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『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』のファイナルライブツアーに参戦!

妻「ねぇ、月の味噌汁ってなに?」

( ゜Д゚)ハァ?
何言ってんの?

妻「さっき歌の中でさぁ、月の味噌汁~♪とか言ってたじゃん」

妻よ、それは「月の味噌汁」ではなく「月のみぞ知る」だ

何の話かというと、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』のファイナルライブツアーに行ってきました。その参加レポです。今回の記事は鉄道ネタではありませんので、ご注意ください。

一家揃ってドンブラこ~ドンブラこ~

日曜朝のスーパー戦隊シリーズ『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』は、2023年2月に最終回を迎えました。子ども向け番組と侮るなかれ。大人が観ても普通におもしろい。下手なドラマなんかよりもよっぽど楽しめる。

最初は私だけが観ていましたが、途中から妻と娘も視聴に加わり、日曜日に私の仕事が休みのときは一家揃って朝ドンブラ。娘がどこまでストーリーを理解していたかは怪しいですが。

妻「結局みほちゃんの正体って何?」
妻「ムラサメって何?」
妻「獣人って何なの?」

妻もよく理解していないらしい。

そんなこんなで、我が家はドンブラ要素に侵食されていきます。ドンブラスター(=ドンブラザーズが使う銃)のおもちゃ・ハンカチ・タオル・ジグソーパズルなどを買ってしまいました。

妻「私さぁ、最近仕事中に脳内でドンブラの曲が流れてくるんだけど」

もはや重症。

娘「いぬづかさんに、てがみかいた」

戦隊メンバーの一人・犬塚さん推しの娘は、ファンレター書いて東映に送ってました。

全国各地で行われるファイナルライブツアー チケット入手に成功

私は知らなかったのですが、スーパー戦隊シリーズは、放送終了後の4~5月に、ファイナルライブツアーと銘打って全国各地で公演を行うのが慣例なのだそうです。このたび、そのツアーに妻が申し込んだところ、チケットが取れてしまった次第です。

私「今度ドンブラザーズに会いに行くよ」
娘「ドンブラザーズに? ももいたろうと、イヌブラザーと、キジブラザーと、オニシスターと、ドンモモタロウ?」

おい、サルブラザー忘れてんぞ。ていうか、桃井タロウ = ドンモモタロウだから。

娘「あっ……ヘヘヘ」

笑って誤魔化しやがった。ここで一句。

サルブラザー
嗚呼サルブラザー
サルブラザー

さて、全国7都市で開かれるドンブラザーズ・ファイナルツアー。

  • 札幌
  • 仙台
  • 静岡
  • 名古屋
  • 大阪
  • 山口
  • 福岡

なんと首都圏での公演は無し(←なぜ? なぜなぜ? なぜェーーー!? 鬼頭はるか風)。スーパー戦隊シリーズのファイナルツアーは、そういう慣例なのでしょうか? まあ首都圏の人は、仙台か静岡か名古屋に行けばOKですね。新幹線なら2時間以内だし。

第一部は劇 桃井タロウを裁く「じごくさいばん」

私はちゃんと有給休暇を取得。当日、道中でのトラブルもなく、一家揃って無事会場に到着。もちろんドンブラスター(銃)持参です。

客層に少し驚きました。スーパー戦隊シリーズだから、ウチのような親子連ればかりかと思いきや、まったくそんなことはない。親子連れではなく、単独、または友達同士で連れ合って来ている(と思われる)人の多いこと多いこと。下手したら、大人4:子ども1くらいの割合ではなかったかと……。

年齢層も、中高生~若者~中年まで幅広い。私の隣の席はオバサンでしたが、明らかに「1人で来ました!」という感じでしたね。

そして、なんやかんやで開演。

なま桃井タロウキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
なま鬼頭はるかチャンキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

第一部は、ショー(劇)でした。内容は、主人公レッドの桃井タロウが、閻魔大王様によって裁判にかけられ、有罪だったら地獄行きになる……というもの。名付けて「じごくさいばん」。論告求刑ロンコクキューケーとか証人喚問ショーニンカンモンとか、子どもが聞いても理解できないと思うぞ(笑)

なお、主人公の桃井タロウは、「傲岸不遜・無神経な振る舞いによって、多くの人の心身を傷つけたこと」が罪に問われていました。確かに桃井タロウ、無神経というか言動が正直すぎたからなぁ。それによってショックを受けた相手が怪人化 = 敵になる。つまり、自ら敵を生み出している主人公なわけで。マッチポンプ的な。

言われてみれば、確かにヤバい主人公だ(笑)

で、罪に問われた桃井タロウを、仲間たちが弁護する。それによって、桃井タロウの人柄や過去の行い、つまりストーリーの振り返りも行える構成です。

なお途中で、「私は生まれてから一度も働いたことがない」サルブラザーこと猿原真一が、日本国憲法に定められた国民の三大義務の一つ・勤労の義務を果たしていない罪に問われておりました……。

変身して戦うシーンもありました。舞台の暗さや照明を活用し、スーツアクターと入れ替わるところが全然見えなかったです。

この戦いのシーンで私の目を引いたのが、イヌブラザー

というのは、犬塚翼が変身するイヌブラザーの身長は100㎝、つまり変身すると身長が縮みます。番組内ではCGを使っていましたが、舞台ではCGなんて使えません。そこで、スーツアクターが100㎝のイヌブラザーをどう演じていたかというと……

足を投げ出して座ったり、四足歩行で移動したり(笑) 舞台上で身長100㎝を演出するのに苦労していたのが印象的。

そんなこんなで第一部が終了し、小休憩。続く第二部の予告の際、オニシスター・鬼頭はるかを演じる志田こはくさんによる生「じか~い次回」が聞けたのは感動したッ!

第二部は歌やトークショー

第二部は、出演者による歌やトークショー。オープニングの曲 + 役者さんたちによるドンブラダンスで開幕。やはり生はテレビで観るのとは違う。圧巻という感じでしたね。

その他にも何曲か歌唱があり、冒頭で書いた「月の味噌汁」が歌われたのもココです。

トークショーはMCが場を仕切って進めていたので、そこまでたくさん役者さんたちの喋りを聞けたわけではないのが少し残念。撮影時のトラブルや裏話なども聞け、トークの中身自体は濃かったと思いますが。個人的には、「キャラクター」と「中の人」を比べて性格や人柄の違いがどれだけあるか? に注目していたので、もっと役者さんたちに喋ってほしかったです。

判断材料が少ないですが、私の勝手な印象を述べさせてもらうと……

ドンモモタロウ・桃井タロウを演じる樋口幸平さんは、気さくで真面目な好青年という感じでした。作中の桃井タロウとは全然違う。まあ当然の話で、桃井タロウという傲岸不遜・自信過剰なキャラが、中の人と似ていたら嫌すぎる(笑)

キジブラザー・雉野つよしを演じる鈴木浩文さんは、テンション高かったです。生「みほちゃああぁぁぁん!!」が聞けたのは感動したッ! 雉野つよしは、劇中では自分に自信が持てない人物として描かれていましたが、中の人は真逆で、自分の仕事に自信がありそうな雰囲気でした。

