現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

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列車の運転室内に2人以上いる? 添乗や便乗という仕組み

列車の運転士は一人仕事です。みなさんが先頭車両に乗って前方に目をやっても、運転室の中には運転士1人だけ、というケースがほとんどでしょう。

ただし、実際にハンドルを握っている運転士以外にも、運転室の中に人がいるのを見たことがあると思います。

典型的なのが、見習運転士 + 指導運転士というパターンです。ハンドルを握っているのが見習運転士、横に立っているのが指導運転士(いわゆる先生)。自動車免許でいうところの仮免教習生 + 指導教官と同じです。

添乗──運転士の仕事ぶりをチェックするために乗りに来る

運転室に2人以上いるケースは、この見習運転士 + 指導運転士というパターン以外にもあります。

一つは添乗と呼ばれるものです。

運転士が所属する部署(乗務区・運輸区・運転区・機関区などと呼ぶ)には、運転士の指導を仕事とする人もいます。ようするに運転士の上司ですが、「運転士が正しく仕事をしているか?」をチェックするため、実際に列車に乗り込むのです。だから運転室内が2人になると。

運転士は基本的に一人仕事なので、間違った方法でやっていても、指摘してくれる人がいません。それではマズいので、たまに添乗してチェックするわけです。

私もいろいろ言われました。そんなにスピード出さなくていいだろとか、もっとハンドル操作を丁寧にやれとか。「そんな荒っぽいと女の子に痛がられるぞ」と言われたのは忘れられない(笑)

ちなみに添乗には、指導担当者が制服を着て運転室に乗り込んでくる「正攻法」以外に「搦め手」もあります。どういうことかというと、運転士の普段の姿を見るために、私服で乗車し、乗客のフリをして運転室の後ろからこっそりチェックするというもの。上司に見られていないと思ってダラけている運転士は、これで“刺され”ます(ギャー

便乗──運転士(乗務員)が移動するための手段

ちょっと話が逸れました。運転室に2人以上いるケースは他にもあって、便乗と呼ばれるのもそれです。

便乗とは、他の運転士が運転する列車に乗って、目的地まで移動すること。言ってみれば「運転士の回送」ですね。

たとえば、東京から静岡まで貨物列車が3本走ったとします。運転してきた3人は東京に戻りたいのですが、静岡から東京へ向かう列車は1本しかない。こういう場合、2人は乗務する列車がない(=運転士が余る)ので、便乗で帰ります。

こういう便乗は貨物会社に限った話ではなく、旅客会社でも普通にあります。そして、便乗の際は運転室に身を置くので、室内が2人以上になるわけです。
(便乗時は客室という鉄道会社もある)

その他、ダイヤが乱れたときも便乗が発生します。ダイヤが乱れると、「どの乗務員をどの列車に乗せるか?」を定めた運用計画というものが狂います。それに対応するため、乗務員のやりくりを変更しなければならず、その過程で便乗を指示することもあります。

途中で人が増減するのは添乗か便乗

  • 見習運転士 + 指導運転士
  • 添乗
  • 便乗

というわけで、運転室内に2人以上いるケースの解説をしました。

見習運転士 + 指導運転士の場合は、必ず2人がセットで動くので、途中で増減することはありません。今まで1人だったのに、途中から誰か乗ってきた。もしくは、今まで運転室内に2人いたのに途中で1人降りた。こういうケースは添乗か便乗です。

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住宅街にある第4種踏切道 津山線・後田堀踏切

みなさんは、第4種踏切道なるものをご存知でしょうか?

踏切というと、列車が接近すると警報機がカンカン鳴り始め、遮断機(桿)が降りる。これをイメージすると思いますが、実は世の中には、「警報機と遮断機いずれも備えていない踏切」が存在します。それが第4種踏切道です。

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第4種踏切道 運輸安全委員会「踏切事故を起こさないために」から画像を拝借

津山線の後田堀踏切 岡山市の住宅街にある

第4種踏切道、だいたいは田舎にあります。ほとんど人や車が通らない田舎道なので、わざわざ警報機・遮断機まで付けなくてもいいでしょう、という理屈。周りは山や田んぼ、畑が広がっていて、のんびりとした雰囲気が漂っている。『第4種踏切道』で画像検索すると、そんな写真が多く出てきます。

しかし中には、住宅街に位置する第4種踏切道もあります。それも、県庁所在地駅からわずか2.5㎞ほどの位置に。

その珍しい第4種踏切道がある場所とは、岡山県岡山市です。

岡山から鳥取方面へ伸びていく津山線という路線があります。岡山駅の次、法界院駅から北へ約200m。件の第4種踏切道は、そこにあった──

マンションやらアパートやらに周りを囲まれたこの第4種踏切道。その名も後田堀踏切です。警報機も遮断機もありませんが、これも立派な踏切。

鉄道マンとしての感覚だと、この場所に第4種踏切道があるのは変な感じです。わざわざ踏切まで設けるような場所・道ではない気が……。

なぜ、ここに踏切を設けたのか? 昔は、この周辺も田んぼや畑ばかりだったのか? そのうちマンションやアパートが建ってきて、住宅街に取り込まれてしまったのか? つまり、後天的に発生した「住宅街の第4種踏切道」なのか?

こうした疑問に対する答えを、この踏切のたたずまいから推測することは私には不可能でした。そのあたりの歴史をご存知の方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください。

後日追記コメント欄にてTakamasa Nakagawaさんから、「岡山大学の学生さん用のショートカットルート」との情報をいただきました。ありがとうございます(^^)

住宅街の第4種踏切道 安全性は問題ないのか?

