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線路に落ちたモノを確認しようとしていた? 阪神での駅員触車事故

2022(令和4)年3月2日、阪神本線の鳴尾・武庫川女子大前駅で、ホーム上にいた駅員が通過列車と接触し亡くなった。

なんとも痛ましい労災事故で……。当該駅員は、ホームの線路に近い位置で前かがみの姿勢になっており、そこに列車が通過して接触したようです。

この駅はちょうどカーブ上にあり、運転士からすれば、駅にかなり近づかないとホーム上の様子が見えません。さらに夜間でしたから、ホームにいた駅員からも列車の接近がわかりにくい。運転士と駅員の双方が「あっ」と思ったときには、手遅れだったのでしょう。

線路内に落ちたモノを拾う作業 実はかなり危険

駅員は「ホームの線路に近い位置で前かがみの姿勢になっていた」ことから、線路内をのぞき込んでいた可能性が高いです。

旅客から「線路にモノを落とした」と申告されたので、拾う作業に着手する前に、当該ブツの位置を確認していたか。あるいはホームを巡回しているときに、自分で線路内に落ちているモノを発見したので、それを確認しようとしたか……。そこまで報道されていないので、真相は不明ですが。

今回の記事では、「線路にモノが落ちたときの対処」という話をします。

線路内にモノを落とした経験のある人もいるでしょうが、駅員がマジックハンドみたいな道具を使って拾ってくれたと思います。何でもない作業のようですが、モノを拾うために駅員は列車が通過する空間に身を乗り出さなければならず、実はかなり危険なのです。

というわけで、触車事故が起きないよう安全確保の措置を講じます。具体的には、以下のどちらかが一般的です。

  • 二人一組で作業する。一人は列車が来ないかを見張り、もう一人が拾う
  • 一人で作業するなら、信号機を赤にして列車が入ってこないようにする

二人一組で作業できるなら、それに越したことはありません。このとき、見張り者は拾う作業を手伝ってはならず、見張りに専念します。「見張り」と「拾う」をしっかり分業するのが安全確保のポイント。

一人で作業するなら列車が来ないよう赤信号にしておく

ただ、近年は駅員数が減少傾向にあります。少人数で回すため、一つの拠点駅が、複数の無人駅を遠隔管理する「集中管理システム」も次々に導入されています。線路内のモノを拾う際、二人一組での作業が不可能──駅員一人で拾わなければいけない場面も多いでしょう。

この場合は、列車が進入してくる方向の信号機を赤にしておきます。赤信号にして“駅の入口”を閉じておけば、列車が入ってこず安全なので、見張りは不要という理屈です。

具体的に駅員は、信号を制御する信号扱所や指令室といった部署と打ち合わせて作業します。

駅員「今から線路の落とし物を拾いたい」
指令「信号を赤にしたから着手どうぞ」
駅員「拾い終わったよ」
指令「じゃあ赤信号を解除する」

こんな感じです。

線路を覗き込むだけなら見張りや赤信号は手配しない

赤信号にして列車が入ってこないようにする。言葉にすると簡単ですが、実はこれ、けっこう大変です。

ローカル線ならいざ知らず、数分ごとに列車が通る都市圏では、長いこと赤信号で列車の進入を止めるわけにはいかないのが現実です。赤信号でブロックしてから初めて「モノはどこに落ちている?」と捜し始めると、そこで時間を喰って遅延が発生するかもしれません。

というわけで理想としては、事前に落ちたモノの位置を把握しておいてから → 赤信号にしてもらい → 一気に拾う……です。

ここで問題になるのが、事前に落ちたモノの位置を把握する作業。

私も駅員時代に経験がありますが、ちょろっと線路を覗き込んで「あーハイハイあそこね」と数秒ほどで済むので、いちいち見張りを呼ぶ or 赤信号にする手配まではしないのが実情です(=もちろん、線路を覗き込むのは、列車が来ていないのをちゃんと確認してからですが)。

つまり、実際にモノを拾う段階までいかないと、見張りやら赤信号やらの措置は講じないわけ。

もしかしたら今回触車した駅員も、モノを拾う実作業の前段階として、位置を把握するために線路を覗き込んでいたのかもしれません。数秒で済むはずが、その数秒で触車してしまったと。

いや、真相は不明です。線路にモノが落ちていた云々ではなく、ホームを巡回していたら急に気分が悪くなってフラつき、線路側に身体が出てしまった可能性もあります。そのあたりは何とも。会社も現在、原因を調査しているところでしょうし。

とりあえず、今回の記事を読んだみなさんには、「列車が通過する空間に身体を置くことは怖いんだよ」ということだけ知ってほしいと思います。

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コロナの影響で運転士が不足し減便 「濃厚接触者狩り」はやめるべき

名古屋臨海高速鉄道あおなみ線は、複数の運転士がコロナに感染または濃厚接触者になった影響で、運転士が足りなくなった。減便ダイヤを施行する。(2022年1月27日のニュース)

「コロナで利用客が減ったので減便」はあちこちで行われていますが、「コロナで運転士が足りなくなったので減便」は珍しいです。

2020年12月の都営地下鉄大江戸線(→こちらの記事)、2021年2月のJR北海道函館線、2021年8月のJR西日本七尾線での事例に続く4例目だと思われます。オミクロン登場後は初めてでしょう。

「濃厚接触者狩り」で社会機能を止める弊害の方が大きい

あおなみ線、運行を8割に削減 社員コロナ感染の影響:中日新聞Web

↑の記事によると、出勤できない運転士の内訳は次の通りだそうです。

  • 検査陽性 2人
  • 検査結果待ち 1人
  • 濃厚接触者 1人
  • 家族が濃厚接触者 1人

冷静に見れば、コロナ陽性者(感染者)は2人です。しかし、いわゆる濃厚接触者狩りで余計な出勤停止が発生しています。

濃厚接触者とは、乱暴に言えば、単に近くにいただけの人です。当該者に発熱などの症状が出ていればともかく、無症状・元気であれば、それを“狩る”ことにどれだけの意味があるのでしょうか。

もちろん、濃厚接触者を検査したら陽性者であり、それで次の感染を防げるケースもあるでしょう。しかし、なんでもかんでも「可能性があるから」で制限をかけていたら、今回の列車本数減のような、社会機能を止めてしまう弊害の方が大きいのではないか……というのが私の感覚です。

「濃厚接触者の濃厚接触者」まで出勤停止?

