現役鉄道マンのブログ 鉄道雑学や就職情報

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停止位置目標──「ホームのどこに列車を停めるか?」を示す役割

列車が駅に入ってきて、ホームに停車する。みなさんが日常的に目撃するシーンですね。今回の記事は、それにまつわる雑学。

具体的なテーマは、「列車はホームのどこに停まるか?」です。

駅停車時、運転士は「ホームのあの辺りに停めりゃ~いいか」と適当に停止位置を決めているのではありません。ちゃんと「あなたの列車は、ここに停まってくださいよ」と停止位置が指定されているので、それに則って運転しています。

これは運転士業務の知識ではありますが、乗客側も、「列車がどこに停まるか?」を知っていると役に立つことがあります。たとえば、一番前の車両に乗りたいときに重宝しますね。また、「ホームのここから先には列車は停まらない」ということも判別できます。

みなさん、経験ありませんか? ホームで待っていたはいいけれど、いざ列車が入線してきたら、自分の前には停まらなかった(笑)という事象。

俺が待ってるところまで来ないんかい!

駅停車時は「停止位置目標」に列車の前頭を合致させる

列車はホームのどこに停まるのか? それはどうやって指定されている? 言葉で説明するよりも、写真を見てもらった方が早いですね。

線路脇に、1・2・3と数字が書かれた菱形の白いやつがあります(↓写真)。

これ、専門用語では停止位置目標といいます。長ったらしいので、停目(ていもく)と略して呼んだりしますね。運転士は、この停止位置目標の場所に列車を停めます。正確に言うと、列車の前頭(最前部)を停止位置目標に合わせます。

1・2・3の数字は、両数です。1両を運転しているときは「1」に、2両を運転しているときは「2」の停止位置目標に合わせる……という要領です。運転士を観察すると、駅に停車する直前は、停止位置目標の方に視線を向けているのがわかりますよ。

今から入線してくる列車が何両編成か? という事前情報さえ掴んでおけば、停止位置目標と照らし合わせて、みなさんも列車がどこに停まるかを判断できます。

いろいろなタイプがある停止位置目標

この停止位置目標ですが、鉄道会社によって、いろいろなタイプがあります。先ほど紹介したのは線路脇に建てるタイプですが、↓の写真はレールの間にあるタイプ

4両の列車(の最前部)はここに停まる

線路ではなく、ホームに設置するタイプもあります(↓写真)。

8両および10両用の停止位置目標

運転士目線だと、別にどのタイプの停止位置目標でも構いませんが、保守メンテ等の観点からすれば違いがあると思われます。いや、私は技術系部署の人間ではないので、本当のところは知りませんが……。

たとえば、ホームに設置するタイプだと、万が一倒壊した場合に旅客に当たる可能性があります。実際、壊れてホームに落下した事例がありまして……。線路内に設置するタイプなら、その心配はありません。

反面、線路内に設置するタイプだと、掃除の際なんかに列車が来ないのを確認しながら作業する必要があります。

あ、たまに掃除した方がいいんですよ。ありがちなのが、ずっと放置して汚れ(煤け)てしまい、数字が見にくくなること。そうなると、「あれ? どこに停めるんだ?」と運転士が混乱し、場合によっては不適切なブレーキ扱いや、最悪オーバーランにもつながりかねません。

ドンピシャの数字がない場合はどうする?

少し本題から逸れました。最後に、一つ疑問を感じる人がいるかもしれないので、それを解説します。

その疑問とは、ドンピシャの数字がない場合──つまり、運転する列車の両数とピッタリ合致する数字がない場合はどうするか? ということ。もう一度、先ほどの写真をご覧ください。

8両と10両の停止位置目標はありますが、仮に9両の列車を運転していた場合、このホームではどこに停めるべきでしょうか?

正解は「10」の停止位置目標。「8」に停めるのはダメです。

というのも、自列車の両数より小さい数字──この場合だと、9両を運転しているのに「8」の停止位置目標で停車させると、列車の尻がホームからはみ出すかもしれないからです。そのため、自列車の両数より小さい数字の停止位置目標には停めません。

「自列車の両数以上」かつ「なるべく小さい数字」の停止位置目標に停めるのが正しい取扱い……と書くと難しいですね(^^;) 例題を一つ見てもらえば納得できるかと。

あなたは7両の列車を運転しています。その駅では三つの停止位置目標がありますが、どこに停めるべきでしょうか?

  • 10

正解は「8」です。7両を運転しているので、6に停めるのはダメ。あとは8か10かの二択ですが、「7以上でなるべく小さい数字」なので、8両停止位置目標が正解になります。

後日追記コメント欄にてエストッペルさんから、「北海道でしか使われていない(と思われる)タイプの停止位置目標もある」と教えていただきました。ありがとうございます(^^) 北海道タイプをご覧になりたい方はエストッペルさんのブログ記事へ。

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『ゆるキャン△』の天竜浜名湖鉄道のシーンには一つ疑問がある

女子高生たちがゆる~くキャンプするのを描いたマンガ『ゆるキャン△』。けっこう知名度がある作品なので、ご存知の方も多いでしょう。

ゆるキャン△ 4巻 (まんがタイムKRコミックス)

この作品とコラボしているのが、静岡県の第三セクター・天竜浜名湖鉄道です。

作者が静岡県浜松市出身ということもあってか、『ゆるキャン△』の物語内で、天竜浜名湖鉄道が登場するシーンがあります。その関係でコラボしているのでしょう。一例として、最近流行りのラッピングトレイン。

これをクルマでやったら痛車間違いなしだと思うのですが、鉄道車両だとイタイ印象にならないのは不思議ではあります。

さて、「作中で天竜浜名湖鉄道が登場する」と書きましたが、そのシーン、実は一つ解せない部分があります。今回の記事では、マンガの世界に無粋にもツッコミを入れていきます。

列車から顔を出す係員風の人物 運転士とは思えない

解せない点があるのは↓のコマです。

本記事ではこのコマを考察する。『ゆるキャン△』第27話より抜粋

これは登場人物の一人・各務原なでしこが、天竜浜名湖線に乗るシーンです。

このコマのシチュエーションを簡単に説明しておくと……

山梨県に住むなでしこは、静岡県浜名湖近くにある祖母の家に遊びに行きます。その道中、気賀駅から天竜浜名湖線に乗るのですが、発車時刻ギリギリになってしまい列車に駆け込む……というシーンです。

さて、このコマのどこに解せない点があるのか? 一言でいうと、次のようになります。

コイツ、誰?