ところで第4種踏切道、警報機も遮断機もないことから、普通の踏切(=警報機と遮断機が付いた第1種)よりも危険です。実際、毎年のように全国どこかの第4種踏切道で死亡事故が起きています。

住宅街にあり、田舎よりも人の往来が多そうな後田堀踏切、かなり危険ではないか?

ただ、第4種踏切道での事故は、軽自動車や軽トラックに乗っていて、というケースが多いです。これは、自動車に乗っていると外の音が聞こえにくく、列車の接近に気付かないという理由があるのでしょう。

その点、歩行者だと列車の接近には気付きやすい。歩行者が事故に遭った例は、実は少ないのです。で、写真を再確認するとわかりますが、後田堀踏切は自動車が通れる感じではないですね。歩行者専用踏切と言ってよいでしょう。

また、後田堀踏切に関しては、わりと近くに普通(第1種)の踏切があります。列車が接近すれば、そちらの警報機がカンカン鳴り始めるので、その音が少しは聞こえるはずです。そういう点でも、比較的安全な第4種踏切道じゃないかなぁ……というのが、私の見立てです。

後日追記コメント欄にてけんじさんから、「2025年10月26日現在、バーを自分で持ち上げる遮断機が設置されていることを確認した」との情報をいただきました。ありがとうございます(^^)

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台風襲来前夜 鉄道マンの仮眠室争奪戦

台風14号が列島を通り過ぎていきましたが、みなさん大丈夫でしたか? 私のところもゴチャゴチャしましたが、そこまで大きな混乱もなく済みました。

さて、今回の記事では、台風が来たときの鉄道現場の裏話を一つ紹介しましょう。

出勤できない事態を防ぐために「前泊」する人もいる

台風が襲来するタイミングは、朝・昼・夜とあります。夜中から翌朝にかけて台風が来る場合、鉄道マンが心配するのが、「明日はちゃんと出勤できるか?」です。台風で交通機関が止まって出勤できないことは、じゅうぶんありえます。

鉄道の現場はシフト制です。たとえば乗務員だと、「どの列車に誰が乗るか?」が厳密に割り当てられています。出勤できない人がいる場合、必要な乗務員数が足りなくなり、列車を動かせない事態もありえます。

また、私は指令の仕事をしていますが、24時間サイクルで交代します。もし交代者が出てこなかったら、前日からの勤務者が残って仕事を続けるしかありません。

このように、出勤できずにシフトに穴をあけるとヤバいので、前夜のうちに職場に行って一泊する人もいます。こうしておけば翌朝出勤できないという事態は発生せず、安心です。これを前泊と呼びます。

ちなみにこれは、「業務指示として」前泊させるものではありません。あくまで「社員が自主的に出てきた」というものです。
(少なくとも私の職場はそう)

前泊のために使える仮眠室はそう多くない

前泊には、泊まるための部屋が必要です。鉄道現場の施設には仮眠室があるので、それを使うわけですが、ここで問題になるのが「仮眠室の数には限りがある」です。

当日の勤務者が仮眠で使うので、余っている仮眠室はそう多くありません。数に限りがあるため、翌日の勤務者全員を前泊させることは難しい。

というわけで仮眠室争奪戦になることもあり、そのへんは調整が必要になります。前泊は、職場から遠い人を優先しますね。近い人は、交通機関が止まっても、まあ自力でなんとか来てくれと(笑)

仮眠室の割り当てをどう決めるかも、管理者の仕事の一つです。明朝出勤してくる人に電話して、「あーもしもし。明日の朝ヤバそうだけどさぁ、今日のうちに出てくる? それとも前泊なしでいい?」と聞きます。また、前泊したい本人から、「今日の夜は仮眠室あいてます?」と連絡が入ることも。

仮眠室使用は乗務員が優先 管理職は自腹を切ることも

乗務員の所属基地だと、仮眠室使用は乗務員を優先します。乗務員に穴があく(数が足りなくなる)と、列車を動かせないからです。管理職なんかは、前泊したければ、職場近くのホテルを自分で探して泊まったりします。

こうした場合のホテル代ですが、「前日のうちに出てこい」と会社から指示されたのであれば、それは業務指示になるので、費用は会社持ちが筋です。が、先ほども書いたように、あくまで「社員が自主的に出てきた」という格好なので、自腹になるという……。

まあ、そういうときのために管理職手当が支給されてると思い、私は納得しています。ハイ。

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タラコ大軍団 in岡山

 

これだけタラコがあったら、ごはん何杯でも食べられるね! え? 20杯や30杯は無理だろう? うるせぇよ!

タラコ色は「昔」を象徴するカラーリング

鉄道に詳しくない人のために解説しておくと、↑の車両の塗装に使われている朱色、鉄道ファンの間ではタラコ色と呼ばれます。こ色にカラーリングされた車両のことを、タラコと呼んだりします。

昔の気動車(ディーゼルカー)は、このタラコ色で塗装されているケスが多く、ようするに「昔」の象徴とも言える色なのですね。

が子どもの頃は、あちこちでタラコを見ることができましたが、令和の現代では滅にお目にかかれなくなってしまいました。が、いまだに国鉄時代の面影が濃く残っているJR西日本岡山地区では、比較的簡単にタラコと会うことができます。