先ほどの内訳を見ると、「家族が濃厚接触者」で出勤停止という運転士もいます。「運転士本人が濃厚接触者」や「家族が陽性者」ではないと思われます。我が家で例えるならば、

妻の職場でコロナ陽性者が出た
→妻が濃厚接触者に指定された
→私も出勤停止

濃厚接触者の濃厚接触者(?)までが出勤停止になっているわけで、これは明らかにやりすぎ。ここまで範囲を広げていたらキリがありません。

こんな調子でやっていたら、コロナ陽性者1人の発生で、20~30人は自宅待機を余儀なくされてしまいます。陽性者が1日10万人出るようになったら、200~300万人が動けなくなる計算。そりゃ保健所もパンクするし、社会機能も停止するわ……。

社会機能が止まるのは「ウイルスそのものや症状のせい」ではなく、「過剰な制限を行う運用のせい」というのが私の考えです。

鉄道だけではなく、これからは病院でも同様のケースが起きるでしょう。というのも、医療従事者にはコロナワクチンの3回目接種が始まっています。ワクチンの副反応は2回目と同程度らしいですから、接種後2~3日は動けなくなる職員が出るはずです。濃厚接触者狩り + 接種後の副反応のコンボで職員が足りなくなるケースが、これから続出するのではないでしょうか。

鉄道も病院も、出勤停止者が増えれば、残った職員で回さなければいけません。過酷な勤務で疲労が蓄積すれば、ミスを犯す確率は間違いなく上がる。重大事故が起きるかもしれません。濃厚接触者狩りによって安全が脅かされる。そういう可能性は考えないのか?

なぜコロナだけ「特別扱い」するのか?

こちらの記事でも書きましたが、改めて言いたいのは、「なぜコロナだけ特別扱いするのか?」です。

昔、私の娘がインフルエンザに感染したことがあります。家庭内でベタベタ接触していたので、私は濃厚接触者どころか感染者だったはず。まあ症状は何もなかったので、いわゆる無症状感染でしょう。しかし、会社に報告しても、「自身の体調に問題がなければ出勤していいよ」。

2019年までの社会は、そうやって回していた(回っていた)わけです。それに、インフルエンザは俗に年間1,000万人が感染すると言われますが、医療逼迫の「ひ」の字も聞いたことがありません(私が知らないだけかもしれませんが)。

もちろんインフルエンザとコロナは違うので、まったく同列での比較はできないでしょう。しかし、死者や重症者の数、はたまた症状の重さがコロナ>>>>>インフルではないことは、これまでの2年間の蓄積から明らかです。なぜコロナだけ「特別扱い」で大きく騒がれるのか、さっぱりわかりません。

「ウイルスを身体に入れない対策」はキリがない

最後に、感染対策の話を一つ。

現在のコロナ対策といえば、「ウイルスを身体に入れないようにする」の手法がメインです。マスク・手洗い・うがい・手の消毒・三密の回避・人流の抑制……。しかし、これらをいくらやってもコロナウイルスは滅亡しません。まさか対策を一生続けるわけにもいかないでしょう。キリがありません。

であれば、「ウイルスを身体に入れないようにする」ではなく、「ウイルスが入ってきても対抗できる身体をつくる」方が現実的であり、建設的ではないでしょうか。ウイルスが身体に入ってくるのを前提で考えるわけです。

ワクチン接種が一つの手段ですね。コロナワクチンの安全性がまだ詳しく判明していないため、私自身は接種せずに様子見をしていますが(→その話はこちらの記事 まあ常識的に考えて、こんな短期間で3回目接種が必要になるワクチンはいかがなものかと……)。

それから、防御方法といえばワクチン接種しかないような世論ですが、本来身体はウイルスに対抗できる力を備えています。ですから、健康をしっかり保ちウイルスを跳ね返す方針で対処するのも、立派な手段です。

そして、人間ですから体調を崩すこともあります。そういうときに「ウイルスを身体に入れないようにする」対策を取ればいいのではないでしょうか。

(2022/1/29)

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コロナ禍で業績悪化のJR西日本 支社再編へ

コロナ禍に伴う業績悪化のため、JR西日本は支社の再編を行うとのこと。現在、労働組合と協議中で、10月にも新体制に移行する予定。(2022年1月12日のニュース)

各支社ごとに散らばっていた機能を一ヶ所に集約できれば、人件費や設備を共有化でき、コスト削減につながります。そのための支社再編ですね。

JR西日本岡山支社

「管理部門の話だから現場は無関係」ではない

今回、再編の対象となるのは管理部門だけとのこと。列車運行に直接携わる部門(=現場機能)は、そのまま支社単位で残すそうです。

これだけ聞くと、「管理部門を集約するだけだから列車運行には関係ない」「効率化のためには当然の措置」という感覚の人がほとんどだと思います。

ただ、事はそれほど単純ではないでしょう。鉄道に限った話ではありませんが、会社の業務とは、「現場は現場・管理部門は管理部門」とキレイに切り分けられるものではないからです。

たとえば人事ならば、労務管理の面で、現場と管理部門の密接な連携が求められます。経理なんかもそうでしょう。工事計画ひとつ立てるにしても、予算が絡んできますから、現場だけで業務を完結させることはできません。

安全運行についても同様です。

鉄道現場の一社員として言わせてもらうと、「現場機能さえしっかりしていれば安全運行を確保できる」というのは間違った考え方です。一例として、現場が「ここは危ないから○○の設備が必要では?」と思ったとします。こうした意見を吸い上げ、必要な検討を行い、手続きを経て実現に至るまでを、現場だけで行うのは不可能でしょう。管理部門との連携が不可欠です。

他にも、管理部門が音頭を取るべき場面は多くあります。

  • 安全のために現場社員に関係規則を遵守させる
  • 現場で発生したトラブルの対策を立てて広く展開する
  • 安全確保のために会社として必要な目標を設定する
  • その目標を達成するための計画を作る