誰って、運転士じゃないの? 発車しようと思ったら、車外から「乗りまーす!!」と声が聞こえたので、扉から顔を出したのでは?

いいえ。詳しくは後述しますが、この人が運転士とは考えにくいです。結論から言うと、仮にこの人物が運転士だった場合、↓図赤丸の扉から顔を出さなければおかしい。

(当然だが)運転士がいるのは進行方向前方の運転台

まず前提知識として、天竜浜名湖鉄道は運転士によるワンマン運転が行われています。駅で降りるときは、運転士(もちろん進行方向前方の運転台にいる)にキップ・運賃を渡し、前の扉から外に出る。路線バスでも同様の方式が多いですね。

つまり、「運転士がいる運転台 = 進行方向」ということになります。いや、ワンマン運転に限らず、どの列車でもそうなんですが……。

ですので、仮に↓のコマの当該人物が運転士だった場合、列車は画面手前方向に進むことになります。

列車の進行方向左側にホームがある形になりますね。↑のコマを図で示すと↓の通り。

赤丸が「コイツ、誰?」の当該人物の位置

ところが、この図はおかしい。このとき、なでしこは浜名湖佐久米という駅(祖母宅の最寄)を目指していました。気賀駅から乗車し、浜名湖佐久米駅で下車です。両駅の関係を示した図が↓こちら。

おわかりでしょうか? 気賀駅から浜名湖佐久米駅へ向かう列車においては、気賀駅では進行方向右側にホームが来ます。このシチュエーションで、当該人物の場所を書き加えた図が↓こちら。

赤丸が当該人物の位置

ようするに、この人物は進行方向後方の運転台付近にいるのです。こんな位置にいるのが、はたして運転士でしょうか?

これが解せない点です。もちろん私のツッコミは、『ゆるキャン△』の世界の気賀駅が、我々の現実世界と同じ形になっているという前提での話ですが。

私は実際に気賀駅で降りたことがあるので、記憶と照らし合わせて「あれ?」となりましたが、現地を知らない人は、何も感じずスルーするコマだと思います。そういう細かいところを見逃さないのが、私という人間の嫌らしいところです(笑)

当該人物が運転士ではないとしたら誰なのか?

ではこの人物、運転士でないとしたら、いったい何なのか?

可能性1。駅員。どこかの駅に移動するため列車(後ろの方)に乗っていたら、なでしこの「乗りまーす!!」が聞こえてきたので、扉から顔を出した。

可能性2。この人、もはや天竜浜名湖鉄道の係員でも何でもない。鉄道員のコスプレをした、ただの乗客。

可能性3。やっぱり運転士。ただし、なでしこの目的地・浜名湖佐久米ではなく、逆方向へ行く列車だった。それなら辻褄が合います(ただし行先表示が間違ってる)。その場合、なでしこは「あ、この列車じゃなかった。間違えるとこだったよぉー」なんて台詞を言うことになります。

こればかりは、作者のみぞ知るところです。

【余談】大判焼き・鰻重・うなパイ・餅・大福……なでしこの食欲爆発

さて、鉄道の話はここまで。あとはオマケ。本記事では、もう一つツッコミを入れます。

なでしこの食欲

かつて姉から、「いいかげん食うのをやめろブタ野郎!!」と罵られたこともあるくらい、食欲モリモリのなでしこ。第27~28話では、その実力が垣間見えます。

先ほども書いたように、彼女は山梨の自宅から浜名湖の祖母宅へ旅をしています。おそらく10時半近く。気賀駅前で大判焼きを買うなでしこ。

「えと、クリームを一つ。やっぱり二つください!!」

『ゆるキャン△』第27話より抜粋

2個もいらないだろ。もうすぐ昼メシじゃないの? 私の心配などよそに、なでしこは天竜浜名湖線の車内で大判焼きにかぶりつく。

さて、祖母宅の最寄り駅・浜名湖佐久米に到着したなでしこは、そこで友人の志摩リンと合流します。祖母宅へ行く前に、駅前の鰻屋(!)で昼食。たぶん時刻は11時過ぎ。クリーム大判焼き×2を食べてから1時間経ってないかと……。

注文したのは鰻重・特上。ついさきほど大判焼き2個を食べたなでしこ。けっこうお腹に溜まったはずです。せっかくの鰻も、お腹が膨れた状態では美味しく食べられまい。「やっぱり二つください!!」と言ったことを後悔しろッ!

「はー おいしかったー」

『ゆるキャン△』第28話より抜粋

速攻で完食。お隣のリンは(たぶん)まだ半分くらいしか食べ進めていない状態なんですが……。貴重な鰻なんだから、じっくり味わえよ、この罰当たりめ……。

鰻を食べ終えた二人。駅前から祖母の家まで20分ほど歩きます。到着後、コタツの上に置かれていたお菓子(うなパイ)を発見するなでしこ。

「お! うなパイ。しかもこれナッツ入りのやつだ!!」

『ゆるキャン△』第28話より抜粋

「お! うなパイ」じゃねぇええよ!!
お前、大判焼き×2と鰻重食ったじゃろ!!
ブッヒィィぃィィィ!!