もっとも、岡山地区の気動車は全てタラコというわけではなく、当然ながら他のタイプも存在します。

辛子明太子クリーム色。パスタかっ

レールバスタイプの気動車

ですから、冒頭のタラコ軍団の写真の中に、辛子明太子クリームやレールバスが混ざってしまっても、別に不思議ではないのです。タラコ一色が撮れたのはラッキーでした。

国鉄王国・岡山にも終焉の波が……

岡山といえば、長年、国鉄王国(?)と呼ばれ、国鉄時代に作られた車両がいまだに多く走っている地区です。

日本で唯一残っている国鉄型特急車両・381系。岡山~出雲市を結ぶ特急やくもに使用されている

国鉄113系電車。昔はいっぱい走ってたな~(←遠い目

しかし最近、ついに新型車両の導入が発表され、国鉄王国にも終焉の波が訪れようとしています。気動車ではなく、まずは電車から置き換える(淘汰する?)ようなので、まだ何年かはタラコ大軍団を見ることができるでしょう。

ところで、岡山名物といえばきびだんごですが、ウチの妻は、「サトウキビで作っているからきびだんご」と思っていたようです。妻よ、サトウキビじゃなくて穀物のキビ(黍)だぞ。

もっとも、現代の土産用きびだんごには、キビは少ししか含まれていません。むしろ砂糖の方が多く入っており、「サトウキビで作っている」との表現は、あながち間違いでもないですが……。

(2022/9/2)

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省エネ運転 運転士は節電のために何を意識すべきか

東京電力のマスコットキャラクター・でんこって知ってます?

おそらく、若い人は「何ソレ?」という反応で、私のようなオッサン世代なら、「あぁ~でんこ。そういえばいたいたw」と頷いてくれるのではないでしょうか。

でんことは、東京電力が広報のために作ったキャラクターで、本名は分電でんこといいます。「電気を大切にね!」が口癖。なお、旦那さんは電気をあまり大切にせず、節電意識に欠けているらしい(笑)

電気をムダにしない「経済運転」 運転士の心得4つ

今回の記事のテーマは、節電・省エネです。具体的には、「電車を運転する際、運転士は節電のために何を意識すべきか?」です。

電車というマシーンは、バカみたいに電気を喰います。あれだけ巨大な物体を高速で走らせていますから、必要なエネルギーが相当な量になるのは、容易に想像がつくでしょう。

編成両数や速度にもよりますが、一駅運転するだけで、家庭で一日に使う量ほどの電気を消費することもあります。そのあたりは↓の記事に詳しいのでどうぞ。

少しの運転操作の違いで、節電・省エネ度合いは大きく変わってきます。たとえば、運転操作を工夫して、A駅~B駅の一区間で10%節電の運転が実現できた。たった10%オフですが、これを家庭換算すると、電子レンジ2~3時間使う分くらいの電気は浮くでしょう。

電気をムダにしない運転を経済運転と呼びます。そのために、運転士はどのようなことを心掛けているのでしょうか? 私の経験からすると、心得は以下の4つです。

  1. スピードを出し過ぎて早着しない
  2. 適切なブレーキ扱いをする
  3. 必要以上に速度を低下させない
  4. 列車を遅延させない

心得壱 スピードを出し過ぎて早着しない

経済運転の心掛けその1。スピードを出し過ぎて早着しない。早着とは、指定された到着時刻よりも駅に早く着いてしまうことです。

いるんですよ、明らかに必要以上の速度を出して早着する「スピード狂」の運転士が。今の一区間の運転で、電子レンジ何時間分の電気を余計にムダにした? でんこも激おこ(←古い)です。

ただ、早着は絶対ダメかというと、そういうわけでもなくて……。たとえばラッシュ時間帯なら、駅での乗降時分をしっかり確保するために、早着を狙うぐらいのつもりで運転した方がよいとの考え方もあります。

まあ、乗客の少ない早朝深夜・真っ昼間にガンガン飛ばして、駅で停車時分が長くなるようなケースは、明らかに運転士の節電意識が足りないです。

その他、「スピード狂」とは別の原因で、腕が未熟で速度を高くせざるをえない、というケースもあります。簡単に言うと、運転が上手な人ほど、速度を抑えつつ定時運転ができます。逆に言うと、下手な運転士ほどガンガン飛ばす、ということ。

見習運転士のような未熟者だと、速度を抑えた運転は難しいです。私もそうで、見習運転士のときよりも、独り立ちしてからの方が、明らかに低い速度で走れるようになりました。

心得弐 早すぎず遅すぎず 適切なブレーキ扱い

経済運転の心掛けその2。適切なブレーキ扱いをする。

駅停車時、ブレーキを早く掛けすぎると、トロトロの速度での進入になってしまい、ゴール地点にたどり着くまで時間がかかります。そうなると列車が遅れ気味になり、それを取り戻すため、速度を高くせざるをえなくなります。言うまでもなく、電気のムダですね。

かといって、あまりギリギリまで我慢してからのブレーキだと、今度はオーバーランの危険があります。

節電的な視点では、オーバーランなど論外。まず、所定位置までバックするための電力が余計です。さらに、オーバーランの処置で列車は大幅に遅れるので、やはり高い速度での運転が必要に。でんこも激おこぷんぷん丸(←古い)です。

心得参 必要以上に速度を低下させない

経済運転の心掛けその3。必要以上に速度を低下させない。

急なカーブや下り坂、ポイントには、速度制限が存在します。こういう箇所を通過するとき、あまり速度を落としすぎるのも電気のムダ。

制限60㎞/hのカーブを40㎞/hで通過するようなことをしていると、通過に時間がかかって列車が遅れ、カーブを抜けた後に再加速するのにも余計な電力が必要になります。でんこもムカ着火ファイヤー(←熱い)です。

もっとも、常に制限速度いっぱいで通過するのが正しいかというと、それも違いますが……。乗り心地が悪くなることもあるので、そこはバランスの問題でしょう。意識の高い運転士は、そのあたりもちゃんと研究しています。