サルブラザー・猿原真一を演じる別府由来さんは、控え目で物静かな印象を受けました。キャラと中の人が一番違うのは、この人かなぁ~という気が。

イヌブラザー・犬塚翼役の柊太朗さんと、オニシスター・鬼頭はるか役の志田こはくさんは……よくわからなかった(^^;) まあ、劇中での犬塚翼と鬼頭はるかは、わりと常識的な感覚の持ち主でしたから、キャラと中の人が、そうかけ離れているとも思えないです。

祭りは終わった──関係者のみなさん、お疲れ様でした

楽しい時間はあっという間に過ぎ、閉幕。番組も放映終了、ライブも終了。これで本当に終わったんですな。

土曜日に泊まり勤務で会社に行き、日曜日に仕事を終えて「今日のドンブラ何かいな~」と家路を急いだあの日は、もう帰ってこない……(´・ω・) だが、始まりがあれば必ず終わりがある。それを受け入れるのが、人生というものである。

この1年間、ドンブラを本当に楽しませていただきました。番組制作にかかわった関係者のみなさん、ありがとうございました。お疲れ様でした。

最後に、会場の物販に寄って微力ながら売上に貢献。ライブ開始前には長蛇の列ができていましたが、終了後はスカスカ。まったく並ばずに買えました。まあ、残っているグッズもスカスカなわけですが……。

購入したTシャツをアップして記事を〆ましょう。さすがに外で着るのはちょっとアレなので、寝るときに使わせていただきます。

DONFLT→DONはドンブラザーズ、F=final、L=live、T=tour

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手歯止め・ハンドスコッチとは? 鉄道に残された極めてアナログな部分

2023(令和5)年2月、九州新幹線で、手歯止めを装着したままの列車が発車する事件が発生。発車時の異音に車掌が気づき、列車を緊急停止させた。脱線などには至らなかった。

手歯止めとは、車輪に噛ませるストッパーです。車両を無人状態で長時間置いておくとき──夜間等に駅や基地で車両を留置する際は、車輪(どこか一箇所)に手歯止めを噛ませます。

実物

この手歯止めですが、呼び方がいろいろあります。ハンドスコッチと呼称する会社も多いです。

さらに略称もさまざまで、ハンドスコッチを略してハンスコ。手歯止めを略して歯止め。また、車輪を止めるために噛ませることから、輪止め(わどめ)と呼ぶ人もいます。この記事では、手歯止めという呼称で通します。

ブレーキの空気が抜けても車両が動かないようにするのが目的

なぜ、車両を置いておく際には手歯止めを使用するのか?

鉄道車両のブレーキには圧縮空気を使っていますが、何らかの原因で空気が漏れてブレーキが緩んでも、車輪に手歯止め(ストッパー)を噛ませておけば、車両が動いてしまうことを防げるわけです。

クルマで言うところのサイドブレーキみたいなものですね。

実際、あるんですよ。手歯止めを噛まし忘れたために、車両が勝手に動き出してどこかに行ってしまった事件が。

2006(平成18)年、JR東海の家城駅で、手歯止めを着け忘れたまま駅に夜間留置された車両が、下り勾配によって動き出す事件が発生。当該車両は無人状態で、駅から8.5㎞離れたところまで走行した。

この事件は「着け忘れ」ですが、取扱いを一つ間違えると、このような事態を招きかねません。

手歯止めを外し忘れて脱線した事例は過去に何件もある

着け忘れも怖いですが、実際よく問題になるのは「外し忘れ」の方です。

この手歯止め、車輪に噛ませるものですから、外し忘れたまま発車するとヤバい。具体的には、車輪が手歯止めに乗り上げて脱線するのですね。

外し忘れると、こうなりかねない

事実、過去には「手歯止めを外し忘れたまま走り出して脱線」がいくつも発生しています。運が良ければ、手歯止めに乗り上げた際、車両の重さで手歯止めが潰れて(割れて)セーフで済むんですが……。冒頭で挙げた九州新幹線の事件のように。

最近では、2022(令和4)年9月に脱線事故がありました。

JR西日本の車両基地で、最後尾の車両に着けられていた手歯止めを外し忘れたまま発車する事件が発生。当該車両は脱線したが、運転士は気付かず走行を続け、しばらく走行してから復線したらしい。

鉄道トラブルの調査を行うのは運輸安全委員会という組織ですが、そこのホームページでは、他にも「手歯止めを外し忘れて脱線」の事例を見つけることができます。

2017(平成29)年、JR西日本の豪渓駅で、線路火災を発見した列車が停車。手歯止めを着けてから現場に向かい、火災を処置。運転再開する際に手歯止めを外し忘れて脱線。
2008(平成20)年、名古屋臨海高速鉄道あおなみ線の名古屋駅で、手歯止めを外し忘れたまま発車した列車が脱線。取り外したと運転士が勘違いした模様。

手歯止めの着脱は完全に人間の注意力頼み

この手歯止めの着脱作業ですが、これは完全に人間の注意力頼みです。失念してもシステム的なバックアップがない、という意味です。

たとえば、列車の運転中に間違って赤信号に突っ込んだ場合は、ATSという装置が作動して列車を自動的に止めてくれる──システムがバックアップしてくれますが、手歯止めの着脱にはそれがありません。担当係員が着脱を忘れたら、それまで。

安全対策のシステム化が進む鉄道ですが、その中に残された、極めてアナログな部分ということができます。

手歯止めを外したら、車両床下の手歯止め収納場所へ。もちろん手作業

なお、車輪に手歯止めを噛ませた際には、「いま手歯止めを着けていること」を示すために使用中札というものを運転台等に出します。使用中札が出ている = 車輪に手歯止めが着いている → 発車前に外すのを忘れるなよ、という失念防止のための札です。

まあ、この使用中札も、アナログな対策でしかないですけどね。使用中札と手歯止めの間には、システム的な連動は何もありません。

手歯止めを着けたのに使用中札を出さない。逆に、使用中札が出ているのに手歯止めは噛まされていない。そういうことも普通に可能です。

車両自体にパーキングブレーキを装備する方法もあるが……

こんなことを書くと、手歯止めには良いところがない印象を受ける人もいるでしょう。着脱忘れ一つで事故に直結する怖い要素なのに、システムのバックアップがない。作業は人間の注意力頼み。

手歯止めというものを使用せず、自動車みたいにパーキングブレーキ(サイドブレーキ)を車両に装備する。運転台でパーキングブレーキの入・切を操作できる仕組みにしないのか。そうすれば、手歯止めを外し忘れて乗り上げる脱線事故も起きないのでは。

そのように考える人もいるでしょう。実際、パーキングブレーキを装備し、手歯止めを省略できる車両もあります。ただ、少なくとも現代の日本の鉄道においては、主流の考え方とは言い難い。

なぜか? これは私もハッキリとした理由はわからず、あくまで推測なのですが……

車両にパーキングブレーキを装備しようと思ったら、その機構を台車に組み込む必要があります。

台車

台車は、重い鉄道車両の走行を支える土台ですから、非常に高い強度が求められます。

高い強度を実現するために必要な要素の一つは、「シンプルであること」です。設計がシンプルなほど、高い強度を実現させやすい。台車にパーキングブレーキを組み込むと、それだけ作りが複雑になるので、強度が落ちやすくなります。