「お!」←ここが何気にイラッと来るポイント(笑) そしてもう、なでしこの食欲は止まらない。そのあとを食らい、さらに、リンが手土産として持ってきたうす皮いちご大福も頬張る。超幸せそうな表情で。

お姉ちゃんがキレたのもわかる

中高生がダイエットするのは良くない。身体作りのために、ちゃんと食べた方がいい。ただし、それは「炭水化物ばかり際限なく食べてもいい」という意味ではない。なでしこ、糖質ばかり摂ってないで野菜も食べやさい

しかし、なでしこは夜食にカップラーメンをすするのであった。

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『ゆるキャン△』のなでしこが祖母宅に行ったときの旅程は現実的なのか?

今回の記事で取り上げるのは『ゆるキャン△』。女子高生たちがキャンプするのをメインに描いたマンガです。アニメやドラマ化もされ、けっこう知名度があるマンガなので、ご存知の方も多いかもしれません。

ゆるキャン△ 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

アウトドアとか野外料理とか、ある種パワフルな人がやりそうなことを可愛い女子高生がやるということで、そのへんのギャップがウケている理由でしょうか。私の勝手な解釈ですが。

この作品の特徴として、現実世界の名所や名物、施設を数多く登場させていることが挙げられます。そのため、ファンによるいわゆる聖地巡礼が盛んなようです。なお、舞台は主に山梨県・静岡県です。

作中には鉄道も登場します。一例として、静岡県の天竜浜名湖鉄道。国鉄民営化時に第三セクターに転換された地方ローカル線です。

この『ゆるキャン△』ですが、天竜浜名湖鉄道が登場するシーンを読んでいて、ふと疑問に思ったことがあるので、それを記事にします。

なでしこは朝に山梨を出て11時には浜名湖佐久米に到着していた

舞台は第27話、時季はお正月です。正確に言うと1月2日。

登場人物の一人・各務原なでしこは、静岡県浜名湖の近くに住む祖母のところへ行きます(家族を伴わず一人で)。祖母の家は、天竜浜名湖鉄道・浜名湖佐久米駅の近くにあるそうです。浜名湖の北側ですね。

なでしこは山梨県南部町付近(=富士山の西側。近隣では身延町が一番知名度があるか)に住んでいるようです。ここから浜名湖佐久米駅までどのようなルートで移動したのか? というのが本記事のテーマ。

実はこのとき、なでしこは途中で友人の志摩リンと合流します。リンは静岡県西部方面へソロキャンプをしに来ていましたが、わけあって一緒になでしこの祖母宅へ行くことになったのです。

二人の待ち合わせ時刻と場所ですが、リンは「なでしこと11時に佐久米駅で合流」と言っています。

明日の待ち合わせ時刻を確認する志摩リンちゃん。第27話より抜粋

つまり、なでしこは朝に山梨県南部町を出て、11時には浜名湖佐久米駅にいなければならない。これはけっこうシンドイ行程では?

しかも、なでしこは途中で寄り道をしています。天竜浜名湖鉄道・気賀駅の駅前にある大判焼き屋で、クリーム大判焼き2個を購入(昼食が近いのに……)。その気賀駅から浜名湖佐久米駅まで、天竜浜名湖線に乗って移動している。

この大判焼き屋は実在する。聖地巡礼のスポットとして人気があるようだ。第27話より抜粋

この寄り道を含めたうえで、待ち合わせに間に合う行程は現実的に可能なのか?

と疑問に思ったので、検証してみましょう。第27話、掲載は2017年です。当時のダイヤがわからないので、本記事では2023年1月時点のダイヤで考察します。コロナ禍で運行本数がだいぶ減ったからなぁ、2023年のダイヤで行けるかなぁ。

路線バスを併用すれば11時到着はじゅうぶん可能

なでしこが、どのような交通手段で南部町から浜名湖方面まで移動したかは不明です。普通に考えれば鉄道でしょうが。「行ってくるね」で自宅を出たあと、次に登場するのが気賀駅前で大判焼きを購入しているシーン。

大まかな路線図。正確には、なでしこ家の最寄り駅は「身延線・内船駅」だが、ここでは地域の中核駅である「身延駅」を載せた。身延から南に2駅行くと内船

気賀駅から浜名湖佐久米駅までは、天竜浜名湖線に乗車している描写がキチンとあるので、その部分だけは判明していますが。

天竜浜名湖線は地方ローカル線であり、運行本数は1時間に1~2本程度です。もし大判焼きを買うために気賀駅で途中下車すると、そこで次の列車を1時間ほど待たなければいけません。このロスは痛い。

つまり、掛川駅から天竜浜名湖線に乗って気賀に向かったとは考えにくい。

というわけで、鉄道だけでなく、路線バスも併用した次のようなルートがもっとも現実的だと思うのですが、いかがでしょうか。

  • 内船→富士 JR身延線
  • 富士→新富士 路線バス
  • 新富士→浜松 新幹線
  • 浜松→気賀 路線バス
  • 気賀→浜名湖佐久米 天竜浜名湖線(この部分は確定)

なでしこは緑ルートを通ったのではないだろうか?