そもそも、「現場は現場・管理部門は管理部門」なんて考えをしていたら、それぞれの現場が違う方向に走り出して、会社は収拾がつかなくなるでしょう。

管理部門を集約すると小回りが利かなくなる懸念が

今回の再編ですが、近畿地方では、和歌山・福知山支社の一部機能を既存の近畿統括本部(in大阪)に集約させます。 中国地方では、広島・岡山・米子の三支社の機能を統合した中国統括本部(in広島)を設立するそうです。

これらの統括本部が、広くなった担当区域を今までと同じレベルで細かく見れるか? というと、まあ難しいでしょう。特にローカル線を多く抱えた中国地方を、広島一ヶ所から隅々までケアするのは大変なはず。小回りがちゃんと利くのかな……と。

集約の目的は効率化であり、それに伴って人減らしや異動も発生するはず。新体制に慣れるまでしばらくの間は、現場と管理部門の連携力が落ちると考えるのが妥当です。鉄道の安全を確保するための「会社としての総合力」をちゃんとキープできるか、ですね。

支社の再編・集約となれば他JR会社にも波及?

最後になりますが、JR西日本が支社機能を再編・集約するとなると、他会社もまったくの無関係ではないでしょう。

たとえばJR西日本で、「運転現場の○○の取扱いを変えたい」という話が出たとします。しかしコレ、JR西日本の一存では変えられません。JR西日本の路線にはJR貨物の列車も走っていますから、変更したければJR貨物との協議も必要です。

そういう話は最終的に、西日本と貨物の支社(場合によっては本社)レベルでの話し合い・調整が必要になってきます。支社の機能一部変更となれば、そうした場合の勝手が違ってくるかもしれません。

また、今回再編の対象となる支社ですが、和歌山支社だとJR東海、岡山支社だとJR四国、広島支社だとJR九州のエリアと接しています。境界線付近では、日常的に他社とのやり取りが発生しているわけで、そのあたりにも変化が出るのか。

もっとも、「今回集約するのは管理部門だけで現場機能はそのまま」とのことですから、運転現場レベルでは他社とのやり取りは従来通りかもしれません。ただ、具体的にどの程度の業務まで再編・集約されるかが不明なので、私のような外部の第三者には影響範囲が読めないです。

(2022/1/13)

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実はよく似ている「鉄道車両のドア」と「電子レンジの扉」

突然ですが、みなさんは電子レンジの稼働中(=何かをチンしているとき etc)に、電子レンジの扉を開けたことがありますか? 「ない」という人、扉を開けるとどうなるか知ってます?

答えは「電子レンジが止まる」

つまり、電子レンジは「扉が開いた状態では作動しないようになっている」のですね。別の言い方をすると、扉閉じが通電の条件ということです。

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すべてのドアが閉まっていないと加速できない仕組み

実は、鉄道車両のドアも同じです。電子レンジのように、「ドア閉が通電の条件になっている」のです。

列車が駅から発車するシーンを思い浮かべてください。ドアが閉まると、運転士がレバーを操作して列車は加速していきますね。

この加速操作、ドアが閉まっていないとできません。ドアが開いている状態では、レバーを操作しても列車は加速できないのです。

なぜ、鉄道車両はドアが閉じていないと加速できない仕組みなのか?

これは簡単な話で、まだ車両ドアが開いているのに、運転士が誤って起動操作(駅から発車)したら危険極まりないですよね。それを防ぐために、「車両ドア閉」を加速の条件にしているのです。

イメージとしては、編成のドア全体で加速のための電気回路が構成されていると思ってください。ドアが開くと、接点も開いて回路が遮断される。ドアが閉じると、接点も閉じて回路が構成される。回路が構成されているときのみ通電して、レバー操作で列車は加速できる。

電気回路ですから、一ヶ所でも切れていると成立しません。どこかの車両ドアが開いていると、列車は加速できないわけです。このあたりは自動車との違いですね。自動車は、ドアが開いていてもアクセルを踏んで加速できますから。

どうしてもドア開で運転したい場合は「非連動」で

ただし、「ドア閉でないと加速できない」を厳格に貫くと、不都合が起こりえます。たとえば、ドアが故障して物理的に閉まらなくなった場合、列車がまったく動けなくなってしまいます。そのままだと列車が線路をふさいでしまい、ダイヤが大乱れします。

こういうときは、運転席のスイッチを扱うことで、加速回路構成の条件から「車両ドア閉」を除外します。それによって、ドアが開いたままでも起動が可能になります。

これは非連動運転と呼ばれます。通常は「車両ドア閉」と「加速回路」を連動させているが → これの連動をやめるので、そう呼ぶわけ。また、電気回路を短絡させて非連動状態を作ることから、戸閉短絡と呼ぶこともあります。

ただし先述した通り、ドアが開いたまま走行するのは危険です。そのため、以下のような措置を講じてから運転再開するのが一般的です。

  • 開いたままのドアをロープなどの道具で封鎖し、監視員を立てる。車両自体を封鎖することも
  • 人員の都合等で監視が難しければ、乗客をすべて降ろして回送列車にする

京王電鉄の事件 ドアコックを扱ったため列車が動かせなかった

2021(令和3)年10月31日、京王電鉄の車内で、刃物による刺傷事件がありました。当該列車はホームドアがある駅に停車。その際、車両ドアとホームドアの位置が少しズレたので、運転士は修正のために列車を少しだけ動かそうとしたそうです。

ところが、列車は動きませんでした。これは、乗客が避難のためにドアコックを使ってドアを開けたため、加速回路が切れてしまったためです。

先ほど説明した非連動運転に切り替えれば、列車を動かしての停止位置修正は可能でしたが、車外脱出が始まっている状況で、下手に列車を動かすのは危険。どうしようもなかったようです。