心得肆 列車を遅延させない

経済運転の心掛けその4。列車を遅延させない。定時運転をキープすることです。

前々項の「適切なブレーキ扱い」、前項の「速度を低下させすぎない」と根っこの考え方は同じです。列車が遅れれば、それを取り戻すために余計な加速 = 電力が必要になります。

ただ、前々項・前項では「自列車」が余計な電力を喰うという観点でしたが、本項で考えたいのは「他列車」への影響です。

わかりやすい例として、単線区間では一本の列車が遅れれば、それが行き違い列車にも影響し、遅れが全体に波及します。「掛け算効果」による無駄な電力使用ダメージは甚大なのです。でんこもカム着火インフェルノォオオォオォォゥ(←長い)です。

ちなみに、定時運転のためには、運転士の腕だけではなく車掌の腕も必要になります。簡単に言えば、ドアの開閉でモタついて時間を喰うと定時運転が難しくなるので、スムーズなドア扱いが求められます。

電気を大切にね!

  1. スピードを出しすぎて早着しない
  2. 適切なブレーキ扱いをする
  3. 必要以上に速度を低下させない
  4. 列車を遅延させない

以上、電気をムダにしない経済運転の心得でした。あくまで個人的な意見なので、他の運転士に聞けば、また違った心得も出てくると思います。

単に定時運転を行うだけでなく、節電にまで配慮できるようになると、視野の広い一人前の運転士といえます。でんこを激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム(←ワケわからん)させないよう、腕を磨きましょう。

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リニアはどれだけの電力を消費する? 原発再稼働は必須なのか?


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電車の消費電力量はどれくらい? 運動エネルギーから考える

 節電

近年の重要ワードです。「節電要請 協力しない企業は罰則も」「電力不足解消のために原発再稼働」なんてニュースも流れています。そういうニュースを見ると、具体的な内容はわからなくても、なんとなく「節電しなきゃな~」という気になるのではないでしょうか。

さて、そういう人へ、鉄道マンの私からお願い。

駆け込み乗車はやめましょう
節電のためにご協力を

発車が遅れれば速度を上げて電気を余分に喰う

節電のために駆け込み乗車はやめろ? 意味が分からないと思いますが、簡単に言うと、次のようになります。

駆け込み乗車で発車が遅れる
→遅れを取り戻すために、運転速度が高めになる
→余分に電気を消費する

こう説明すれば、納得ではないでしょうか。

ここで気になるのが、「駆け込み乗車で発車を遅らせると、どれだけ余分に電気を喰うか」という点。もっと言うと、電車というマシーンは、どれだけ多くの電気を消費しているのか?

先に結論を言ってしまうと、電車は一駅運転するだけで、家庭で使う一日分ほどの電気を喰うモンスターです。そのあたりを、理科の知識も交えて説明するのが今回の記事です。

【基本知識1】電気をどれだけ使ったかを表す「消費電力量」

まずは理科の基礎知識から。苦手な人にも理解できるよう、噛み砕いて書くので安心してください。

今回のテーマは「電気をどれだけ使ったか?」ですが、それは消費電力量(ワットアワー・Wh)という単位で表します。たとえば、我が家の毎月の消費電力量は、約30万Whです。

ちょっと数字がデカすぎるので単位を変換して表示すると、30万Wh = 300kWh。1000倍を意味するk(キロ)を使いました。そして……

  • 一ヶ月の消費電力量 → 300kWh
  • 一日の消費電力量 → 10kWh

こうなりますね。調べたところ、これは日本の平均的な数値みたいです。

消費電力量の計算式は↓の通り。

消費電力 × 使った時間 = 消費電力量

たとえば、消費電力500W(ワット)の電子レンジ。これを1時間使い続けたら、消費電力量は 500W × 1時間(h) = 500Wh(ワットアワー) になります。

「消費電力と消費電力量? 何が違うの?」と思った人、お風呂に水を溜めるシーンを想像してください。

蛇口から水が出て、どんどん浴槽に溜まっていきます。このとき、「蛇口からどれくらいの勢いで水が出ているか?」と「浴槽にどれだけ水が溜まったか?」は別ですよね。

「蛇口からどれくらいの勢いで水が出ているか?」に相当するのが消費電力。対して、「浴槽にどれだけ水が溜まったか?」が消費電力量です。

消費電力 × 使った時間 = 消費電力量

電気料金は、消費電力量すなわち「どれだけの量の電気を使ったか?」によって決まります。お風呂の例でいえば、「浴槽にどれだけ水を溜めたか?」で決まるわけ。

今度、電力会社から電気料金のお知らせが来たら、きちんと眺めてみてください。電気の使用量にはWh(正確には1000倍変換するkWh)という文字がついているはずです。

【基礎知識2】エネルギーの単位・ジュール

家庭での消費電力量を示しましたが、それでは、電車はどれだけの電気を消費するのかっ? ……と勢い込んだところで、みなさんにお詫びを。

計算できん

電車の消費電力量。これは計算が複雑すぎて、とても私の手には負えないです(^^;) 申し訳ない。

ただ、「計算できない = まったくわからない」というわけではなく、ある程度は推測できます。ちょっと違うアプローチで考えましょう。

電車が線路上をガタンガタンと走っている。このとき電車は動いているので、運動エネルギーを持っていることになります。

では、この運動エネルギーはどこから来たのか? エネルギーが突然湧いて電車に与えられたのではなく、供給元があるはず。

それが架線から受け取った電気エネルギーです。架線から受け取った電気エネルギーを運動エネルギーに変換することで、電車は走っているのです。
(電気エネルギーを運動エネルギーに変換する装置がモーター)