具体的な時刻も付与すると、次のような行程になります。

  • 内船616→(身延線)→富士713
  • 富士730→(路線バス)→新富士737
  • 新富士808→(新幹線)→浜松846
  • 浜松920→(路線バス)→気賀1014
  • 気賀1026→(天竜浜名湖線)→浜名湖佐久米1035

なんだ、余裕で行けるじゃないか。浜松から気賀へ路線バスで移動するのがミソですね。これを行わず、たとえば掛川から気賀まで天竜浜名湖線で移動しようとすると、待ち合わせの11時に浜名湖佐久米駅に着くためには、もっと早く家を出発しなければならない。それは苦しそうです。

しかも、上の行程を採用すると、なでしこの動きが説明できます。なでしこは気賀駅前で大判焼きを購入したあと、ギリギリで天竜浜名湖線に駆け込みます。

駆け込み乗車はおやめください。第27話より抜粋

気賀駅で、バス → 天竜浜名湖線への乗換時間が12分。昼食が近いから大判焼きを購入しようか迷う → えーい買っちゃえ、という流れなら、列車に乗るのがギリギリになったのも理解できます。

ということで、なでしこの旅程は現実でも可能との結論に至りました。作者がそこまで考えて(検証して)描いたかは不明ですけど……。現実に“寄せている”マンガでこういう部分が雑だと萎えますが、しっかりした描写がされており好感が持てます。

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車両連結の雑学 実は「空気的・電気的な連結」も必要

鉄道というものは、車両同士を連結して使用します。誰でも知っていますよね。では、ここで一つ質問を。

鉄道以外に、連結・合体が行われる乗り物を挙げてください


……

意外に答えが出てこないはずです。おそらく、ガ○ダムくらいしか思い浮かばないのではないでしょうか。ガ○ダムは乗り物じゃねぇぇぇ機動兵器だ

はい、鉄道の特徴は「合体すること」です。普段意識することはありませんが、そういう意味で、実はとても珍しい乗り物なのです。

物理的な連結だけでなく「空気・電気」の連結も必要

合体するときに必要なのは、両者のタテ軸とヨコ軸を正確に合わせること。その点、鉄道車両はレールに乗せて動かすので、タテ軸とヨコ軸を合致させるのが容易です。ガ○ダムなどは戦闘中に空中で合体しており、われわれ視聴者もそれを当然のこととして受け入れていますが、あれはすさまじい技術レベルといえます。

車両同士を合体──連結させるために用いるのが連結器です。↓の写真のように、指相撲するときの手みたいなのを想像する人が多いと思います。

連結器は、こうした指相撲型だけではありません。近年の鉄道車両では、↓の写真のような連結器も多いです。

形状はいろいろありますが、とにかく車両同士をくっつけるのが連結器の役割です。

ところで、プラレールや鉄道模型だと、物理的に車両をくっつければ動かして遊ぶことができます。が、実際の鉄道では、前後の車両を「物理的に連結」するだけでは運用できません。

どういう意味かというと、「空気的な連結」「電気的な連結」も必要なのです。

「空気的な連結」とは?

「空気的な連結」と「電気的な連結」とは何ぞや? なかなか難しい話ですが、なるべく噛み砕いて説明します。まずは「空気的な連結」から。

鉄道車両に欠かせないのが圧縮空気です。ドアの開け閉め、ブレーキ、汽笛……など、車両のいろいろな場所で圧縮空気は使われています。「圧縮空気なくして列車は動かない」と言って差し支えないです。

たとえば、自動空気ブレーキというシステムを用いる車両だと、ブレーキ管という空気管を編成の一番前から最後尾まで通し、その中に圧縮空気を充填しなければいけません。

そのため、車両を連結したときには、ブレーキ管同士をくっつける、すなわち「空気的な連結」が必要になります。

「電気的な連結」とは?

続いて、「電気的な連結」を説明しましょう。

近年の車両には、情報を表示するモニターやディスプレイが多く装備されています。運転室で乗務員がピッピッ触っているようなものや、客室ドアの上にある「まもなく○○駅」と表示されるやつみたいな。

ああいうものを運用するためには、編成全体を電気回路的に繋げる必要があることは、なんとなく想像がつくでしょう。

それから、ブレーキの際にも電気回路が使われます。近年の車両は電気指令式空気ブレーキというシステムが一般的。運転士がブレーキハンドルを操作すると、電気回路によって編成全体に「ブレーキ掛けろ!」の命令が出されます。

ですので、ブレーキ用の電気回路は、編成の一番前から最後尾まで切れ目なく繋がっていなければいけません。

というわけで、車両を連結させる際は、情報モニターやブレーキ関係の電気回路も接続する必要があります。これが「電気的な連結」です。

空気と電気はどうやって連結させている?

では、「空気的な連結」と「電気的な連結」は、どのように行われているのか? みなさん、連結器の付近に、ホースみたいなのが複数あるのは見たことありませんか。

再掲

これらが空気・電気の連結に用いられるものです。実際にくっついている光景を見てもらった方が早いでしょう(↓の写真)。

オイ待て。↓のように連結器付近にホースみたいなのが無い車両もたくさんあるぞ。

実はこのタイプの連結器は、連結器自身に空気管・電気回路が組み込まれています。車両を物理的に連結したとき、同時に空気・電気の連結も行われるようになっているのです。

小さな穴があいているが、これが空気接続用の穴。穴は後ろの空気管に繋がっている

この部分が電気連結器。今はカバーが閉じているが、連結するとカバーが開いて内部の端子同士が繋がる

物理・空気・電気の3連結がワンタッチで行えるので、便利です。

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入換信号機や入換標識 「駅構内での移動」に使用する

みなさんは日常的に駅を利用する中で、いろいろな鉄道設備を目にしているでしょう。↓の写真のブツも、おそらく一度は見たことがあると思います。

これ、ちょっと大きな駅だと、わりとよく見かけるブツです。しかし、用途がわからない人がほとんどではないでしょうか。

今回の記事では、一般の人にとっては謎であるコイツの解説をします。

入換とは? 駅・車両基地内という場所に限っての移動

結論から言うと、冒頭の写真のブツは入換信号機または入換標識というものです。

「入換」という文言が出てきましたが、これは解説が必要でしょう。入換なるものを正攻法で説明すると難しいので、例え話でいきます。みなさんの「家」です。

みなさんは、自分の家の中でいろいろな場所に移動しますよね。リビングや寝室、風呂やトイレなど……。つまり、「家の中で」いろいろな部屋を行き来しています。

家の中という場所に限っての移動。鉄道でこれに相当するのが「入換」です。

駅や車両基地を「家」だと考えてください。駅や車両基地では、他の番線に車両を転線させています。みなさんも見たことがあるでしょうが、実はこれが入換という作業なのです。
(正確には、車両の連結や切り離し業務も入換に含まれるが、ここでは省略)

