。

あくまでもJRにこだわる場合 ⇒ 他業種に進んで中途採用を待つ

そして、「中小はヤダ。入るならJRじゃないと」と思っている学生さん。

もしJRの採用試験に落ちたら、中小鉄道会社には入らず、ひとまず他業種へ進んでください。そして後年、中途採用でJRに入るルートを考えてください。
(もっとも、中途採用を実施してくれる保証はないですけど……)

というのは、業界の慣習(?)として、「中小鉄道→ 大手鉄道」という転職はほぼ不可能だからです。したがって、いったん中小鉄道会社に入ったら、それはJRを含め大手鉄道会社には入れなくなることを意味します。「中小鉄道会社に入っても、あとでJRに転職できるでしょ」と思っていると、泣くことになるので要注意。

ちなみに、私の知り合いにも、新卒時に希望の大手鉄道会社に入れなかったことから、後年の中途採用狙いで他業種に進んだ人がいます。ところが、その仕事がおもしろくなり、鉄道会社に転職する気がなくなってしまったという……(笑)

まあそういうこともあるので、「何が幸いするかわからないから、希望の会社に入れなくても、内定を貰った会社でとりあえず頑張ってみ?」ということは、社会人の先輩として学生さんにアドバイスしたいですね。

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【昔話】発足当初のJR 現場の労働環境は過酷だった

JR東日本・西日本で2021年から施行の終電繰り上げ。

夜間工事の時間を拡充することで、工事スケジュールに余裕を持たせたい。それによって、工事に従事する作業員の労働環境を改善し、離職防止や採用の促進につなげる。

これが一つの狙いです。
いわゆる働き方改革の一環といえます。

なお、工事は鉄道会社本体の社員だけでなく、関連会社・下請け会社の協力で行うのが一般的。いってみれば、他会社の労働環境を改善するために、JRは自社の列車本数を削るとの見方もできます。

それにしても、20~30年前のJRに比べると、ものすごい変化です。「国鉄出身→JR」という経歴の人から聞いた話だと、発足当初のJRは、今とは比べ物にならないくらい労働環境が過酷だったそうです。

今回の記事は、そんな昔話。

慢性的な人不足 労働環境が過酷だった初期のJR

国鉄末期に新規採用が凍結されていたとか、国鉄からJRへの転換時に余剰人員が整理されたとか、そういう話はよく知られています。ようするに、JRの発足当初は、国鉄時代に比べて少ない人員で業務に対応せざるをえなかった、と。

労働環境の代表的な要素といえば、「労働時間」「休暇日数」。シフト制の鉄道現場において、この二つの要素を左右するのは、ズバリ社員の数です。

つまり、社員の数が多ければ長時間労働は発生しにくいし、休みも取りやすい。逆に社員が足りないと、長時間労働や休日出勤に陥りやすい。

そのため、国鉄時代より少ない人数で仕事を回していた初期のJRには、現代の目で見れば「うわぁ……」と感じるブラックなエピソードがたくさんあります。

以下は、列車の運行管理を行う「指令」という職種で働いていた方から聞いた昔話です。「あの頃はホントに補充の人員がいなかった」というボヤキから始まりました。(昔話なので、令和の現代ではこんなことありません!)

申請しても年次有給休暇が取れない 流すのが所定

ブラックエピソードその1は、年次有給休暇(以下、有休と表記)。

有休とは本来、「会社から与えられるもの」ではなく「労働者の権利」です。つまり、労働者が「有休を取得したい」と申請すれば、受理されるのが通常の処理。

ところが有休を申請しても、できあがった勤務表(シフト表)を見ると、有休が入っていない……。

担当者に聞いても、「いやぁシフト組むのがギリギリで、有休入れるの無理だったわ。めんご☆」でおしまい。有休が取れるのは冠婚葬祭だけで、「有休は流すのが当然だった」そうです。

泊まり明けでそのまま夜まで仕事!