ようするに、「台車にパーキングブレーキを組み込む」と「台車の強度を保つためのシンプル化」は相反する要求ということ。そのへんをトータルで考え、パーキングブレーキではなく手歯止めで対応する車両が多いのだと推測します。

もっとも、これは技術の進歩によって解消できる話なので、将来的にはパーキングブレーキを装備した鉄道車両が主流になり、手歯止めというものは消えていくかもしれません。

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川越線での正面衝突未遂(?) TwitterやYouTube上での考察には疑問がある

2023(令和5)年3月2日、川越線・指扇駅~南古谷駅の単線区間で、上下列車が接近する事象が発生。両駅の信号が青になったため、単線区間に上下列車が同時進入した。片方の列車が元の駅までバックした。

単線区間に上下列車が同時進入し、「お見合い状態」になってしまったわけですね。解決するには、基本的にはどちらかが下がるしかありません。

上下列車のお見合い状態

単線の信号システムは上下列車の同時進入を許していない

単線区間で上下列車がお見合い。一歩間違えれば、正面衝突していた可能性も。

単線で一番怖いのは正面衝突ですが、それを防ぐために、信号システムは「上下列車どちらかしか当該区間に進入できない」という仕様になっています。具体的には、下り列車が単線区間に入るときは、上り列車側の信号はすべて赤になります。上下逆の場合も同様。

(単線の信号システムは、こちらの記事で詳しく解説しています)

それなのに、なぜ今回のような事象──指扇・南古谷両駅の信号が青になり、単線区間に上下列車が同時進入してしまった──が起きたのか?

まず、当該区間の配線図から確認しましょう。川越線の指扇~南古谷間は、↓のようになっています。

単純な単線ではなく、途中に車両基地(川越車両センター)へ入るルートがあるのが特徴です。今回はどうやら、↓の形でお見合いになってしまった模様。

お見合いの原因は? TwitterやYouTube上での解説

今回の正面衝突未遂(と呼んでいいかは微妙ですが)、TwitterやYouTube上で、原因の考察が行われています。たとえば、本職の運転士の方も考察もあります。

【JR川越線】*単線区間で正面衝突寸前だった?*何があったのか考察* - YouTube

それらの解説によると、事件の流れは以下の通り。

① 下り列車が指扇駅を発車。このとき、川越車両センターへ入る方へ信号が引かれていた。

② しかしこの列車、実は南古谷に行きたかった。つまり、川越車両センターに入る方へ信号が引かれていたのは誤り(指令のミス?)。そこで、下り列車の信号を南古谷側へ引き直そうとしたが……

このようにルート修正しようとしたが

③ 下り列車が川越車両センターに入ることを見越し、すでに上り列車が南古谷を発車していた。そのため、下り列車が南古谷へ入るルートは塞がれ、お見合い状態になってしまった。

上り列車が邪魔なので、下り列車の南古谷駅進入ルートが取れない

TwitterやYouTubeでは、「今回の原因はコレで決まり!」みたいな雰囲気になっています。

「指扇発」かつ「南古谷発」が可能な仕様になっていたとは考えにくい

ただ、個人的には疑問を感じます。ようするに、

下り列車が川越車両センターに入るのであれば、同時に上り列車が南古谷駅を発車することが可能

という仕様を前提として話が進められていますが、私に言わせると、こういう仕様は危険なんですよ。その前提は本当に正しいのか? という疑問が拭えなくて……。

早い話、車両センターへの分岐地点では行き違いできないのに、そこに向かって上下列車を同時に出せるという仕様が、私の感覚だと「???」なんですね。

南古谷に行かせたい下り列車に対して、川越車両センターに入る誤ルートを引いてしまう「信号操作ミス」が起きることは、可能性として普通に想定できます。そういうミスが起きたときのために、「下り列車のルートを南古谷方面へ修正する余地」を残しておいた方がいい。

しかし、南古谷駅から上り列車が発車できる仕様になっていると、その上り列車に進路を塞がれ、「下り列車のルートを南古谷方面へ修正する余地」がなくなってしまいます。

下り列車が川越車両センターに入るのであれば、同時に上り列車が南古谷駅を発車することが可能──。こういう仕様なのであれば、信号操作ミス一つで今回のようなお見合いが発生する危険性が、システム内に存在していた(許容されていた)ことになります。信号システムの作りが、そんな風になってる? というのが私の疑問です。

信号システムの論理を組むときに、そういうリスクは排除して作ると思いますが……。両駅からの同時出発は成立しない仕様の方が望ましいと、私は考えます。

すみません、話が難しいです(^^;) 専門的な感覚を交えて書いているので、一般の方には全然ピンとこないと思います。

原因は単なる信号システムの不具合?

私としては今回の件、信号システムに何らかの不都合が起きて、両駅から上下列車が出発できてしまった(両駅の信号が青になった)と推測します。もしそうなら、インシデントに該当する可能性もあります。

いや、TwitterやYouTubeでの解説通り、信号システムが「下り列車が川越車両センターに入るのであれば、同時に上り列車が南古谷駅を発車することが可能」な仕様になっていた可能性も、なくはないですが……。

しかし、そういう仕様だったのであれば、片方の列車をバックさせて対処する必要はない気がします。今回、上下列車が立ち往生したわけですが、まず下り列車を川越車両センターに入れてしまい──

上り列車が空いた線路を通過する。

これでいいんですよ。あとは川越車両センターに入れた列車をどうするかですが、基地内で折り返して指扇まで行く(帰る)。これで、信号システムを正当に使った形で処理ができ、安全上はまったく問題ない対応となります。

下り列車の乗客からすれば、南古谷に行けなくなるので迷惑極まりない話です。しかし、下手にバックという作業で対応して安全面でヒヤヒヤするよりは、こちらの方がいいはずです。それをやらなかったということは、「そういう仕様」にはなっていないと考える方が自然です。

(2023/3/4)

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JR西日本の立ち往生事件から 規定やマニュアルの存在目的とは?

2023(令和5)年1月24日に起きた、JR西日本での大雪による列車立ち往生については先日記事を書きましたが、

↑の記事で、いろいろコメントをいただいたこともあり、もう一本記事を書くことにします。

融雪器の使用遅れや計画運休ナシの是非

私の印象ですが、JR西日本で今回起きた立ち往生については、以下の二点を批判する声が多いようです。

まず一点目。融雪器を使い始めるタイミングが遅れたこと。

今回のトラブルは、ポイントに雪が詰まって不転換となったのが発端。こうした事態を防ぐために、ポイントには融雪器(ポイント付近を熱して雪を融かす装置)が付いています。

JR西日本の社内基準では、10㎝の積雪が予測された場合には融雪器の電源を入れるそうです。しかし、今回は8㎝の積雪予測だったため、融雪器を使っていなかったとのこと。実際は、予測を超えた雪が降ってポイント不転換が起きてしまいましたが……。

批判の二点目は、雪が予測されていたのに計画運休を実施しなかったこと。今回は、数日前から「雪ヤバそう」とけっこう騒がれていました。そんな状況で普通に運行したのはどうなん? という意見。