「ドアに挟まれた!」とクレームが入ったときの話

最後に、現場話をひとつ。

鉄道の現場では、駆け込み乗車は日常茶飯事ですから、どうしてもお客さんがドアに挟まれる事態は発生します。ある日、会社に以下のようなクレームが入ったそうです。

「ドアが閉まるときに肩を挟まれた。そのままの状態で次の駅まで走ったぞ。めっちゃ痛かったんだけど!」

肩が挟まったまま、つまりドアが開いた状態で列車が動き出したというのです。

会社「肩が挟まれたということですが、ドアは何㎝くらい開いた状態でしたか?」
相手「10㎝近く開いていたんじゃないか」

ここまで読んできた人なら、おかしいとわかりますね。ドアが開いた状態で、列車が駅から動き出すのは不可能ですから。

もちろん、相手の言っていることが嘘とは限りません。車両故障のせいで、ドアが閉まっていないのに加速回路が構成された可能性もあります。ということで、会社が何をするかというと……

その1。
当該車両の当該ドアで、実際に社員が肩を挟む実験をします。肩を挟んだ状態では加速回路は構成されず、正常でした。

その2。
駅ホームにはカメラがあります。録画映像によって確認が行われました。その結果、当該ドアはちゃんと閉じていました。

あとは、「当該車両を点検しましたが異常なしです。録画映像も確認しましたが、ドアが開いたまま列車が動いた事実は認められませんでした」と回答して完了。

会社側の正直な気持ちは「見え見えのウソついてんじゃねぇ!」ですが、そういう雰囲気の回答だとカドが立ちます。相手も引くに引けなくなり、「そんなはずない!」とゴネて泥沼化する可能性も。

こういうときは、事実を淡々と述べることで、そちらが何か勘違いしてるんじゃない? みたいな感じに持っていき、相手に逃げ道を開けてあげるのが大人の対応ですね。

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列車内で刃物男が! 「ドアコック」で脱出する手段は覚えておいてほしい


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列車内で刃物男が! 「ドアコック」で脱出する手段は覚えておいてほしい

2021(令和3)年10月31日、京王電鉄の車内で、刃物を持った男が乗客を襲う事件が発生しました。車内で刃物事件は、近年だと小田急電鉄や東海道新幹線でも発生しています。

今回の記事では、焼け石に水かもしれませんが、みなさんに知っておいてほしいことを書いておきます。

現実的には「逃げ」一択

不幸にも今回のような異常事態に遭遇した場合、ハッキリ言って、対抗手段はほとんどないのが現実でしょう。カバンを持っていれば、刃物に対して防御に使えるかな……という程度だと思います。

本当に手ぶらの場合は、天井から吊り下げられている車内広告。あれを破って腕に巻き付ければ、少しくらいは刃物の攻撃力を削げる……かも。

また、鉄道車両は必ず消火器を載せていますから、それを使って犯人を怯ませる手はあるかもしれません。ただ、逃げまどう乗客で混乱している車内で消火器をぶっ放すのは、実際には難しいでしょう。

現実的には凶器を持った犯人に応戦するのは難しいので、逃げ一択になります。

「ドアコック」とは? 圧縮空気を排出してドア開を可能にする

逃げるといっても鉄道車両は“密室”ですから、列車が緊急停止したとしても、乗務員がドアを開けてくれなければ外に脱出できない。

……と思いますよね。ところが実は、乗客自身の操作でドアを開けて車外に脱出することができます。

みなさんは、車両の各扉にドアコックがあるのはご存知ですか? 知っている人も多いでしょうが、説明していきます。

車両ドアは駅に着くと開閉し、走行中はピタッと閉じていますが、そもそもコレ、何の力によって行われているのでしょうか?

圧縮空気です。

車両に搭載されている電動空気圧縮機(エアーコンプレッサー)が作り出した圧縮空気の力によって、ドアを動かしているのです。また、一度閉じたドアが開かないように圧着させておくのも、圧縮空気の力です。

緊急事態で外に脱出したい場合は、この圧縮空気を抜かないと、ドアを手で開けられません。風船にたとえれば、穴を開けなければいけないわけです。

そのために使うのがドアコックです。ドアコックを扱うと、風船でいえば穴があいた状態になり、ドア制御に使用している圧縮空気が排出されます。それによってドアがぶらぶらの状態になり、人の手でも開けられるようになります。

車外脱出しないと命が危ない場合は遠慮なく使ってよい

「ドアコックは乗務員が扱うものであって、乗客は勝手に触っちゃダメ」という意見もありますが、以下のような切羽詰まった局面では遠慮なく使っていいです。
(ただし、列車が止まっているのが前提)

  • 刃物を持った犯人が迫ってきて、車両の奥に逃げ場がない
  • 車両火災が発生して、火や煙が目の前に迫っている

命の危険が目の前にある場合は、一刻も早く車外に脱出しなければなりません。乗務員を待っている暇はありませんから、乗客自身で脱出する必要があります。「ドアコックは乗務員じゃないと触っちゃいけない」などと躊躇し、その結果逃げ場を失って死んだらバカバカしいです。

また、こうした緊急時にドアコックを扱って脱出したことに関して、後で鉄道会社から責められることはないと断言しておきます。万が一なにか言われたら、「命の危険を感じたから車外に脱出した」で押し通せます。

(そもそも、乗客が触れる場所にドアコックが設置してあるということは、乗客が取り扱うことも想定しているわけ。乗客に触られたくない設備なら、カギをかけてあるはず)

ドアコックを使って線路に降りる際の注意点

ただし、ドアコックを使って車外に脱出する際、駅ホームに降りる場合はよいのですが、線路に降りる場合は注意点が二つあります。絶対に覚えておいてください。

  1. 他の列車が突っ込んでこないか注意する
  2. 第三軌条の場合は感電に気を付ける

① 他の列車が突っ込んでこないか注意する

車外に脱出するときに一番怖いのは、脱出して線路に降りたところに、他の列車が突っ込んできて轢かれること。ですので、線路に降りるときは、他の列車が来ていないか注意してください。昼間ならいいですが、夜は見にくいので。

もっと言えば、線路がない方向(=一般的には進行方向左)に脱出するのがベターです。

② 第三軌条の場合は感電に気を付ける

もうひとつ気を付けてほしいのが感電。ディーゼルカーが走っている非電化路線の場合は当てはまりませんが、電車が走る路線だと、一歩間違えれば感電事故がありえます。

みなさんは、第三軌条をご存知でしょうか?