エネルギーには、さまざまな種類があります。運動エネルギー、電気エネルギー、熱エネルギー、音エネルギー……。しかし、これらは形は違えど、本質的にはすべて同じものです。

同じものなので、同じ単位で表すことができます。それがジュール(J)です。ジュールというエネルギーの単位、聞いたことありますよね。

運動エネルギーから消費電力量を推測する

さあ、ここからが本題です。

先ほど、「電車は電気エネルギーを運動エネルギーに変換して走っている」と書きました。電気エネルギーと運動エネルギーは本質的に同じですから、電車が持つ運動エネルギーの値がわかれば、それを電気エネルギーに換算 → どれだけ電気を使ったか推測できる、というアプローチです。

10両編成の電車(1両30トン×10両=300トン)が72㎞/hで走っているとします。このとき、編成全体が持つ運動エネルギーは6,000万ジュールです。

運動エネルギーを求める式は↓の通り。

1/2 × 重さ㎏ × 秒速(m/s)の2乗

電車10両・300トンを㎏に直すと30万㎏、72㎞/hは秒速に直すと20m/sです。これを式に当てはめると……

1/2 × 30万 × (20×20) = 6,000万ジュール

この6,000万ジュールの「出資元」は架線からの電気エネルギーですね。6,000万ジュールとは、消費電力量(ワットアワー・Wh)に変換すると16.7kWhです。

ジュールと消費電力量の換算式は↓の通り。

1kWh = 360万ジュール

360万ジュール = 1kWh ということは、6,000万ジュール = 16.7kWh ですね。このサイトがわかりやすいので、興味がある人はどうぞ。

つまり、16.7kWhの電気を変換して、6,000万ジュールの運動エネルギーを生み出し、10両編成の電車を72㎞/hで走らせることができるのです。もちろん、駅に停まればまた動かすためにエネルギーが必要で、ようは停車・発車を繰り返すたびに十数kWhの電気を喰います。

これはかなり大雑把に考えているので、正確な数字ではありません。ただ、大筋としては間違っていないはずで、いわゆる「ケタ間違い」は生じていないと思います。

なお、ここでは「10両編成が72km/hで走っている」という条件で計算しましたが、両数が少ないとか、もっとスピードが遅いとかなら、エネルギーが少なくて済むのはおわかりですね。

駆け込み乗車でどれだけの電気がムダになるのか?

ここまでの話をまとめますと、

  • 電車が一駅運転して喰う電力量 → 十数kWh
  • 家庭での一日の消費電力量 → 10kWh

家庭での消費量と比べることで、電車がどれくらい電気を喰うのか、イメージが湧いたと思います。

ここで話を戻しましょう。そもそも「駆け込み乗車は節電の妨げになる」というテーマでした。駆け込み乗車により発車が遅れ、それを取り戻すために、少し高めの速度──通常72㎞/hのところ、80㎞/hで電車を運転したとします。

  • 72㎞/h → 6000万ジュール → 16.7kWh
  • 80㎞/h → 7400万ジュール → 20.5kWh

4kWhほど余分に電気を使うハメになりました。これは、500Wの電子レンジを8時間連続で動かすのに相当します。家庭目線だと、ありえないムダ使いです。駆け込み乗車でちょっと発車を遅らせるだけで、こうなります。

とまあ、いろいろ数字を出して難しく書きましたが、細かい話はどうでもいいです。知ってほしいのは、「電車はバカみたいに電気を喰う」という一点だけです。

あれだけ大きな物体を動かしていますから、電気を喰うのは当然。そこから少し想像を働かせて、「駆け込みをしたら遅れる → 回復運転で余計な電気を使う」との考えに至ってほしいですね。

こまめに電灯を消すとか、エアコンの設定温度を少し上げるとか、そういう節電も必要でしょう。しかし、頑張って細かい節電をしても、駆け込み乗車一発で全部帳消しになることは知っておいてください。

「駆け込み乗車はおやめください」に効果を持たせるには?

あとは余談。読み疲れていない人だけどうぞ。

「駆け込み乗車はおやめください」とは定番のセリフですが、大多数の人にとっては、もはや右から左でしょう。この言葉に実効性を持たせるには、どうすればいいか?

日本人は、周りに迷惑をかけることを極端に恐れる民族です。そこに着目すると、「駆け込み乗車は危険なのでおやめください」よりも、「駆け込み乗車は発車が遅れ、他のお客様への迷惑になります」といったアプローチの方が有効だと思います。

「駆け込み乗車は危険です」だと、「自分が危険な目に遭うだけで、他人を巻き込んでないから別にいーじゃん」という理屈になり、効果が薄そうですね。

なお、「駆け込み乗車は発車が遅れてうんぬん」のアナウンスは実際に存在するので、聞いたことのある人も少なくないでしょう。

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一部廃止の留萌本線 深川~石狩沼田間の「閉そく方式」はどうなる?

JR北海道の留萌本線は一部を廃止し、バス転換する方向で調整が進んでいるとのこと。深川~石狩沼田間を残し、石狩沼田~留萌間は2023年にも廃止になる可能性。(2022年7月のニュース)

経営効率が著しく悪く、列車本数も少ない路線です。これは他に手がなく、どうしようもなかったのでしょう。……ていうか、一部廃線によって留萌駅は消滅しますが、路線名は留萌本線のままなのだろうか?