ただ、私個人としては、融雪器の電源投入が遅れた点、および計画運休しなかった点は批判しません。というのも、鉄道会社は気象予測の専門家ではなく、ましてや神でもありませんから、天候の急変や降雪量を100%正確に予測して対応しろというのは無理な話。ですから、そこは仕方なかったと思います。

これが船舶や航空機だったら、天候予測の誤りは致命傷になるので、仕方ないでは済みませんが……。海運業界だと、得意分野が異なる複数の気象会社から情報を仕入れたうえで航路選定し、リスクの軽減に努めているそうです。
(→こちらの記事のコメント欄を参照)

融雪器の使用開始基準を見直すだけでは再発防止にならない

先ほど書いたように、JR西日本では、融雪器の電源を入れる積雪量が社内基準で決まっていました(10㎝以上)。じゃあ今回のトラブルを受けて、基準値を引き下げれば再発防止になるかというと、そうとも言い切れません。

仮に、融雪器使用の基準を、積雪5㎝に改めたとしましょう。明日の朝、4㎝の積雪が予想されたとします。融雪器の電源は入れませんよね。そこで実際には予想を超えた15㎝の雪が降ったら……結局今回と同じ話になります。

ですので、融雪器を使う基準の数字設定は(もちろん見直しは必要ですが)私に言わせれば本質ではないということになります。

「どういう天候が予測されるときに計画運休するか?」の基準についても同様。もちろん、予測の精度を高めるのは大事ですが、あくまで予測ですから的中率100%は無理です。であれば、「予測が外れて異常事態に陥ったときにどう対応するか?」を整えておく方が本質的な問題解決策と考えます。

夜間・降雪で乗客を線路に降ろすのも現実的ではない

融雪器の使用基準や計画運休の実施判断。責めるべきはそこではなく、立ち往生が起きたあとに旅客救済が遅れたことでしょう。旅客救済は、予測うんぬんの話ではなく、純粋に「鉄道会社の能力」の話ですから。

旅客救済の手段ですが、今回は、夜間・降雪という極めて悪条件でした。下手に乗客を線路に降ろして最寄駅まで歩かせるのはマズい、とJR西日本は判断したと思われます。それは妥当でしょう。

いったん乗客を線路に降ろす決定をすると、仮にその後ポイントが復旧しても、列車を動かすことはできません。線路上に人が残っているかもしれないので、線路内すべての安全確認を実施しなければならない。乗客を線路に降ろすのは、ある意味すべてをあきらめての最終手段です。

“裏ワザ”を使えば立ち往生の本数を減らすことは可能

乗客を線路に降ろす選択肢は苦しい……となれば、ポイント不転換が直るのを待つしかないのでしょうか? いや、残された選択肢があと一つあります。

こちらの記事でも書いたように、列車を最寄駅まで後退(バック)させる方法です。

鉄道は、前に進むことを前提としてシステムが作られています。しかし、じゃあ後退はまったくできないかというと、そうではありません。ちゃんと手続きを踏み、定められた条件の下でなら、後退も許されています。

前には進めない。乗客を線路には降ろせない。となれば、あとはもう後退するしかないでしょ、という消去法ではありますが。

また、後退と併用して、一駅(同一ホーム)に2列車を収容する手段もあります。こちらはかなり“裏ワザ”ですが、立ち往生の本数を減らすのには有効な策です。

こうした方法を取れば、15本もの列車が何時間も立ち往生することはなかったはずです。

“裏ワザ”を使ったら責任問題になるのを恐れて対応が遅れた?

今回、JR西日本は、ポイント不転換を復旧して列車を前進させるという「正攻法」にこだわりすぎたのではないでしょうか。現実では、正攻法だけで対処できるとは限らないので、異常時対応のバリエーション・引き出しは数多く持つ必要があります。

後退も一駅2列車も、まともに仕事してる鉄道マンなら発想自体は難しくありません。現場係員も、こうした方法は頭に浮かんだはずです。では、なぜそうした手段が実行されなかったか?

後退と一駅2列車は、ある意味アクロバティックな“裏ワザ”なので、何かあったときに責任問題になるのを恐れたのかもしれません。もし何事もなかったとしても、「そのやり方、規定やマニュアル上は問題なかったの?」などと国交省から言われる可能性もあります。

そうなるくらいなら、規定やマニュアルから「はみ出す」ような対応はやめとこう、ポイントの復旧を待つ正攻法を選ぼう、という心理だったと推測します。

しかし、「規定やマニュアルは守ったけれど、結果的に乗客の命を危険に晒しました」では、お話にならない。そもそも、規定やマニュアルの存在目的は、安全を確保すること = 乗客の命を守ることです。規定やマニュアルを遵守した結果が乗客を危ない目に遭わせた、では本末転倒です。

ここまでキツいことを言うのもアレですが、今回の対応からは、「乗客の安全」ではなく「責任の所在」の方に目が向いていた印象を受けます。

責任といえば──JR西日本社長の記者会見でも、メディア上でも、「降雪量を見誤ったのが原因」みたいな空気になっていますが、私の感覚では、それは問題のすり替えですね。もっと言えば、「予想以上に雪が降ったから仕方なかったんだ」と天気に責任を押し付けている感がある。ようするに、責任回避です。

立ち往生が起きたあとに、旅客救済を適切に行うだけの対応能力がなかった。これが本質的な原因と考えます。

繰り返しますが、天候予測を外すのは仕方ありません。しかし、異常時対応能力が無いことは仕方ないでは済まされません。

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雪の影響で15本の列車が立ち往生したJR西日本の事象を考察

2023(令和5)年1月24日、雪により、JR西日本の京都付近でポイント不転換が発生。15本の列車が駅間停車し、多数の乗客が長時間車内に缶詰め状態となった。

大きなニュースになったので、ご存知の方も多いでしょう。9時間も車内に閉じ込められた乗客もいたそうです。9時間て……。

今回の立ち往生の原因は、雪によるポイント不転換です。これは、ポイントが雪を噛んでしまって切り替わらなくなる事象です。

鉄道は、ポイントが正方向に切り替わらないと信号が赤のままという仕様になっています。信号が赤のままだと、列車が動けない。先行列車を動かせないまま後続がどんどん詰まっていき、駅間立ち往生につながったわけです。
(→雪によるポイント不転換の詳細は、こちらの記事を参照)

噛んだ雪を除去する作業は意外と困難

ポイント不転換時は、噛んでしまった雪を取り除く処置が必要です。これは人力で行います。

ポイントの雪を除去。そんなに難しくない作業と思うかもしれませんが、「言うは易し、行うは難し」です。

ダイヤがぐちゃぐちゃになり、混乱の極みの中で、係員を手配して現場に向かわせる。現場といっても、大きな駅になるとポイントがたくさんありますから、どのポイントで雪噛みが発生しているかを把握し、正確に現場に向かうのは大変です。故障しているポイントはランプが光って知らせてくれる、みたいにはなっていないので……。