日本で一般的なのは、電気の流れる架線が「上空」にあるタイプ。電車の上に架線を張り、パンタグラフを介して電気を受け取るという、お馴染みのやつですね。

ところが、電気の流れる架線を「上空」ではなく、「足元」の地面に設置してある路線もあります。これが第三軌条と呼ばれるもの。イメージしやすいように言えば、上にある架線とパンタグラフを、車両の足元に持ってきた感じ。

大阪メトロ御堂筋線。赤線部分が第三軌条。ここに電気が流れている。ご覧の通り、上空に架線はない

つまり、第三軌条では線路に降りたとき、電気の流れる「架線」が足元に存在します。迂闊に歩くと、感電することがありえます。

というわけで、第三軌条の路線は、線路に人が降りた場合の異常事態に備えて、送電を緊急停止させる仕組みがあるのが一般的です。たとえば、指令室に「送電停止ボタン」があって、異常を感知した場合に指令員がこれを扱う、という具合です。

ちなみに、第三軌条は地下鉄で採用されることが多いです。上空に架線を張ってパンタグラフの方式だと、トンネル断面積を大きくしなければならず、建設費がかさみます。第三軌条の方がトンネル断面積を小さくできるので、建設費が安上がりなわけ。

命を守るためのまとめ

長くなったのでまとめましょう。

  • 「ドアコック」を使えばドアは開けられる
  • 命の危険が目の前にある場合は、遠慮なくドアコックを使ってよい
  • 線路に降りるときは、他の列車に注意
  • 第三軌条の路線は、感電に注意

以上です。もっとも、目の前に刃物男がいるような異常事態に、これだけのことを冷静に思い出せるかって話ですが……。

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【外部リンク】第三軌条の路線(Wikipedia)

JR東日本がワクチン接種 or 陰性証明で利用できる列車やツアーを販売

今回は、コロナ関係の記事です。いわゆるワクチンパスポートや陰性証明の活用が議論されていますが、ついに鉄道業界でも動きがありました。

2021(令和3)年10月15日、JR東日本は、新型コロナワクチン接種済またはPCR検査陰性者を対象とした列車・ツアー商品を発売すると発表した。

このニュースを読んだときの正直な感想を、まずは書かせてください。

 えぇー
 何だコレ?

なぜワクチン接種 or 陰性証明が「安心・安全の旅」になるのか?

コロナワクチン接種済またはPCR検査陰性者のみが利用できる列車・ツアー商品を販売。JR東日本が発表したこの企画ですが、資料内には以下のように書かれていました。

「安心・安全」の旅に是非お出かけください。
お客さまに「安心・安全」な旅をお楽しみいただくために、ご参加いただくお客さまと同行添乗員及びバス乗務員が「ワクチン2回接種済」または「PCR検査陰性」を確認した上でご参加いただけるツアーを用意しました。

よくわからないのですが、ツアー参加者をワクチン接種済 or 陰性証明者に限定することが、なぜ安心・安全の旅になるのか?

そもそも「安心・安全」という文言が具体的に何を指しているか不明ですが、まあ普通に考えて、「旅行中にコロナに罹る心配がないこと」だとしましょう。しかし、そうなると次のようなツッコミを入れたくなります。

  1. ワクチン接種済の人間ばかりを集めれば、旅行をしても安全なのか?
  2. 陰性証明には意味があるのか?

ワクチン接種済でも感染の可能性はある

まず、「ワクチン接種済の人間ばかりを集めれば、旅行をしても安全なのか?」について。

これは論じるまでもないですね。ブレイクスルー感染と言えば理解できるでしょう。つまり、ワクチン接種済でも感染することは普通にあるわけで、「コロナに罹る心配がない」とは言えません。

ツアー列車やバスに乗って移動しているときは、周りの人間すべてがワクチン接種済 or 陰性証明者だから安心・安全かもしれません。が、それは車内だけの話。

ツアーで訪れる先(=観光施設や飲食店・旅館など)では、コロナウイルスを保有している人がいるかもしれません。こちらがワクチン接種済でも、感染する可能性はあります。

行く先々すべてを貸し切りにし、ツアー客の周囲に誰ひとり寄せ付けないようにすれば大丈夫かもしれませんが、そんな隔離病棟みたいなことは不可能です。列車やバスの中という、極めて限られた部分だけ切り取って「安心・安全」とのたまっても無意味だと思うのですが、どうでしょうか?

陰性証明は「リアルタイムでの陰性」を証明するものではない

もう一つ、陰性証明の活用にもツッコミを入れさせてください。

そもそも論ですが、陰性証明って何の役に立つんだ? という気がします。

なぜなら、陰性証明は、早い話が「リアルタイムでの陰性を証明するもの」ではないからです。PCR検査を受けた時点での陰性を証明するもので、ツアー参加日までに感染する可能性は普通にあります。ツアー当日の陰性を証明するものではありませんから、そんなものを持ち出して何になるのか?

ツアー開始時に検査をして、陰性の結果だった人だけ参加できます、なら理解できます。しかし資料によると、「出発8日前以降のPCR検査で陰性」ならOKとなっていますから、これはもう何と言ったらよいのか……。

「ワクチンを接種しましょう」という宣伝・アピールが目的

  1. ワクチン接種済でもブレイクスルー感染がある
  2. 陰性証明は無意味

以上の二点を指摘しましたが、この程度のことはJR東日本だって理解しているはずです。つまり、「ツアー参加者内でクラスターを起こさないよう安心して旅をしてもらおう」と本気で考えているわけではないのでしょう。

では本企画の目的は何なのかというと、「ワクチンを打つといいことがあるよ。接種してね」という、ただの宣伝にすぎないと思います。というか、JR東日本の資料にも、「こうした取り組みの推進がワクチン接種促進の一助となり……」とハッキリ書かれていましたし。

しかし、このタイミングでワクチン接種推奨の企画を打ち出して、JR東日本は“貧乏クジ”を引くことにならないか心配です。というのは同じく10月15日、以下のニュースがあったからです。

モデルナ製ワクチンは、若い男性には心筋炎などの症状が出る割合が高いとして、厚生労働省は注意喚起することを決めた。

ワクチン接種に水を差すようなニュースですが、今後も、ワクチン接種に関する不利益な情報が出てくる可能性は否めません。そうなった場合、「ワクチン推奨企画なんて、しょうもないものを打ち出しやがって」とJR東日本が批判される可能性だってあります。今回の企画が、会社としての汚点にならなければいいのですが。

手段と目的 何のためにワクチンを接種したのか?