「一本の列車が行って戻って来るだけの路線」になる

最初にお断りしておきますが、今回の記事は難しい(専門性が高い)です。ある程度鉄道知識がある人じゃないと理解できないかも……。みなさんの貴重な時間を奪うのは本意ではないので、わからなくなったら遠慮なく離脱してください。

今回のテーマは信号システムの変更です。留萌本線の一部廃線に伴い、これまで使用していた「列車同士の衝突を防ぐシステム」──専門用語では閉そく方式──を見直す必要があります。

現在、留萌本線では、特殊自動閉そく式というシステムで衝突事故を防いでいます。まずは配線図をご覧ください。

途中の峠下駅に行き違い設備が設けられている

一部廃止後の形は↓のようになります。

途中で行き違いできなくなりました。深川から出た列車が、終点・石狩沼田でUターンして戻ってくるという運行形態に。

この路線だと、続行列車を運転することはできませんね。フタをされて先行列車が閉じ込められてしまうので。

続行列車を入れるとこうなる

つまり、深川~石狩沼田間に入れる(運転できる)列車は一本だけです。途中で行き違いがなく、一本の列車が行って戻って来るだけの路線になると。

「スタフ閉そく式」が有力そうだが「特殊自動閉そく式」を継続?

鉄道には「列車同士の衝突を防ぐ仕組み」が不可欠ですが、一本の列車が行って戻って来るだけの路線では、スタフ閉そく式という仕組みが有力です。超閑散路線向きの方式で、コストがかからないのが長所。

ですので、一部廃線に伴って、現行の特殊自動閉そく式から、スタフ閉そく式に変更するのが常識的な感覚です。スタフ閉そく式に必要な道具は、「スタフ」と呼ばれる通行証一枚だけなので、超安上がり。

ところが、JR北海道の説明によると、「石狩沼田駅で折り返し可能にするためには初期費用4,000万円が必要」とのこと。

これは鉄道マンとして断言してよいですが、単にスタフを導入するだけなら、4,000万円は絶っっっ対にかかりません。ただし、JR北海道が、鉄道素人の自治体を騙してやろうとウソを言っているのではなくて(笑) 実際に数千万円かかるのでしょう。

というのも、おそらくJR北海道は、深川~石狩沼田間をスタフ閉そく式に改めるのではなく、石狩沼田駅に信号設備(軌道回路)を新設して、特殊自動閉そく式を継続するつもりではないでしょうか。

単線で怖いのは正面衝突 事故を防ぐ仕組みとは?

繰り返しますが、留萌本線では現在、特殊自動閉そく式という保安システムを用いています。これは単線用のシステムですが、要点だけ拾って説明します。

単線で怖いのが正面衝突です。ですから単線区間では、正面衝突を防ぐために信号設備を工夫しています。どういうことかと言うと、↓図を見てください。

A駅・B駅双方が、相手駅に向かって列車を出そうとしています。これでは正面衝突になってしまうのでアウト。というわけで、安全な形は↓のようになります。

A駅から出発させるなら、B駅は受け入れないといけない。逆にB駅から出発させるなら、A駅は受け入れないといけない。まあ当たり前の話ですね。

信号設備も、こういう考え方を採り入れています。具体的には、A駅・B駅それぞれに方向設定スイッチが存在します。これらを「A発→B着」または「A着←B発」の組み合わせにしないと、信号が青になりません。誤って「A発・B発」の設定にしても、信号は赤のままです。

言い換えると、A駅・B駅の信号設備は繋がって(連動して)います。それによって正面衝突を防いでいるのです。

峠下駅廃止に伴い石狩沼田駅に信号設備を新設?

で、話を留萌本線に戻すと……

いま説明したように、隣り合う深川・峠下両駅は、信号設備が繋がっています。「深川発→峠下着」と方向設定することで、深川駅の信号機は青になり、列車を出発させられるのです。

ここで言う「隣り合う」とは、「交換可能駅として隣り合う」という意味

ところが、一部廃止後の形を再度ご覧ください。

深川駅の“相棒”だった峠下駅が消えました。深川駅から列車を出したかったら、峠下駅の方向設定スイッチは「着」という条件が必須でしたが、峠下駅は消滅したので条件が取れません。

ようするに、深川駅から留萌本線に列車を出発させる際、信号を青に変えられないわけ。

というわけで、新たな終着駅となる石狩沼田駅に信号設備を新設 + 深川駅の信号設備も改修し、「深川・石狩沼田」でやり取りできるようにする。つまり、特殊自動閉そく式を継続し、スタフ閉そく式は採用しない。そのための費用が、JR北海道の言う4,000万円なのかもしれません。

石狩沼田駅に信号設備を作らなくてもよさそうだが……

ここから超高度な話。ついて来られる人だけどうぞ。当ブログの約410記事の中でも、文句なしに最高の難易度です。

実は私、最初は次のように考えていました。

石狩沼田~留萌の廃止時には、深川駅の信号設備(連動装置)を改修し、単独条件で(=隣接駅の方向設定うんぬん関係なしに)留萌本線の出発信号機に青信号を現示できるようにすればよいのでは? そうしておいて、石狩沼田駅には信号設備を新設せず、深川~石狩沼田間はスタフ閉そく式に移行する。

↑のようにしないのは、あくまで推測ですが、次のような理由かもしれません。

今回の石狩沼田~留萌間に続いて、数年後には深川~石狩沼田間も廃線になる(全線廃止の)見込みです。つまり、深川駅から留萌本線へ列車を出すことは金輪際なくなります。

そうなると、深川駅構内の留萌本線関係の信号機や、留萌本線方面へ進入するポイントは、「機能を殺す」必要があります。機能が残ったままだと、函館本線への進路を取ろうとしたら(廃)留萌本線側へ引いちゃった、みたいなミスによって列車が誤進入し、事故になる可能性があるからです。