現場に到着。ポイント付近の雪がカチカチに氷結していると、「取り除く」ではなく「叩き割る」と表現した方がいいかもしれません。

噛んだ雪を除去したら、ポイントが正常に転換するかどうか、試験をします。これは現場単独で行うことはできず、指令所や駅の信号扱所と連絡を取りながらの作業です。しかし、ダイヤがぐちゃぐちゃで指令所や駅の信号扱所も大混乱。各所から電話が鳴りっぱなしなので、連絡一つ取るのも容易ではありません。

一つのポイントを処置したと思ったら、今度は他のポイントで不転換が発生。断続的に異常が発生したら、もうどこから手を着けていいかワケわからなくなるでしょう。

これら一連の作業を、吹雪いている中でやるとなったら、さらに難易度が上がります。雪に慣れていない係員ではポイントの復旧作業が進まなかったのも当然で、最終的には乗客を線路に降ろして最寄駅まで歩かせたケースもあったようです。

事前予測や計画運休は難しかったと思われる

今回は運が悪かった面もあり、強風によって架線に支障物が引っ掛かったため、元々ダイヤが乱れていたようです。そこに天候急変で雪が降ってきて、指令の処理能力を超え、にっちもさっちもいかなくなったと思われます。

ネット上では、「こんなことになるなら、さっさと計画運休しときゃよかったのに」という声もありますが、それは無理でしょう。

まず、天候が急変して雪がドバドバ降ってくるのを正確に予測するのは難しい。台風なら進路予測ができるので、事前に運休計画を立てるのは比較的容易ですが、雪でもそれをやれというのはいささか……。ゲリラ豪雨の事前予測が難しいのと似ています。
(というか、予測できないから「ゲリラ」と呼ぶわけで)

おそらくJR西日本は、雪が本格的に降るのは、もう少し後だと予想していたのでしょう。夕方~夜にかけては「舞う」だけであって、「積もる」レベルまではいかないだろうと……。むしろ、翌朝の方を勝負ポイントと見定めていたと思われます。

それに、朝方は天気は悪くなかったので、みんな普通に会社や学校に行っている。この状況で夕方から運休にしたら、帰宅難民が多数出ることは容易に予想できます。運休するにしても、せめて夕通勤は終わらせてから、と判断するのは妥当でしょう。

「本数を減らして運行するべきだった」との意見もありますが、平日の夕通勤で下手に本数を減らすと、逆に危ないです。少ない列車に乗客が殺到し、駅コンコースも密集状態になる可能性が高い。

昨年韓国で、ハロウィン時に多数の若者が密集して動けなくなり、将棋倒しで死者が出た事故がありました。列車本数をキチッと確保するのは、そうした類の事故を防ぐ意味もあります。

ですので、天候の急変によって雪噛みのポイント不転換が発生し、立ち往生が発生したこと自体は仕方ないと考えます。

駅間停車を解消する方法はいろいろある

問題はその先。立ち往生までは仕方ないにしても、長時間乗客を車内に閉じ込めてしまったのは、やはり鉄道会社側の落ち度でしょう。いや、現場の状況を直接見ていない部外者の私が「落ち度でしょう」と断言してよいかは微妙ですが。

しかし、さすがに救済完了までの時間がかかりすぎです。

JR西日本から今回の事象について発表があり、駅間停車した列車の詳細資料も出ています。

1月24日(火)の分岐器転換不能およびお客様の誘導遅れについて

駅間停車してしまった列車をどう捌くかですが、馬鹿正直にポイント不転換の復旧を待つだけでなく、やり方はいろいろあるんですよ。たとえば↓図。

JR西日本のホームページで発表された資料を一部編集

京都駅手前で立ち往生した3494M。こいつは比較的簡単に駅間停車を解消できます。後ろの西大路駅に停車している3496M。こいつをホーム半分ほど後退させます。で、空いたスペースに立ち往生した3494Mを後退させてくればOK。

条件にもよるが、こういう形を作ることも可能

このように、一駅に2列車を詰めるとか、バック(専門用語では退行運転と呼ぶ)で後方の駅まで戻るとか、方法はあります。ポイント復旧に相当の時間がかかると判明した段階で、迅速にこうした方法へ移行し、駅間停車の本数を減らさなければいけません。

そのあたりの判断や処置が、はたして適切だったのか。

もちろん、これらの取扱いは相当特殊なものなので、制約もあれば、特別な手続きも必要です(そのあたりは専門的な話になるので省略)。ただ、乗客を何時間も車内に閉じ込めてトイレ問題や体調不良を発生させたり、夜・降雪といった悪条件で線路に降ろして駅まで歩かせたりするよりは、遥かにマシだと思います。

経験と要員の不足が今回のようなトラブルを招く?

最後に、今回のトラブルが起きた背景も考えてみます。

私は列車の運行管理を行う指令員の仕事をしているので、ひとつ指令的な目線で言いますと、気象異常時の経験を積む機会が昔より減少している点は挙げられます。

原因は計画運休です。

かつては台風でも計画運休というものはなく、雨や風が運転中止の基準値に達するまでは動かしていました(私もそういう世代の出身)。雪でもそうでした。ダイヤが乱れることはあっても、事前に運休にすることは、あまりなかったと思います。そういうやり方の良し悪しは別として、現場係員は異常時の経験を積むことができました。

「異常時って言うけど、人身事故とか踏切トラブルとか普段から起きるじゃん。そういうので経験は積んでるんじゃないの?」

気象異常時の対応は、それらとは違います。一般の方には難しい話ですが。

一つ例を挙げると、A駅~B駅間が大雨で運転中止になったとします。そちらに対応しているうちに、今度はC駅~D駅間が雨で徐行になり、「C駅~D駅間を運転する乗務員に徐行を伝えなければ」となる。

このように、複数の区間で運転中止と徐行が混在したり、時間差で発生したりするのが気象異常です。ようするに、時間経過によって状況が変化し、あちこちの処理を同時並行的に求められます。それに比べると、人身事故や踏切トラブルは(基本的に)当該現場だけが問題になるのであって、並列処理・時間差・多発という話にはなりにくい。

こうした違いがあるので、気象異常時の対応には独特の難しさがあります。ですので、気象異常時の対応を適切に行えるかは、やはり経験がモノを言うのですが……計画運休が慣例化したことによって、そのへんの経験が不足気味になっているのが、近年の指令(というか鉄道会社)だと思います。

いや、ウチの会社もそうなので、他人事じゃないんですが……。

また、経験値だけではなく、要員も不足しがちなのが近年の鉄道会社です。

雪のときに最も有効なのは人海戦術です。令和の時代にマンパワーが有効とは何事かと思うかもしれませんが、数は正義です。現場の除雪も、最後は結局「人頼み」になります。

しかし近年、鉄道会社が人員削減しているのは、なんとなく想像がつくでしょう。さらに、コロナ禍による経営悪化もあり、人を増やそうという方向には持っていけません。マンパワーが必要な異常時には、どうしても弱くなりがちです。

こうした事情も、今回のようなトラブルが起きてしまう一因だと思います。肝心の解決策は……うーん。これは現場の戦術レベルではなく、会社の戦略レベルの話なので、なんとも難しい問題です。

続きの記事はこちら JR西日本の立ち往生事件から 規定やマニュアルの存在目的とは?