JR東日本の話は、これで終わりです。最後に、コロナワクチン接種について個人的に思うところを書かせてください。

そもそも論ですが、ワクチン接種とは、何を目的とした政策だったのでしょうか?

ワクチン接種の目的は、「コロナ前の日常生活を取り戻すため」のはずです。その目的を達成するための手段が、ワクチン接種だったと。

ということは、日本人の多くがワクチン接種を終えたいま、「もう自粛はいいでしょう」と以前の生活に戻っていなければならない。

しかし、実際はどうか? 専門家は相変わらず、「ワクチンを接種しても油断するな」「今後も感染対策を」「第6波が~」といった論調です。中には、「感染対策を文化として定着させて……」と述べている専門家もいました。

当ブログでは汚い言葉を使わないよう、私は心掛けてきました。しかし、あえて言わせてください。

 感染対策が文化?
 バッカじゃねぇの

これでは結局、何のためにワクチンを打ったんだという話になります。

最近、「接種済みシールをマスクに貼る」「ワクチン打ちましたと記したマスクを発売」という記事を読みました。いやいや、ワクチンを打ったならマスク外す方向に持っていこうよ、と私などは思うのですが。

「コロナ前の日常を取り戻す」という目的を達成できなかったなら、「ワクチン接種」という手段は失敗です。より正確に言えば、ワクチン自体がダメなのではなく、ワクチン接種が進んだときに方針転換しなかったのがマズかったと。

というか、ワクチンを接種した人は、「こんなのやってらんねぇ」と怒っていないのでしょうか? 副反応、つまり自分が苦しい思いをするのを覚悟してまでワクチンを打ったのに、「感染対策は続けてね」「3回目の接種が必要ですよ」と。

実際、私の周りには「もう絶対打たない」と言っている人もいます。個人的には、3回目接種を受ける人数は、1~2回目に比べて大幅に減ると予想しています。

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コロナワクチン接種で鉄道会社の人件費が増えるかも?


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コロナワクチン接種で鉄道会社の人件費が増えるかも?

いよいよ、新型コロナウイルスのワクチン接種が本格化してきました。私の周りでも、7割くらいの人は接種済または接種の予約を完了した印象です。
(職域接種もありましたが、そちらはパスして、自治体での接種を選ぶ人も多い感じ)

こちらの記事で書いたとおり、私は「しばらく様子見」なのですが、そういう人は1~2割くらいですかね。

接種後にダウン続出 勤務変更や業務に支障

そして……接種後に39℃くらいの発熱でダウンする人が周囲で続出しています。少なくとも私の知っている範囲では、コロナに感染した人(正確には検査での陽性者)は一人もいません。なのに、それを防ぐためのワクチン接種でバタバタ倒れるとか、本末転倒感がすごい。

先日、他部署と打ち合わせがあったのですが、そこの部署の社員がワクチン接種後の発熱で何人も休んだたため、打ち合わせは延期になりました。

「何人もが同時に接種するからだろ。部署内で日程ズラせよ」と思うかもしれませんが、現状では接種の予約を取るだけでいっぱいいっぱい、日時の指定まではできないでしょう。複数の社員で日程が重なるのは、仕方ありません。

私の部署(指令)でも、ワクチン接種後に発熱した人がおり、勤務変更(シフトの組み直し)がありました。また、後輩の運転士に聞いてみたら、やはり何件か勤務変更があったそうです。現在はコロナ禍のせいで臨時列車(増発)があまりないので、シフトは回るようですが。

勤務表を作るときに最初から接種後に休日を入れる

……とまあ、こんな感じで接種後の発熱率は無視できないレベルです。

私の部署の勤務作成担当者は、みんなにワクチン接種日を聞いて、接種後2~3日は休日を入れるようにし始めました。つまり、最初からワクチン後の発熱を計算してシフトを組んでいます。

詳しくは↓の記事を参照してほしいのですが、鉄道会社では、「熱があるんで明日休ませてください」みたいな急な勤務変更は大変なんですよ。

そうなるくらいなら、最初から接種後に休日を2~3日入れとけ、というわけ。

ワクチン接種で休日労働が多発して人件費増につながる?

ただ、そうやってシフトを組むのは大変です。「一回打てば一生有効」のワクチンなら、シフトを組むのが大変なのは今回限りということで、多少の無茶は通ります。

しかし、コロナワクチンは「半年~1年しか効果が持続しない」という説もあります。もしかすると、今後は半永続的に年1~2回の接種が必要になるかもしれません。

冒頭でも書いたように、だいたいの社員は「接種する派」。もし今後、ワクチン接種が常態化し、多数の社員に接種後2~3日の休みが必要となると、勤務シフトを組むのが容易ではありません。
(3回目以降の接種では、副反応の確率が落ちてくれるかもしれませんが)

そもそも、休日どころか、年次有給休暇も満足に取得させられない鉄道会社もあります。そういう会社だと、休日+年次有給休暇を組み合わせても、2~3日の連続休みを作るのは大変でしょう。勤務が回らなくなる可能性が大です。

どうしても人が足りない場合は、休日(法定休日)を潰して出勤させる休日労働が必要です。しかし、労働基準法上、休日労働は35%増の賃金を支払わなければいけません。あまりに休日労働を連発させると、人件費増につながります。

詳しくはこちらの記事で説明していますが、人件費は鉄道会社の経費(正確には営業費用)の中で30%程度を占めています。経費全体に与える影響が大きいのですね。休日労働が増えるのは、かなりの痛手でしょう。

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人件費増が続くと減便につながるかも

鉄道会社はただでさえ、コロナ禍で売上が落ちて苦しんでいます。赤字の会社も少なくありません。そこに人件費増が重なると、なりふりかまっていられません。

具体的には、人件費を減らすために減便が加速する可能性があります。最近も、JR西日本京阪電鉄名古屋鉄道で減便するというニュースが流れました。

「コロナ禍による一時的な減便」ですと、経費削減効果はあまりありません(→その話はこちらの記事を参照)。しかし、「恒久的な減便」ならば乗務員の必要人数が根本的に減るので、経費削減効果がそれなりにあるでしょう。

もし将来、コロナワクチンの接種が常態化したら、回り回って鉄道の減便につながるかもしれません。いや、ワクチンを接種しなかった場合、それはそれでクラスター発生 ~ 乗務員の出勤停止 ~ 一時的な減便……となるケースが出るでしょうが。

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近年登場した「電気式気動車」 従来の「液体式気動車」と比べて優れている点は?