つまり鉄道には、列車が駅を発車して次駅に向かう「駅から駅への移動」もあれば、「駅構内という場所に限った移動」もある。後者を入換と呼ぶわけです。

「駅構内という場所に限った移動 = 入換」ではそれ用の信号機を使う

「駅から駅への移動」と「駅構内という場所に限った移動 = 入換」は業務目的がまったく別なので、同じ信号機を使うわけにはいきません。別々の信号機を用います。

駅から駅への移動では、いわゆる普通の信号機↓を使います。

家に例えるなら、玄関から出る or 入る──家への出入りに使用するのが↑の信号機といえますね。

対して、駅構内という場所に限った移動 = 入換では、入換信号機・入換標識を用います。「まだ入換しちゃダメ」つまり信号の赤に相当するのが↓の状態。

2個の表示灯が水平 = 赤

「入換してOK」つまり青信号相当なのが↓の状態です。

2個の表示灯がナナメ45度 = 青

某駅での入換風景

最後に、某駅での入換風景を載せておきます。「この列車は当駅終着で~す、車庫に入ります」でドアが閉められました。まだ入換開始時刻ではないので、入換信号機は「赤」のままです(↓図)。

2個の表示灯が水平 = 赤に相当

しばらく待っていると、入換信号機が「青」に変わりました(↓図)。運転士はこれを確認して、入換を始めます。

今から行うのは「入換」なので、上についている普通の信号機は赤のまま

車両は、ゆっくりと移動していきました(↓図)。なお、入換時の速度は25㎞/hまたは45㎞/hというのが一般的です。

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線路終端を守る番人? 安全側線緊急防護装置(EM)とは

鉄道の線路には、いろいろな設備が存在しています。信号機のように、一般の方でもなんとなく用途がわかるものもあれば、「コレなんだ?」と使い道がまったく想像できないものもあるでしょう。

今回の記事では後者、つまり一般にはその用途があまり知られていない線路設備を紹介します。

線路終端に設置されている安全側線緊急防護装置・EM

本記事で紹介するのは、安全側線緊急防護装置(読み方:あんぜんそくせんきんきゅうぼうごそうち)という設備です。写真をご覧いただきましょう。デジタル数字の「8」みたいな形をしている、黄色と黒のやつです。

安全側線緊急防護装置

拡大図

なお、安全側線緊急防護装置と長ったらしい名称で呼ぶのは面倒なので、現場ではアルファベットで略してEMと呼びます。EはEmergencyだとわかるのですが、Mは……。すみません、実は私も知りません(^^;)

本記事内でも、以降はEMと表記します。

このEMですが、安全側線という線路の終端に設けられるのが一般的です。ただし、安全側線とは何ぞや? を話し始めると長くなるので、そこは省略します。「EMは線路終端に設置する」と簡潔に覚えればOKです。

EMが倒れると周辺の信号機がすべて赤になる

このEMという装置の効果ですが──EMが倒れると、周辺の信号機すべてが赤になります。

「線路終端に設置してあるEMが倒れる」とは、どういう事態を想定しているのか?

たとえば、ブレーキが効かなくて列車が線路終端に突っ込んだ。これは超ヤバい事態ですよね。線路終端に突っ込む → 線路がないところにハミ出す → 隣の線路を支障 → そこに他の列車が走ってきて衝突。いわゆる二次災害ですが、これを防止するのがEMです。

列車が線路終端を突破したら、隣接線を支障するかもしれない

列車が突っ込んできたらEMは倒れます。それによって周辺の信号機(関係信号機)が全部赤になるので、付近の列車が止まり、二次災害を防止するという理屈です。

このように、事故が起きたときのセーフティ装置なので、普段から何かに使っているわけではないですね。

線路作業員が無意識に手を掛けてEMが作動した事件

ここで気になるのが、EMが実際に作動することはあるのか? ということですが、

ウチの会社でも昔あった

いや、列車が突っ込んだというヤバい事態ではなくて……。線路作業員が、あー疲れた、よっこらしょっと無意識にEMに手を掛け、それで傾いて作動してしまったという、しょーもない事件だったそうです。ずいぶん昔の話なので、私自身が遭遇したわけではないですが。

なお、EMこと安全側線緊急防護装置、ネットで検索すると、通称は「ねずみとり」だそうです。が、少なくとも私の職場では略称のEMで通っており、ねずみとりとは呼んでないですね。

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乗務員は「本日の行動プラン」に従って乗務する ダイヤが乱れたときは?