※コメントも多数いただきました。興味がある方は↓ご覧ください。

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京成電鉄の脱線事故は「赤信号を見落として突っ込んだ」のか?

2022(令和4)年11月17日、京成電鉄の京成高砂駅で脱線事故が発生しました。

① 駅ホームから車庫に転線する際、本来と異なる線路に進入した。
② 誤りに気付いた運転士は車両をバックさせたが、その過程でポイントを破損し脱線を引き起こした。

運転士は誤りに気付いたあと、関係各所と打ち合わせることなく、勝手にバックしてしまった模様。バックの途中で正しい方向に切り替わっていないポイントを通過 → 破損し、脱線につながったようです。

鉄道の信号設備は、前に進むことを前提に作られています。ようするに、バックという行為は想定されていない。ですから、今回のようにやむを得ずバックする場合は、いろいろと確認しなければいけないことがあるのですが……。

今回の事象は「信号冒進」──赤信号の見落としではない?

直接原因は「勝手にバックしたためポイントをぶっ壊して脱線」なのですが、私が気になるのは、その前段階。つまり、「本来と異なる線路に進入した」という部分です。これをどう解釈するかが難しい。

一般の方にはピンとこないと思うのですが、どう解釈するかで、話が全然違ってくるんですよ。

この車両が「1番線に入る予定だった」としましょう。このとき、「本来と異なる線路に進入した」という表現からは、二つの解釈が成り立ちます。

  • ポイントが切り替わっておらず、1番線へのルートが構成されていない状態だった。ところが誤って発車し、1番線ではなく別の番線に入ってしまった

これは、赤信号を見落として進入した、いわゆる信号冒進というやつ。非常に危険な事象です。「まだ安全が確保されていないから入っちゃダメ」という意図で赤信号が表示されているのに、そこへ突っ込んでいくわけですから。

ただし、今回の件は信号冒進ではないと思います。

というのも、もし赤信号を見落として突っ込んだのなら、会社のプレス発表や報道で、そのように書かれるのが普通だからです。どこを探しても、赤信号の「あ」の字も出てこないので。

別の番線へのルートを構成してしまった?

というわけで、もう一つの解釈。

  • ポイント切替時に何かを勘違いし、1番線ではなく2番線へルートを引いてしまった。2番線へのルート自体は完成しており、「2番線まで移動してOK」と青信号も出ていた

で、1番線ではなく2番線にルートが引かれていることに、運転士も気付かず発車した。ところが途中で、「あれ? 1番線に行くはずなのに2番線に入っちゃった」と止まる。そして、「いったん元の場所に戻らなきゃ」とバックしてポイントを破損し、事件発生。

専門知識がある人向けの表現で書くと、通過し終わった後方の転てつ器は進路区分鎖錠が解錠されていたため、次の列車の進路構成のために、すでに転換していた。そこに退行してきた当該車両が進入し、転てつ器を割り出した。

個人的には、今回はこっちの事象ではないかと思います。情報が出ていないので、確信は持てませんが。

「作業」を誤っても「安全」には影響ないケース

なお、「1番線ではなく2番線へルートを引いてしまった」という行為ですが、コレ自体は安全上まったく問題ありません。1番線ではなく、2番線に車両が入っていくだけの話なので。

高速道路に例えるなら、東京方面に行きたい人が、インターチェンジで誤って大阪方面のレーンに進入した。このこと自体は安全上問題ないですよね。

もちろん、違う番線に車両が入っていくので、「作業」という意味ではミスです。しかし、ルート自体はキチンと確保した状態で車両を動かしているので、脱線や衝突が起きる危険はない。「鉄道の安全」という観点からすれば特に問題ありません。

仮に私の推測通りだとしたら、運転士はどうすべきだったか?

間違いに気付いたあと、そのまま進んで2番線に車両を完全に収容し終えたあとで、改めてリカバリーの行動をすればよかったという話になります。下手に中途半端な位置からバックして取り繕おうとするから、事故が起きるわけで。

再び高速道路の話なら、進入レーンを間違えたからといってバックしたら危ない。とりあえず次のインターまで行って降りるのが正解ですよね。それと同じです。

ルート構成は指令所または駅の信号扱所が行う ただし例外も

もし、「誤って1番線ではなく2番線へルートを引いてしまった」という事象が起きていたとしたら、これは誰がやらかしたのか?

ポイントを切り替えてルート構成する作業は、指令所または駅の信号扱所が行うのが一般的です。

ただし最近は、指令所や信号扱所からの遠隔ではなく、運転士が手元のリモコン(?)を操作して、自分でルート(進路)設定を行う仕組みも存在します。京成高砂駅で導入されているかは知りませんが。

もしこの手の仕組みが導入されていたら、今回の事故は運転士の一人相撲という話になります。

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伊豆箱根バスの事件 運転手の行為は擁護できない

鉄道業界ではないですが、同じ国土交通省管轄下の「お隣さん」として、バス業界での話題に触れます。ネット上でけっこう話題になっている、あの事件です。

2022(令和4)年4月、静岡県の伊豆箱根バスにおいて、ノーマスクの女性が乗車。運転手はマスク着用を求めたが、女性客は拒否。運転手は停留所でない場所でバスを停め、女性客を降車させた。

正当な事由がないにもかかわらず運行の継続を拒否 & 停留所以外の場所で乗客を降ろした。これが道路運送法違反ということで、伊豆箱根バスは行政処分を喰らいました。

ノーマスク客を停留所ではない場所で降ろした運転士。言い分としては、「他のお客様に配慮した」とのこと。これに対して、「運転手は迷惑客に毅然とした態度で応じた。立派だ!」「これでバス会社への処分はおかしい」という擁護の声がネット上では多いようですが……

 正直ビックリ
 ないわぁ

何でもかんでも運転手の判断を尊重したらどうなる?

他の乗客への配慮とは、「この女性客を乗せ続けたら、他のお客様に迷惑が掛かってマズい」という意味でしょう。そう判断し、ノーマスク客を乗車拒否する決断を下した運転手。

ですが、「他のお客様の迷惑になるから」という大義名分で運転手のやることが何でも許されるなら、以下のような事例もOKになってしまいます。

事例1
乗客の一人が、車内でくしゃみを2回しました。 運転手(この人、コロナかも? またくしゃみをされてウィルスを撒き散らされでもしたら、他のお客様に迷惑だなぁ)→ 「いますぐ降りてください」

事例2
運転手(あっ、このお客様、布マスクだ。不織布マスクの方が効果が高いのに……。布マスクじゃ感染対策にならないだろ。他のお客様に迷惑だなぁ)→ 「いますぐ降りてください」

事例3
いま、バスの中には20人の乗客がいます。 運転手(やべーなー、これ以上お客様が乗ってきたら『密』になって感染リスクが上がって、お客様に迷惑が掛かるなぁ)→ 次の停留所で待っていた客に向かって、「これ以上は乗せられません。次のバスを待ってください」

これ、許されると思います? 「お客様への迷惑を防ぐため、運転手の判断を尊重すべき」という理屈なら、事例1・2・3いずれも許されるでしょう。が、こんなのが通るはずないのは、常識的に考えて理解できるはずです。

ようは「迷惑」を運転手の主観にすべて委ねてしまうと、解釈次第で何でもアリになってしまう、それはマズかろう、ということ。

運転手を擁護する人たちに聞きたい。今回の事例で「運転手の行為は問題ない」という方向に持っていくと、今後は運転手による強制降車・乗車拒否が横行しかねず、結局自分たちの首を絞めることになると思うのですが、それでいいでしょうか?