今回のテーマは気動車(ディーゼルカー)です。

日本の幹線では、線路の上に架線を張り、そこからパンタグラフで電気を受け取って走行する「電車」が一般的です。対して、田舎のローカル線では、ディーゼルエンジンを搭載して走行する「気動車」が多いです。

ブオオォォと唸りを上げ、煙を吐きながら走行する気動車。エンジンを使って走行するという点では、自動車と同じですね。

近年の新造気動車 従来の「液体式」から「電気式」へ

この気動車ですが、従来から液体式という仕組みが一般的でした。たとえば、国鉄時代に開発されて全国で使われた代表的な気動車・キハ40形も「液体式気動車」です。

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キハ40形

しかし近年、新造される気動車は電気式というタイプが増えてきました。最近投入されたJR東日本のGV-E400系や、JR北海道のH100形は「電気式気動車」です。

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GV-E400系

新造気動車に、従来からの「液体式」ではなく「電気式」を採用する。それはつまり、「電気式」の方がいろいろメリットがあるということですね。

技術の進歩によって「電気式気動車」を実用化できるようになったのですが、それでは「電気式」のメリットとは何でしょうか?

気動車の動力系システムを解説!

いきなり「電気式のメリットは○○だ!」と説明してもワケわからんと思うので、まずは基礎知識。気動車の仕組みを説明しましょう。鉄道に詳しくない人にも理解できるよう、細かい部分の説明は省きました。

液体式気動車の仕組み

まず、昔からある「液体式気動車」ですが、動力系のシステムは↓図のとおり。

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「液体式気動車」の床下機器イメージ図

ディーゼルエンジンで発生させた運動エネルギーを、液体変速機 推進軸 減速機 → 車輪……という順で伝達していきます。これによって車輪が回転し、車両が走ります。

「液体変速機? 推進軸? 減速機? なにそれ?」という人、深く考えなくていいです。そういうモノがあるんだと、ひとまず割り切ってください。なお、エネルギーの変換過程を示すと↓図のようになります。

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電気式気動車の仕組み

対して、近年導入が進んでいる「電気式気動車」の動力系は↓図のとおり。

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「電気式気動車」の床下機器イメージ図

まず、ディーゼルエンジン発電機を回します。そこで生み出した電気を使ってモーターを動かし、車輪を回転させます。「電気を使ってモーターを回転させ車両を走らせる」という点では、電車とまったく同じですね。

電気式気動車のエネルギーの変換過程は、↓図のようになっています。

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  • エンジンとは、熱エネルギーを運動エネルギーへ変える機関
  • 発電機とは、運動エネルギーを電気エネルギーへ変える機関
  • モーターとは、電気エネルギーを運動エネルギーへ変える機関

電気式のメリット コスト削減効果や機器の扱いやすさ

はい、ここで電気式気動車のメリットがひとつ出てきました。

先ほど、「電気を使ってモーターを回転させ車両を走らせるという点では、電車とまったく同じ」と書きましたが、これこそがメリット。ようするに、電気式気動車には「電車」と同じ部品が使えるのです。

「電車」と「気動車」で部品を共通化できれば調達コストが下がりますし、予備部品も確保しやすくなります。また、部品が共通だと検査や修繕も楽になるので、メンテナンスコストも下がります。

他にもメリットはあります。

液体式気動車で使われる液体変速機や推進軸は、運転中は高速回転します。そういう高速回転する機器は、もし異常が発生した場合に安全上あまりよろしくありません。また、減速機などは部品数が多くてメンテナンスも大変だそうです。

それに比べると、電気式気動車で使われる機器の方が、総体的にはシンプルで扱いやすいのです。

このように、各種コストや機器の扱いやすさなどをトータルで比べると、「電気式」に優れている点が多いのですね。こうしたメリットを勘案して、最近の新造気動車は「液体式」から「電気式」にシフトしているのです。もちろん、それができるのは技術の進歩が背景にあります。

気動車の変化は非電化構想を推し進めると思われる

いろいろ説明してきましたが、簡単にまとめれば、気動車を運用する際のコストや手間が、昔よりも軽減できるようになったということです。

ところで、2021(令和3)年8月、JR東日本が「磐越西線・会津若松~喜多方間を非電化する」との構想を発表しました。

現在、磐越西線は「気動車」と「電車」の両方を使って運行されています。電車が走れるということは、つまり架線設備が存在するのですが、会津若松~喜多方間は架線設備を撤去してしまい、そこの区間は使用車両を気動車に統一しようというもの。言うまでもなく、これは業務の効率化やコスト削減のためです。

こういう構想を打ち出せるのも、気動車運用のコストや手間が軽減できるようになったことが背景にあります。今後も、磐越西線のような非電化構想が出てくるでしょう。

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本記事の写真提供 tomoさん

本記事内のキハ40形とGV-E400系の写真は、はてなブロガー・tomoさんが運営する『乗り物好きによる旅行ブログ』から拝借しました。写真使用の許可をいただき、ありがとうございました(^^)

『乗り物好きによる旅行ブログ』は、鉄道旅だけではなく、飛行機旅も取り上げているのが特徴です。記事のボリュームもちょうどよい感じで、文章もサクサク読めます。個人的には「宿泊記」のジャンルの記事が好きですね。ブックマも複数しています。