列車の乗務員は、乗務列車を好き勝手選んでいるわけではなく、「本日の行動プラン」に従って動いています。

○○運転士の今日の仕事。最初はこの列車に乗り、どの駅で交代して何分休憩、次はこの列車を担当、宿泊場所はどの駅……という具合に、乗務員ごとの行動プランがあらかじめ存在するわけです。

しかし、何かの原因でダイヤが乱れると、このプラン通りには動けなくなります。今回の記事は、そんな事態が発生したときのお話です。

【用語説明】乗務員の所属基地「区所」

本題に入る前に、用語説明をさせてください。

乗務区・運転区・運輸区・列車区・運転所etc

会社によって呼び方は違いますが、これらの用語は、車掌・運転士の所属部署のことです。乗務員の所属基地といってもよいでしょう。列車の運転という業務を直接担当する、現場の最前線です。飲食チェーンならば、店舗の厨房やホールといったところでしょうか。

以下は区所と表記します。

大きな鉄道会社だと、この区所が複数存在します。A線を担当するA区所、B線を担当するB区所、という具合です。C線はA区所・B区所の共同で担当、ということもあります。

ようするに、乗務員は自社の全路線を担当するのではなく、自分の区所が受け持つ線区しか乗務しません。野球でポジションが決められているように、乗務員にも自分が担当する“守備範囲”があるわけです。

ダイヤが乱れると乗務員の「本日の行動プラン」が狂う

さて、ここからがダイヤ乱れの話です。

列車は、ダイヤ(運転時刻)を決めただけでは動けません。ダイヤに車両・乗務員を「割り当てる」ことで初めて走行が可能になります。ダイヤ・車両・乗務員は三位一体なのです。

この、列車ダイヤに車両・乗務員を割り当てることを運用と呼びます。冒頭で書いた、乗務員の「本日の行動プラン」も運用の一環です。

しかし、ダイヤが乱れると乗務員運用が狂います。人身事故で列車が駅に止まったまま動かなくて困った、なんて経験が一度はあるでしょう。ああいうときは乗務員も足止めを喰って、乗務員交代するはずの駅まで行けなくなったり、予定していた休憩時間が取れなくなったり、ということが起きます。

つまり、乗務員の「本日の行動プラン」が狂います。

乗務員運用が狂うと運用指令が修正作業を行う

このように運用が狂った場合、放置はできないので、元々の計画を現在の運行状況に応じて修正することが必要です。

……と書くと難しいな(^^;) シフト制の勤務で働いている人、誰かが急病で休んだら、穴埋めのためにシフト表が変更されますよね。ああいうイメージです。

ダイヤ乱れ時に一番避けなければいけないのが、「車両はあるけど乗務員がいなくて列車を動かせない」という事態です。これやっちゃうと最悪。運転士から、「俺は準備できたけど車掌がいねーよ!」とか連絡が入った暁にはアウトです。

ダイヤが乱れていても、全列車に乗務員がキチンと割り当てられている状態をキープしないといけません。この割当作業の中心になるのが運用指令です。
(→運用指令とは何ぞや? についてはこちらの記事

ダイヤが乱れた場合、列車を運休させる、終点まで行かず途中駅で折り返させる、などの手配を行います。これは列車担当指令が決めますが、その決定内容に基づき、運用指令はどの列車にどの乗務員を割り当てる(乗務させる)かを決めていくのです。

細かい「肉付け」作業は現場の区所が行う

ただし、この作業を運用指令だけで行うのは苦しすぎます。この列車には犬塚さん、こっちの列車は猿原さんにしようか。この列車には雉野さんを乗せて……。ああっと、本人たちにも伝達しなきゃ……なんて具合でやっていたらパンクします。

ここで先ほど説明した「区所」という用語の再登場。実際には運用指令は、乗務員基地たる区所と連絡を取りながら捌いていきます。

「A区所さーん、この列車はあなたの所の乗務員を乗せてね。B区所さーん、この列車はあなたの所が受け持って。細かい手配は任せるわ。穴が開かないようにヨロシク」

運用指令は状況に基づき「骨組み」だけを決め、具体的な「肉付け」は現場の区所にブン投げる。木と森の関係でいえば、運用指令が森全体を見て、個々の木は現場の区所が管理。そういうイメージです。

骨組みプランを受領した現場の区所は、担当列車に誰を割り当てるかを決め、本人に伝達するなど具体的な手配を行います。

運用指令と区所の作業バランスは鉄道会社によりけり

というわけで、運用指令と区所の連携プレーで、ダイヤ乱れに対応することを紹介しました。

ただし、今回の話が全部の鉄道会社に当てはまるわけではありません。運用指令と区所の作業バランス(?)と言いますか、お互いがどこまでの作業を担当するかは、会社ごとに異なります。運用指令がかなりの部分まで踏み込んで決定・手配することもあれば、区所が中心となって作業を行う会社もあります。

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鉄道会社の「指令業務」を紹介 (2)技術系の指令

この記事は、『鉄道会社の「指令業務」を紹介 (1)運転・営業系の指令』の続きです。

前回の記事では、鉄道会社の指令という仕事について説明しました。具体的には、「一口に指令と言ってもいろいろな仕事がある」と書き、列車担当・運用担当・旅客担当・情報担当という4つの指令業務を紹介しました。

これら「運転・営業系の指令」は、元駅員や元乗務員が登用されます。対して、今回の記事で紹介する「技術系の指令」は、駅員・乗務員出身者ではなく、技術職種で入社した社員が務めます。

技術系の指令は、以下の3つに分かれているケースが一般的かと思います。

  • 電力担当
  • 信号通信担当
  • 施設担当

電力指令 電力の安定供給に努める

鉄道は、電力の供給が途切れたらアウトです。電気で走る電車はもちろん、駅構内には券売機や自動改札機、エレベーターなど電気で動く設備が盛りだくさん。

これらに必要な電力を途絶えさせないようにするのが、電力担当の仕事です。電力指令と呼ぶケースが多いです。

電力供給の管理だけではなく、工事の管理もします。架線の張替工事なんかがイメージしやすいですかね。また、夜間には「き電停止」といって架線への電力供給をストップしてから行う工事も少なくありませんが、架線への通電オン・オフを行うのも電力指令の役割です。