「機能を殺す」とは、ようは改修ですが、それだと二度目の改修になります。信号設備の改修はめちゃくちゃカネがかかるので、短期間で二度も行うのはJR北海道にとって不利。

その点、石狩沼田駅に信号設備を新設する方法では、何が違うか? 廃線後は石狩沼田駅の設備を撤去すれば、方向設定スイッチによる「深川発→石狩沼田着」という条件が不可能になるので、深川駅から留萌本線へ進路を引くことは物理的に不可能になる。

ようするに、深川駅自身の設備を改修せずとも、留萌本線関係の機能を「実質的に殺す」ことが可能なので安全、かつ改修する必要がない = 余計なカネがかからない、という理屈です。

難しいですが、改修が一度で済むか、二度も必要になるかの違いです。

あくまで私なりの推測です。信号設備に詳しい方がいらっしゃいましたら、ご教示願います。

追記 元駅員のはてなブロガー・エストッペルさんからコメントをいただきました。鉄道に詳しい自信がある人は、下のコメント欄もご覧になると面白いですよ(^^)

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スーパーはくとが姫路折返しになったら「大阪ひだ」にも影響する?

京都~鳥取・倉吉を結ぶ特急スーパーはくと。これを京都始発ではなく、姫路始発にすることで増発を行う案が、自民党鳥取県連政調会から出されました(2022年6月のニュース)。

鳥取方面から姫路駅に到着するスーパーはくと。ここで折り返すという構想

この件については、当ブログでも以前に記事を書きました。「増発は可能か?」という切り口でしたが、今回は別の視点から記事を書きます。

京都・大阪エリアでは「気動車」は超マイノリティ

スーパーはくとは京都を始点として西へ向かっていきますが、この京都・大阪エリアでは、他にも大量の列車が走っています。

JR西日本を代表する新快速。ノーマル快速 & 普通列車もある。特急列車だと、サンダーバードやはるか……。

これらはいずれも「電車」です。屋根のパンタグラフで架線から集電し、電気の力でモーターを回して走ります。外部電源がないと走れないのですね。

これに対して、スーパーはくとは「気動車」です。自らが搭載したディーゼルエンジンの力で走ります。鳥取方面に向かう途中で、非電化路線──架線がない線路に入るため、電車では運行が不可能であり、気動車を使用しています。

京都線を爆走する気動車特急

何が言いたいかというと、京都・大阪エリアでは「電車」が圧倒的大多数で、「気動車」は超マイノリティだということです。本数の比率が100:1という感じですね。

スーパーはくとのために気動車運転士を用意する必要がある

こういう状況だと、面倒くさいことが一つあります。運転士の免許です。

みなさんご存じだと思いますが、鉄道車両を運転するには免許が必要です。そして、免許は車種によって違います。これはクルマと同じで、たとえば普通乗用車とトラックでは免許の種類が違いますよね。

同様に「電車」と「気動車」では免許が異なります。つまり、新快速(電車)の運転士が、スーパーはくと(気動車)を運転することはできません。

別の言い方をすると、スーパーはくと(一日7往復・現在はコロナ禍により6往復)のために、京都エリアに気動車免許持ちの運転士をわざわざ配備しないといけないわけ。

これはやはり、運用面や管理面で非効率的でしょう。飲食店に例えると、あまり品数が出ない料理に対して、専属の料理人を雇っているようなものです。

そうした観点からすれば、冒頭で触れた「スーパーはくと姫路折返し」は、なかなか良い案です。スーパーはくとが京都まで来なくなれば、少ない本数のために、わざわざ気動車運転士を配備しなくていいからです。

大阪ひだ スーパーはくと以外にも気動車特急がある

ところが、話はそう都合よくいかなくて……。実は京都~大阪間には、他にも気動車特急が走っています。大阪ひだです。

琵琶湖線を爆走する大阪ひだ

鉄道好きの方なら、スーパーはくとだけではなく大阪ひだもご存じでしょうが、簡単に説明しておきます。

ひだはJR東海の特急列車で、名古屋~高山・富山を結んでいます。ようは名古屋をホームグラウンドとする列車ですが、一日1往復だけ大阪発着があります。これが通称大阪ひだです。まとめると、↓図のようになります。

仮に「スーパーはくと姫路折返し案」が通って、スーパーはくとが京都・大阪から姿を消したとしましょう。しかし、大阪ひだが残っている以上、気動車運転士を配備し続ける必要があります。

スーパーはくとを消すと大阪ひだの存続に影響するかも

スーパーはくと・大阪ひだの列車運行図表(2022年7月現在ver)を描くと、以下のようになります。

実際は車両基地への回送や、気動車使用の「びわこエクスプレス2号」があるが省略

気動車はマイノリティとはいえ、現在はこれだけ本数があるので、わざわざ気動車運転士を配備する意味もあるでしょう。しかし、仮にスーパーはくとが消えると……

気動車列車がほぼなくなる

たったこれだけのために、わざわざ気動車免許持ちの運転士を京都エリアに配備するのは、さすがに効率が悪すぎです。JR西日本の立場からすれば、大阪ひだを維持するのはシンドイ、廃止したいなぁ……と思っても不思議ではないですね。電車と気動車を混在させる大変さがよくわかります。

JR西日本が「スーパーはくと姫路折返し案」をどう考えているかは不明ですが、もし実現した場合、セットで大阪ひだにも影響するかもしれません。もっとも、スーパーはくとの姫路折返し、少なくとも数年以内の実現は「ない」でしょうが。