【時事ネタ】新型コロナのワクチン接種は受けないつもり

今回は息抜きがてら、当ブログで初めてとなる「一般の時事ネタ」に挑戦。鉄道ネタではないので、ご注意ください。

いよいよ、コロナワクチンの接種が進み始めました。私の家族も、父親が予約完了。妻の父は、一回目の接種完了。

鉄道会社でも、JR東日本・西日本・東海近鉄は、職域接種を行うことを発表しています。

子どもや若者がコロナで死亡する確率は極めて低い

このように、世の中ではコロナワクチン接種が加速中です。が、私は今のところ、接種は様子を見てからにしようと考えています。ちなみに、妻も「打たない」と言っています。

早い話、私くらいの年齢(高齢者ではない)なら、わざわざワクチンを打つほどのウイルスじゃないなと……。

これは数字を見れば一目瞭然ですが、コロナは年齢と危険性が比例しています。ようするに、高齢になるほど重症化や死亡のリスクが上がる。ですので、高齢者は打ったほうがいいでしょうね。

逆に言うと、子どもや若者にとっては危険性が低いウイルス。実際、2021年5月31日現在、未成年の死者は1人もいません。
(にもかかわらず、コロナ禍で一番割を喰っているのが未成年なわけで……)

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国立社会保障・人口問題研究所のデータより作成。年代別・コロナによる死亡者数。(注)年代・性別が公表されている人に限る

私は高齢者ではなく、さらに基礎疾患もないので、重症化や死亡の危険はほとんどゼロと言っていいでしょう。それなのに、長期的な安全性が未知の、まったく新しいタイプのワクチン(後述)を打つのは、ちょっと抵抗があります。

私の年代だと、交通事故などで死ぬ確率のほうが高いはず。

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警察庁のデータより作成。2020(令和2)年の年代別・交通事故死亡者数

「電車通勤でコロナに感染するのが怖いので、マイカー通勤に切り替えました」なんて言ってる若者がいましたが、そりゃアンタ、死亡する確率を上げてるんじゃないか……。

遺伝子ワクチンとは?

すみません、話が逸れました。

さて、現在使用されているコロナワクチンですが、インフルエンザワクチンなどとは違うまったく新しいタイプのものです。ビックリしたのですが、職場でも、このことを知っている人が全然いません。みんな、インフルエンザワクチンや子どもの予防接種と同様に考えているようで……。

そこで、医学素人の私が、本などで得た知識をもとに説明に挑戦!

たとえばインフルエンザワクチンの場合、有精卵で培養したウイルスを、無害化処理したうえで体内に入れます。すると身体は、「これがインフルエンザウイルスか」と学習して、免疫を獲得する。

これは、不活化ワクチンと呼ばれるタイプのものだそうです。

で、今回のコロナワクチンは不活化ワクチンではなく、遺伝子ワクチンというものです。

不活化ワクチンでは無害化されたウイルスを身体に入れますが、遺伝子ワクチンで身体に入れるのは、いわば「ウイルスの設計図」。身体はウイルスの設計図に従って、体内で擬似コロナウイルス(もちろん無害)を作り出します。あとは不活化ワクチンと同じで、身体が「これがコロナウイルスか」と学習して、免疫を獲得する。

うーむ、なるほど。
体内に入れるのが「無害化されたウイルス」か「ウイルスの設計図」か、という違いですね。

で、この遺伝子ワクチンを人類に本格使用するのは初めてらしいです。よって、「長期的な安全性が不透明」という見解があります。10年20年経ってから、身体に何らかの影響が出てくる可能性もゼロではないわけ。

もっとも、ワクチンの安全性は、実際に人体に接種してみないとわかりません。ですので、「安全性がどうなんだろうね」という理由で誰も打たなかったら、いつまで経っても安全性が判明しないのですが……。

慌ててワクチンを打つ必要性を感じない

コロナに感染すると数十%の確率で死ぬというなら、安全性の心配は後回しで、とにかくワクチンを打つべきでしょう。

また、こんなことを書いたら怒られるかもしれませんが、高齢者なら先が短いので、長期スパンでの不具合が発生しても、そこまで影響は大きくない。

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再掲図 年代別・コロナによる死亡者数

しかし、実際の死亡率は低いですし、私はまだ先が長い年齢なので、長期スパンでの不具合が起きたら困ります。ですから、自分は慌ててワクチンを打たなくてもよいグループ、というのが自分なりの結論です。

問題は「ワクチン打つべし」という職場での同調圧力に抗えるかですが、私はそういうの気にしないタイプなので大丈夫(笑)

ゼロコロナになることはありえないので、今後もコロナは続くでしょう。ワクチン接種も続き、そのうち安全性も判明してくると思います。その頃になったら、私も歳を喰ってリスクが高まってきますから、そこで打てばいいのでは、と考えています。

なぜコロナばかりが特別視されるかが謎

ここまで読んで、「お前はコロナをなめすぎ」と思う人もいるでしょうが、コロナだけ特別視されている理由がよくわからないですね。

たとえば、インフルエンザは毎年数千人から1万人が亡くなるそうです。
(しかもコロナと違い、ワクチンや薬があったうえでの数字)

また、ジャンルが違うので一概に比べるのは変かもしれませんが、タバコって、毎年どれくらいの死者を生んでいるか知ってます?

タバコは心臓病や脳卒中など、さまざまな病気の原因になりますが、厚生労働省の資料によれば、タバコ(能動喫煙)による死者数は毎年約13万人(推計)だそうです。また、受動喫煙でも毎年約15,000人が亡くなっていると推計されています。コロナよりも、はるかに多い死者数です。

コロナで大騒ぎするなら、インフルエンザやタバコだって大騒ぎするべきだと思うのですが……。「インフルエンザの感染拡大を抑えるため、国民は自粛を!」「タバコに起因する病気で、今日は全国で300人も死亡しました。タバコまじ怖ぇぇぇー!」みたいに。

でも実際、そんなふうに騒がれたら、ほとんどの国民は「?」となるはずです。

もちろん、新型コロナは「未知のウイルス」でしたから、当初は特別視して厳重に対策するのが正解だったでしょう。しかし、1年以上経ってデータや経験が蓄積され、季節性インフルエンザと比べても、そこまで脅威的なウイルスでないことがわかってきたはずです。

インフルエンザ並みの扱いに“格下げ”するなりして経済を再開させないと、取り返しのつかない事態になるのでは、と心配です。

(2021/6/11)

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