しかし、有休が取れないくらいはカワイイもの。程度で言えば、ブラックではなくグレーくらい。長時間労働の問題は、その比ではなかったそうです。

駅・乗務員・指令などの現場業務は、泊まり勤務が基本です。たとえば、朝9時に出勤して翌朝9時まで24時間勤務、という具合。

翌日は9時になれば、次の勤務者に交代しておしまい。家に帰って寝るなり遊ぶなり自由です。この翌日のことを「泊まり明け」と呼びます。

さて、9時になって次の勤務者に引き継ぎました。お先に失礼──

しません

なぜ帰れないのか? いろいろと抱えている業務があるので、それを処理するために残業するのです。

たとえば指令だと、本来の勤務時間中には列車の運行状況を監視したり、遅れ列車に対処したりと、「本来の仕事」があります。つまり、何かの案件や事務仕事・打ち合わせを抱えている場合、それらは本来の勤務時間中に処理できない。そういう仕事は残業で対応するわけです。

さて、泊まり明けの9時から残業して昼の12時になりました。そろそろ家に帰れ──

ません

結局、帰れるのは日が沈んでから、ということが珍しくなかったそうです。つまり、9時に出勤して18時に帰る「日勤」と変わりません。この、泊まり明けで夜まで残業していくことを、「明け日勤」と呼んだりします。

泊まり勤務の仮眠時間は、4~5時間前後が一般的。泊まり明けの睡眠不足で夜まで残業するのは、相当シンドイです。

月の残業100時間! 過労死ラインを余裕で突破

明け日勤なんぞ恒常的にやっていたら、残業時間がヤバいことになるのは容易に想像できます。明け日勤一回あたりでの残業時間は8時間程度。泊まり勤務は1ヶ月で10回以上ありますから、低く見積もっても80時間。

現代の基準では、月の残業80時間が過労死ラインと言われますが、そんなラインは余裕で突破。それどころか、残業100時間もよくあったそうです。

管理者が残業時間の記録を改竄

とどめは「残業時間のごまかし」。100時間残業したのに、帳簿上は40時間などと過少に記録するわけで、ようはサービス残業ですね。
(当時はそんな言葉はないですが)

会社側と従業員側が結ぶ36協定によって、1ヶ月の残業可能時間には上限が定められています。月の残業100時間は、どう考えても上限オーバーの違法状態。しかし、これを馬鹿正直に記録すると、労働組合が「なんだこれは!」と騒ぎます。

というわけで、管理者(上司)が勝手に数字を書き換えることが日常的だったそうです。残業した本人が過少申告するのではなく、管理者が勝手に書き換える、というのがミソ。

コンプライアンスに内部監査 昔のような無茶は通らない

……という感じで、発足当初のJRには、ブラックな面が多々ありました。

もっとも、ブラックうんぬんというのは現代の目から見たときの話で、1980~90年代は、これくらいどこの業界でもよくあったのでしょう。
(2023年現在でもよくある話だよ? なんてことはないと思いたい)

昭和や平成初期に比べると、労働者を守るための法律や制度は強化され、コンプライアンスも厳しく問われる時代になりました。また、鉄道会社内でも内部監査がしっかり行われるようになったため、さすがに昔のような無茶は通りません。

昔話を教えてくれたお方は、「よく過労死しなかったなあ。若いから体力あったんだねぇ……」と、若かりし時代を振り返っておられました。そして、「昔みたいなことはなくなったから、本当にいい時代になった」と話を〆てくださいました。

安全・安定輸送発展の裏側には過酷な労働があった

さて、こういう話を読んで、みなさんはどう思うでしょうか?

  • 有休が取れない
  • 泊まり明けで夜まで仕事
  • 過労死ライン超の残業
  • 残業時間の記録を改竄

良いか悪いかと聞かれれば、悪いに決まっています。

ただ、「悪い!」と一概にバッサリ切り捨てられないのが難しいところ。こうした「モーレツ社員」が制度やシステムを必死に整えてくれたおかげで、鉄道の安全・安定輸送が発展してきた、という面は否定できないからです。別の言い方をすると、現代の我々は恩恵を受けている。

となれば、我々の世代にできることは、身を削って働いてきた世代が築いた遺産や基盤を無駄にしないよう、鉄道の安全・安定輸送をより発展させていくこと。そう考えて私は仕事しています。もちろん、労働基準法などを遵守したうえで、ですね。

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