「ルール」と「お願い・要請」は異なる

というわけで、乗客がリアルタイムで法律や約款に違反していなければ、乗車拒否 → 降りろ! は難しい。

「いやいや、マスク着用というルールを守っていない客の方が悪い」という意見もありましたが……

いつ、バス内でのマスク着用がルール化したん?

「車内ではマスクの着用をお願いします」とは耳タコですが、これはあくまでお願い・要請レベル。着用を強制させることは不可能です。

というわけで、当該の女性客は、法律や約款に違反した行為をしていないのは明白。対して、運転手(バス会社)は明確に法律を破っています。言い方を変えると、運転手は法律よりも“俺ルール”を優先させた。

この構図は確定なので、バス会社側に非があるのは動かしがたいでしょう。

ノーマスク = 公の秩序若しくは善良の風俗に反する!?

約款といえば、某議員が以下のようなツイートをしていました。抜粋します。

これでバス事業者が処分を受けることは厳しい。標準運送約款の拒否要件 4.公の秩序若しくは善良の風俗に反する(~中略~)などで準用できないか、確認します。

ノーマスクは公の秩序若しくは善良の風俗に反するとの方向に持っていきたいようですが……

準用できるわけないだろ、常識的に考えて

ていうか、ノーマスクが公の秩序若しくは善良の風俗に反するとか考え始めたら、テレビ局はどうなるんだっ? ニュース番組では、アナウンサーがノーマスク。ワイドショーでも、出演者はノーマスク。ドラマやアニメでも、登場人物がマスクを着用していないのが普通。

つまり、ノーマスクが公の秩序若しくは善良の風俗に反していると解釈するなら、テレビ局はヤバい番組をガンガン流していることになります。ぴゃあぁぁ。

この自民党議員は、国土交通省ではなく、総務省と話すべきでしょう。「テレビ局は公の秩序や善良の風俗に反した番組ばかり流している! こんな奴らに放送免許を与えるな!」という感じで。まあ相手にされないでしょうが。

ノーマスクといえば、飲食店も同じです。みんなマスクを外し、さらには会話しながら食事をしている人も多いですが、飲食店の中は、公の秩序若しくは善良の風俗に反する行為が横行しているとでも言うのでしょうか? アホくさ。

大切なのは「根拠」に基づいて対応すること

というわけで、私個人の感覚では、バス会社を擁護できるポイントがまったく見出せません。2021年5月に起きた「東海道新幹線 運転士のトイレ離席事件」でも、ネット上では擁護の声が非常に多かったですが、そうした世間の風潮が私にはよくわからないです(^^;)

今回の件、当該運転手も悪気があったわけではなく、他の乗客を守らなければ! という気概でやったことでしょう。ただ、その場の空気や個人的な気分で判断するのではなく、根拠をしっかり用意すべきでした。

単に「他のお客様に配慮した」ではダメでしょう。「○○の法律や約款、営業規則を考慮したうえで、バスを停留所以外の場所に停め、女性客を降車させても問題ないと判断した」という具合です。

もっとも、今回の件では、正当な根拠を用意するのは難しかったはずですが……。

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【外部リンク】マスクを着用しなかったら反則負け!? 日本将棋連盟のバカげたルール

おおさか東線での誤進入 実は安全上は問題ない

2022(令和4)年8月16日、新大阪駅を発車した列車が、所定のおおさか東線ではなく、誤って梅田貨物線に進入。指令員が信号・ポイント操作をミスしたのが原因。当該列車は、いったんバックしておおさか東線に入り直した。

列車の誤進入、指令員による信号・ポイント操作のミス。物騒な言葉が並んでおり、どれだけ危険な事態だったんだと思うかもしれませんが……実はコレ、安全上はまったく問題ないです。

「安全上問題ない」とは、誤進入によって脱線や衝突といった事故が起きる心配はなかった、という意味です。

列車が「別の場所」に行ってしまっただけ

重大な事故を引き起こしかねない事態のことをインシデントと呼びますが、今回の事件は、それに該当しないでしょう。以下のような例がインシデントですが、今回はこういう類の話ではないですね。

  • 停止信号冒進(赤信号を行き過ぎた)
  • 車両逸走(車両が無人状態で勝手に動いた)
  • 走行中にドア開(2022年7月・江ノ島電鉄であった)
  • 閉そく違反(難しいので説明は省略)

さて今回の事件、例えて言うなら次のような感じです。

みなさんはエレベーターに乗って、4階へ行こうとしました。ところが、ボタンを押し間違えて5階へ到着し、気付かずにそのまま降りてしまいました。

これ、安全上は何も問題ないですよね。間違って5階のボタンを押し、5階に降りたからといって、エレベーターが破損したり、みなさんがケガをしたりすることはありません。別の階に連れていかれるだけ。

今回の事件も、これと同じです。指令員が誤って[貨物線]という“階”のボタンを押してしまった。運転士も、[おおさか東線]ではなく[貨物線]という“階数表示”がされていることに気付かず、そのまま[貨物線]の“階”で降りてしまった。

これはもちろん、鉄道の安全を脅かすことがなかったという意味であって、作業的には完全にミスですが。乗客にも迷惑かけまくってますし。

左に行くのが正当なルート。今回の事件では右に行ってしまった

指令員のミス 誤った線路の信号機・ポイントを触った

今回の事例、指令員と運転士の二人がミスを犯しています。二人のうち、どちらか一人が誤りに気付けば発生しなかったトラブルですが……。まあトラブルが実際に起きるときは、往々にしてそんなもんです。

指令員のミスから見ていきます。先ほどのエレベーターの話なら、誤って別の階のボタンを押したのが指令員です。

まず前提の話をしておくと、列車の運行に必要な信号機やポイントの制御、あれ、人間がいちいち操作するのではありません。コンピューターが自動でやってくれるのが大半です。
(PRCやPTC、ARCなどと呼ばれるシステム)

指令室の装置に全列車のデータが入っており、そのデータに基づき、コンピューターが自動で信号機やポイントの操作をしてくれます。たとえば、

「●列車はA駅1番線から9:00に発車、B駅の到着は2番線……」
「▲列車はC駅2番線に到着……」

という具合で、全列車の運転時刻や番線のデータが入っています。コンピューターはそれに従い、「●列車はB駅2番線に入るから、B駅の信号機やポイントはこう動け!」と命令を出すのです。

ダイヤが乱れているときは、番線変更などが必要になるので、これらの制御用データを書き換えます。ただし、データの書き換えが間に合わないこともあるので、信号機やポイントに対して直接命令コマンドを入力することもあります。「手動介入」「手引き」などと呼びます。

Excelに例えるなら、計算プログラム内の数字を書き直して新たな解答を得るところ、解答欄のセルを直接クリックし、自分の頭で計算した答えを書き込むようなものでしょうか。