特急しらさぎの再編時に動きがあるかも

あとは難しい話なので、鉄道好きの方だけどうぞ。

大阪ひだに影響を与える可能性があるのは、スーパーはくとだけではなく、特急しらさぎもです。しらさぎは、名古屋・米原~金沢を結ぶ列車。北陸新幹線が敦賀まで延伸した際は、しらさぎの運行体系変更が決まっています。

で、ひだとしらさぎの間にどのような関係があるかというと……

  • ひだの車両はJR東海所有 → JR西日本区間にも乗り入れる
  • しらさぎの車両はJR西日本所有 → JR東海区間にも乗り入れる

ようはお互いに車両を貸し合っているわけ。部外者の推測ですが、ひだとしらさぎで「車両使用料の相殺」をしているのではないでしょうか。よって、しらさぎの再編時に、ひだにも影響があるかもしれません。たとえば、しらさぎの本数が減った場合、その相殺のために「京都ひだ」に短縮されるとか……。

(2022/7/12)

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エアコンの効いた指令室に一日中籠っている私

真夏の昼間に自転車をこいで汗ベッタベタになりながら、遠くのスーパーまで買い物に行くという暴挙を働く男──

はい、私です

クルマ? ないよ? 妻が仕事へ行くのに使ってるから。ウチは一家に一台だから。

真夏の昼間に外へ出る。かなり危険な印象があります。が、子どものときはスポーツ少年でしたし、大人になっても真夏の外出は普通にやっているので、わりと身体が慣れています。歳を喰って身体機能が衰えると、熱中症リスクが高まるので、過信は禁物ですが。

独身のときは、高校野球の地方大会を一日フルで観戦するのが夏の楽しみでした。汗ダラダラのベッタベタになりながら、よくやっていたと思います。

「汗をかく機能」を使わないと大変なことになるのでは

について、少し考えてみましょう。

そもそもなぜ人間が汗をかくかというと、体温調節のためです。汗が蒸発するときに身体の熱を一緒に持っていく(=気化熱)ので、体温が下がります。暑いときに汗をかくのは、身体が体温を下げようとしているわけ。

とにかく、我々の身体には「汗をかく機能」が備わっています。

何を当たり前のことをと思うかもしれませんが、当たり前ついでにもう一つ。「身体に備わっている機能は使わないと衰える」。わかりやすいのが筋肉ですね。ずーっと運動しなければ筋肉は衰えます。

興味深い話を一つ。

日本では高齢者の免許返納が強く推奨されますが、免許を返納した高齢者は、返納しなかった人より、数年後に要介護になる確率が約2倍になると読んだことがあります。車の運転という作業は、身体のあらゆる機能を総合的に使いますから、そういう機会が無くなると、衰えが早くなってしまうのかも……。

私は医学の専門家ではありませんが、これも「使わない機能は衰える」の一種ではないかと素人なりに考えています。

話が逸れましたが、「使わない機能は衰える」ならば、「汗をかく機能」も使わなければ衰えてしまいます。真夏は熱中症リスクがあるからと、エアコンの効いた屋内ばかりにいると、「汗をかく機能」が使われずにドンドン衰えていく。それは体温調節がうまくできなくなるのとイコールで、結果的に熱中症に弱い身体になるのでは……というのが私の心配です。

真夏の屋外で働く人がいないと世の中は回らない

自分は今後一生、真夏はエアコンの効いた屋内だけで過ごすから、「汗をかく機能」は衰えても大丈夫! と考える人がいるかもしれません。が、実際そうもいかないでしょう。

というのも、専門家などは「真夏の昼間は屋外での活動を控えよう」と簡単に言ってくれますが、経済活動を回すために、真夏の昼間でも屋外作業をしなければならない職種はたくさんあります。道路工事やビル建設の現場、郵便配達、引っ越しなどなど……。

本当に真夏の屋外活動を控えたら、世の中いろいろ困ることが出てくるはずです。

ちなみに2022(令和4)年7月8日、西武池袋線で架線が損傷するトラブルがありました。発生が朝ラッシュ時間帯、運転再開したのが15時近くですから、作業員は暑い中を復旧作業にあたったはずです。「いまアチーので復旧作業は夜になってから」なんて言ったら「ふざけんな!」ですから、猛暑だろうが酷暑だろうが、やらなければいけません。

真夏の鉄道マンの仕事風景

こうした緊急時に限らず、鉄道でも、真夏に屋外作業をしている係員は少なくありません。線路巡回をしている保線係員や、駅ホームで安全監視のために立っている駅員などは、みなさんも目にしたことがあるでしょう。

あ、ちなみに最近流行りの(?)ファン付き作業服、保線の同僚に聞いたところ、アレは慰め程度らしいです。

乗務員はエアコンの効いた涼しい運転台だけで仕事をしていると思われがちですが、それは間違いで、外へ出るシーンもちゃんとあります。
(→詳しくはこちら 『運転士の熱中症はなぜ起こる? どう防ぐ?』

私の現職は指令ですが、これはさすがに外へ出て仕事をすることはありません。指令室に詰めるのが仕事だからです。一日中、エアコンの効いた室内に籠りっぱなし。機器に支障が出ないよう、エアコンの設定温度も低めですし。

そういう環境なので、エアコンの冷気ばかり浴びて、熱中症に弱い身体になりそうだなぁと思いながら仕事しています。だから休日の私は、ある程度「汗をかく機能」を使わなければと思い、真夏の昼間でも、無理のない範囲で外に出るよう努めているわけです。

熱中症は非常に危険──ある種の多臓器不全だそうですから、もちろん避けなければいけません。ただ、あまりエアコンばかりに頼るのも、どうかと思います。身体はさまざまなスゴイ機能を備えていますから、それらをちゃんと知り、維持・メンテしていきたいものです。

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