ずいぶん昔ですが、「間違い一つで人が死にかねない仕事」と聞かされたのが印象に残っています。たとえば、まだ工事が終わっていないのに、何かの勘違いで架線への電力供給を始めてしまったら……。感電事故が起きて大変なことになります。

列車の運転だと、誤って赤信号を見落としてもATSという保安装置が列車を止めてくれますが、電力の業務には、こうした保安装置がありません。人間の注意力頼みの怖い仕事ですね。

信号通信指令 電波関係や情報・通信回線を管理する

次に紹介するのは、信号通信担当の指令。信号通信という言葉は聞き慣れないでしょうが、鉄道会社における以下の設備を保守管理するのが仕事です。

  • 信号機
  • 軌道回路(→軌道回路とは何ぞや? はこちらの記事
  • 無線機
  • 踏切
  • ATSやATCなどの保安装置
  • CTCやPRCなどの運行管理システム

知らない言葉も出てきたでしょうが、説明は省きます。電波とか情報・通信回線とか、そういう関係の仕事とイメージすればよいでしょう。なお、信号通信と呼ぶのはメンドくさいので、信通(しんつう)と略すケースが多いです。

信号機故障で運転見合わせ、なんて事態に巻き込まれた経験のある人も多いでしょうが、ああいうときに復旧手配の指揮を執るのが信通指令です。

また、踏切の非常ボタンが押されたり、障害物検知センサーが作動したりしたときは、信通指令の監視モニターにも情報が出ます。私のような列車担当の指令員は、現場の乗務員から「いま踏切でうんぬん」と無線を受け、同時に信通指令からは「どこの踏切で何が作動した」と教えてもらうわけです。

施設指令 線路・トンネル・橋梁等を保守管理

最後は施設担当の指令。線路やトンネル、橋梁といった施設の保守管理をするのが業務です。工事の際には、他の指令と連携・調整して施工まで持っていきます。

自然災害が起きると、かなりバタバタしますね。大雨や地震で運転見合わせになった後は、係員が徒歩で巡回して線路点検しますが、これの采配を行うからです。私のような列車担当の指令とも、「どこからどこまでは点検終わった!」「この列車に点検の係員を乗せたいんだけど」のように、連絡や要請で頻繁にやり取りします。

鉄道会社の指令業務 チーム一丸となって円滑な運行を確保している

  • 電力担当
  • 信号通信担当
  • 施設担当

以上が「技術系の指令」です。で、前回紹介した「運転・営業系の指令」が、

  • 列車担当
  • 運用担当
  • 旅客担当
  • 情報担当

こうやって並べてみると、なかなか壮観ですね。これらの各担当指令員が連携し、チーム一丸となって鉄道の円滑な運行を確保しています。

たとえば、ゲリラ豪雨 + 雷が襲来してダイヤが乱れたケースを考えましょう。

遅れを収束させるために、列車担当が運転整理を行う。それに追随して、運用担当が車両や乗務員のやりくりを手配する。旅客担当は振替輸送の手配をしたり、駅や乗務員区所へ情報をバラまいたりする。情報担当は、運転状況を見ながらホームページやTwitterなどを随時更新する。

電力担当や信通担当は、雷を喰らっても被害が最小限で済むように備える。施設担当は、線路点検が必要な場合に備えて係員を手配する。

……とまあ、こんなイメージです。各々が独立して勝手に動くわけではなく、情報をやり取りし、必要に応じて要請し合う「横の連携」が大事になってきます。

駅員や乗務員と違って、利用者からは目に見えない指令という仕事ですが、列車の正常運行をキープするために、こんな感じで働いています。

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鉄道会社の「指令業務」を紹介 (1)運転・営業系の指令

鉄道会社の指令室。部屋の前面に運行状況を示すディスプレイ(路線図みたいなやつ)があって、現在の私は、ここで指令業務に従事しています。

この指令業務ですが、駅員や乗務員とは違い、何をしているのか外からは見えません。そのうえ、従事する人間がそもそも少なく、情報発信する人も稀なので、ますます世間には知られにくい。

乗務員の仕事を紹介した書籍はそれなりにありますが、指令業務に関する書籍は、指で数えられる程度。だったら俺の出番じゃあ、とばかりに今回記事を書いてみました(笑)

本記事で紹介するのは、指令員の「種類」です。一口に指令員と言っても、実はいろいろな仕事があり、職務ごとに分けられています。

  • 列車担当
  • 運用担当
  • 旅客担当
  • 情報担当

列車担当 列車の動きをコントロールする

まず紹介するのは列車担当。私の仕事はコレ。列車の動きを直接的にコントロールします。

代表的な業務は、ダイヤが乱れたときに元に戻すことです。臨時列車の設定、運休、行先変更、番線変更、発車や到着順序変更、退避や行き違い駅変更……といったあらゆる技を駆使し、ダイヤを正常に戻します。

専門用語では、これを運転整理と呼びます。

ダイヤを戻すためには、直通する他社の指令と連携しなければならない事態も多いです。お互いダイヤが乱れていると、電話がなかなか繋がりませんが……。運良く電話が繋がったときに、こちらの言い分を強引に相手に飲み込ませる技術が必要になります(笑) そのへんはお互い様ですけどね。

なお、ダイヤ正常時はヒマかというと、そうでもありません。ダイヤ乱れの“芽”はちょこちょこ転がっているので、それを見逃さず“芽”のうちに摘み取るのも大切です。また、関係部署と打ち合わせてイベントや試運転の臨時列車ダイヤを考えたり、工事(後述)の打ち合わせをしたり、資料を読んで勉強したりもします。

本当にボケーッとできる時間もあります。ぶっちゃけると、居眠りしている指令員も……(笑) ただ、これはあまり責められることではなくて、いつダイヤが乱れて休憩なしモードに突入するかわかりませんから、ヒマなときは体力温存しておくのも仕事のうちといえます。