今回の事象は、この手動介入・手引きを行なった際に、おおさか東線ではなく貨物線の方の信号機・ポイントを触ってしまったものと思われます。完全なヒューマンエラーですね。装置には操作記録(ジャーナルという)が残るので、事件発生後にそれを見て、「貨物線の方の信号を引いてる!」と真っ青になったのでは……。

運転士のミス 信号確認が不十分だった

次に、運転士のミスについて。おおさか東線ではなく、貨物線の方に信号が引かれているのを見落とし、そのまま進入してしまった。

エレベーターの話なら、行先階数表示が違っているのに、それに気付かなかった。

左の信号機が青、右は赤。おおさか東線へはこれが正当。今回は、左右逆なのに気付かなかったようだ

これも典型的なヒューマンエラーでしょう。「おおさか東線の方に信号が引かれているだろう」という思い込みとか、そうした思い込みが原因で信号機をきちんと確認しなかったとか、そんなところだと思われます。もしかすると、夜 + 悪天候で信号が視認しづらかったのかもしれませんが。

まあ原因が何にせよ、信号確認が不十分だったと責められることは避けられません。指令員とともに責任を問われ、日勤教育送りにされてしまうかと……。

ヒューマンエラーが起こした事象 再発防止策は難しい

指令員と運転士のヒューマンエラー(おそらく)によって、今回の事件が起きたわけですが、再発防止策はどうすればよいのでしょうか?

残念ですが、明確な再発防止策はない、というのが現実的な答えでしょう。

こんなことを言ったらアレですが、ヒューマンエラーを100%撲滅するのは不可能です。信号扱い時や信号喚呼時の基本動作をしっかり行なったり、作業手順に工夫をしたりすることで、ミスを0に近づけることはできますが、0にはできません。

だから人間(ソフト)がミスを犯したときのために、バックアップたる保安装置(ハード)があるわけです。

ヒューマンエラーの話は、はてなブロガー・珈琲好きの忘れん坊さんの記事が面白いのでどうぞ。

ただし今回の件、冒頭の繰り返しになりますが、安全上は問題ありません。ヒューマンエラーが起きたものの、安全を脅かす事態にはなっておらず、保安装置も作動していないからです。

退行運転──バックするのは信号設備に逆らった運転

もし今回の事象で危険な点をあえて挙げるとしたら、誤って貨物線に進入した後、バックしておおさか東線に入り直したことでしょうか。

元来た方向へバックすることを退行運転と呼びますが、この退行運転は、けっこう危険なのです。

というのも、鉄道の信号設備は、列車が前に進むという前提で作られています。列車がバックする想定では設計されていません。列車がバックするとは、信号設備の摂理(?)に逆らう運転であり、頼りになるのは運転士の注意力のみ。だから危険度が高いわけ。

たまにニュースになりますが、駅でオーバーランした列車をバックさせずに、次の駅まで行かせることがありますよね。「バックすると、付近の踏切が誤作動を起こす恐れがあるから」という理由による措置ですが、踏切も、列車は前に進むという前提で作られているのです。

もっとも、退行運転自体はルール違反ではなく、一定条件を満たすことで認められているので、今回行われたことは規定上問題ないですが。

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走行中の列車のドアが開いた! 考えられる原因は?

2022(令和4)年7月24日、江ノ島電鉄で、ドアが開いた状態で列車が走行する事象が発生。国土交通省は、本件を重大インシデントと認定した。

乗務員の操作ミスではないはずなので、車両の故障でしょう。残念ですが、車両も機械ですから、どうしても故障したり誤作動したりがあるんですね。

本件のように、走行中の車両ドアが開く危険な事象はときどき起きます。原因はだいたい決まっていて、部品の劣化です。もう少し詳しく分類すると、以下の2パターンが「お約束」です。

  1. 部品の破断や外れ
  2. 電気回路の短絡

原因1 部品の破断・外れによってドアを支える力が失われる

走行中にドアが開いてしまう原因その1。「部品の破断や外れ」について。

車両ドアにはいろいろな部品が使われていますが、金属疲労などで破断したり、外れたりすることがあります。すると、物理的にドアを支える力が失われるので、走行中の振動でドアが開いてしまう。そういう理屈です。

今回の江ノ島電鉄の事象は、おそらくコレでしょう。両開き扉の片側だけが開いていたそうなので。

その他、最近ですと、2021(令和3)年11月に近畿日本鉄道で起きたインシデントも、確か部品の破損系だったような……。

この手の事象は、ドアが閉まっている状態からいきなり全開になるのではなく、振動によって徐々に開いていきます。一気に0→100になるのではなく、0→10→20……というイメージですね。

原因2 短絡によってスイッチがONになり誤作動を起こす

続いて、走行中にドアが開いてしまう原因その2。「電気回路の短絡」です。流れとしては、以下のようになります。

何らかの原因によって、流れるべきでない回路に電流が流れる
→スイッチがONになる
→それによってドアが誤作動し開く

この場合は、0→10→20……のようにドアがゆっくり開くのではなく、0→100のように一気に開くので非常に危険です。ドア開を命じる回路に電流が流れ、スイッチがONになるので、駅でドアが開くときと同じなのです。

短絡の原因は「水滴の浸入」や「絶縁不良」

もう少し、この「電気回路の短絡」という原因を掘り下げましょう。短絡とは、ようは正当なルートではなく、誤ったルートで電流が流れてしまう事象です。言い換えると、「誤った電気回路が構成される」。なぜ、そんなことが起きるのか?

  1. 経年劣化による水滴の浸入

    経年劣化によりできたスキマから、電気回路に水滴が浸入
    →水は電気を通すので、その水滴で短絡が発生
    →機器の誤作動


    ひび割れなどから内部に水滴が浸入しトラブル発生、というのは、電気回路に限った話ではありません。建物なんかもそうです。

    私はマンション住まいですが、以前、大規模修繕が行われました。工事業者によると、ひび割れから建物内部に浸入した水分が、腐食やサビの原因になるらしいです。たかが水分ですが、侮ってはいけません。

  2. 経年劣化による絶縁不良

    経年劣化で電線の被膜が剥がれ、電線がむき出しに
    →何かの拍子に他の電線が触れて短絡が発生
    →機器の誤作動

以上が、電気回路の短絡を起こす主な原因です。

設備投資は鉄道会社にとって大きな負担

さて、こうしたトラブルを防ぐためには、どうするべきでしょうか?

日々のメンテナンスをしっかり行い、更新時期になったら速やかに取り替える。

しかし、この当たり前のことが、実は簡単ではありません。特に設備更新については、カネの問題が必ずついてまわります。

積極的に設備改修・更新が行えるほどカネを持っている鉄道会社は、そう多くないはず。特に、地方の中小私鉄や第三セクターは厳しいところが多いでしょう。設備の経年劣化が進んで「もう取り替えた方がいい」とわかっていても、カネの都合がつかない。そういうケースは少なくないのです。

今後、コロナによる生活様式の変化や、人口減少に伴って売上が落ち、財政状況が厳しくなる鉄道会社は増えるでしょう。それに伴って、鉄道の安全を守るための設備に、じゅうぶんな投資ができなくなる……。私としては、そうした事態を非常に心配しているところです。

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