「終電から始発までの間は何してんの? 寝てるの?」

夜間は線路工事が行われるので、それに対応します。もちろん、全員が一晩中起きているわけではありません。「早寝早起きの人」と「遅寝遅起きの人」に分かれて、交代で仮眠をとります。

単に「指令」というときは、この列車担当を指すことが多いです。呼び方は会社によってさまざまで、輸送指令・運輸指令・運転指令といった呼び方が代表的でしょうか。また、指令ではなく「司令」と表記する会社も。

運用指令 車両や乗務員をどう動かすか決める

続いて紹介するのは運用担当。

列車というものは、ダイヤ(運転時刻)を決めただけでは走れません。ダイヤに対し、車両や乗務員を「割り当て」て初めて走れます。ダイヤ・車両・乗務員は「三位一体」なのです。ダイヤに対して車両や乗務員を割り当てていくことを、運用と呼びます。

この、運用部分を担当する指令を運用指令と呼びます。

ダイヤが乱れると、車両や乗務員の運用が崩れます。乗務員がどこかで足止めを喰って戻れなくなるとか、連結予定だった車両が当該駅に到着しなくて増結できないとか、そうした不具合が発生します。

こんなときは、運用指令が車両や乗務員の動きをうまく調整・手配して、影響を最小限にとどめます。乗務員の所属基地と連携して、乗務員運用の再調整をしたり、車両基地に連絡して、臨時に使うことができる車両を調達したり。

その他、車両故障が発生したときに、処置を指示するのも運用指令の役割です。だから、車両の勉強会をやっていたりしますね。

列車担当指令と運用指令は揉めることが多い

で、一つ裏話をしておくと、先述の列車担当指令と、いま紹介した運用指令。

 ケンカが多いです

ダイヤが乱れると、列車担当の指令が運転整理を行うと書きましたが、どうしても車両や乗務員の運用が狂ってきます。車両・乗務員運用に大きく影響を及ぼす運転整理をしようとすると、運用指令は嫌がるんですね。手配が大変になるので。

列車担当「こういう運転整理で行くから、運用の手配は夜露死苦!」
運用指令「そんなにダイヤをいじられたら、運用がぐちゃぐちゃになるわ! フザけんなボケェー!」
列車担当「うるせぇ! ダイヤを正常に戻すのが先なんだヨォー!」

ダイヤを早く戻したい列車担当 vs 運用を狂わせたくない運用指令。ダイヤ乱れで気が立っていることもあり、こんな感じで揉めます。いや、ウチの会社だけかもしれんけど。

お客様目線だと、ダイヤを早く戻してほしいはずなので、列車担当の言い分が正しいと感じるでしょう。ただ、そんなに単純な話ではなくて……。

運用指令も楽をしたくて列車担当にケチをつけるのではありません。あまり運用を捻じ曲げると、乗務員の負担が大きくなったり、ダイヤ乱れ収束後に車両運用を再調整するのが面倒になったりします。それは避けたいわけです。

ようするに、お互いが自分の業務を全うしようとして衝突する。まあ仕方ないです。仲が悪いわけじゃないですよ。

旅客指令 振替輸送の手配や乗継の調整をする

話を戻します。次に紹介するのは旅客担当の指令です。

イメージしやすいのが振替輸送でしょうか。運転見合わせ時に、他会社の指令と打ち合わせて振替輸送の手配をします。終わった後に、振替乗車票を何枚配ったか、現場からの情報を集めて整理もします。

乗継の調整もします。A列車→B列車という乗継をする旅客がいるとします。A列車が遅れたとき、そのままだとB列車へ乗り継げない。こんなときは、B列車の発車を少し待つことがあります。A列車の乗務員を通して、旅客の情報を取得し、列車担当と打ち合わせB列車の発車を調整する。

ダイヤが乱れたとき、現場に情報をバラまくのも仕事。窓口で駅員に運行状況を尋ねると、いろいろ教えてくれますよね。ああいう案内のための元ネタを現場にバラまくのです。もっとも、次に紹介する情報担当の指令ができてからは、そういう役割は薄くなっています。

情報指令 ホームページなどの運行情報を管理する

最後に、情報担当の指令を説明します。

近年は、ホームページやTwitterで運行情報・列車の在線位置が見られるようになりました。また、改札口付近にディスプレイが設置されていて、そこにも遅れや運休情報が表示されますよね。

こうした部分を管理するのが、情報担当の指令。昔はこうした指令はなく、2010年代に新設した会社が多いと思います。まだ未設置の会社も少なくないはずで、その場合は、他の指令がこの情報担当を兼ねることになります。

ダイヤ乱れや運転見合わせ時の例を挙げると、今後の列車の動きを決めて → その情報を配信する、という流れになります。つまり、まず列車担当がどう運転整理するかを決めなければ、情報配信できません。

列車担当としては、運転整理でクソ忙しいときに、わざわざ情報担当に細かく情報を教えるという親切はやっていられません。だから、情報担当の方から「積極的に情報を取りに行く」必要があります。まだー!? この列車どうなるのー!? 教えてー! と催促するのですね。もうちょっと待ってくれ(笑)

「運転・営業系の指令」以外に「技術系」の指令もある

  • 列車担当
  • 運用担当
  • 旅客担当
  • 情報担当

一口に指令と言っても、いろいろな指令があることを理解していただけたと思います。ただ、すべての鉄道会社がこのように細かく担当を分けているのではなく、一つの指令が他の指令を兼務している例もあります。

鉄道会社の指令はこれで全部……ではありません。今回の記事で紹介したのは、「運転・営業系」の指令で、この他に「技術系」の指令も存在します。それは次回の記事で。

続きの記事はこちら 鉄道会社の「指令業務」を紹介 (2)技術系の指令

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